誰にも気付かれずに近寄っていた
「・・・・・少佐。「電磁波義兄弟」がやれたと連絡が―――――――いかがいたしますか、少佐?」
「・・・・・・すまない。少し待ってくれ。」
豪華な部屋の一室。
ベッドから上半身だけを起こしたまま、兵部はパソコンの声に応えた。
「・・・・(だんだん・・・・・効かなくなってくるな。)」
少しだけ苦しげに右手で胸を押さえ、痛みに耐えるように左手でシーツを握った。
ちらりと視界に入ったテーブルにある薬に兵部は思わず口元を上げる。
「大丈夫ですか?すぐに誰かをやりますが――――――――」
「それにはおよばないよ。」
兵部はゆっくりとベッドから抜け出し、素肌の上にバスローブを羽織り始めた。
「戦前から生きてるといろいろあるのさ。僕には他人のエネルギーを吸い取る趣味はないしね。」
バスローブの紐を閉めながら念動力でボトルからコップへと水を注ぐ兵部。
「あいつらのことは放っておけ。バベルが何をしても、我々の情報は引き出せん。僕のプロテクトは完璧さ。」
兵部は水の注がれたコップを手にした。
「彼らにはしばらくエスパー刑務所で休むように言ってくれ。必要な時にまとめて外に連れ出す・・・・・とね。」
「・・・・あの管理官が現れてから、脱獄は難しくなりましたが・・・」
「まーね。けど、不可能じゃないさ。」
手にしたコップの水を兵部は口にする。
「エスパー刑務所は、普通人に反感をもつエスパーの吹きだまりだ。厳重になればなるほど、外へ出してやった時、頼りになる戦士が生まれる。」
「少佐!」
「!」
「お話中すみませんーーーーーー!!」
PCの画面に新しいウィンドウが現れる。
そこに写ったのは、体型の逞しく筋肉質で上半身をベストだけの男。
「鋼の錬筋術師」
マッスル・大鎌
「ちょっとおもしろい情報を入手しましたァァァーーーー!ご覧くださいーーーー!!そしてあたしをホメてホメてーーーーーン!」
兵部は飲んでいた水を吐き出した。
顔色も少しだけ青い。
「・・・・また気分が悪くなったようだ。お前、聞いておいてくれ。」
「・・・・はい、少佐。」
「あ・あああア〜〜〜〜〜ン!?どうしてなの、少佐ァアーーーーーーッ!?」
兵部は念動力でPCの電源を落とした。
そのままベッドに腰掛け、小さく息を吐く。
「・・・・・・・・こーゆー時に、なんで僕を呼ばないかなぁ、」
「・・・やあなまえ。よくここがわかったね。」
部屋の暗闇から姿を現したなまえに兵部は力なく笑う。
なまえは無言でベッドに居る兵部へと近寄った。
その表情は、何かを抑えるように堅かった。
「・・・・僕は、予知能力者だよ、」
「・・・お見通しって訳か、」
兵部の目の前に立つなまえの顔は、悲しげだった。
眉を寄せて、軽く肩を上げて兵部は自嘲気味に答えた。
「京介の不調ぐらい、・・・・すぐにわかるんだから。」
なまえはそっと、兵部の首に抱き着いた。
そして静かに目を閉じる。
「・・・・先になんて、いかせないよ。」
「いやだなあ、そんなことしないよ。」
くすりと力無く笑う兵部。
兵部には見えないように、なまえはそっと涙を流した。
「エネルギーぐらい、僕があげる。こんなにいっぱいあるんだもん。」
「っ!、やけに密着してくると思ったらそういう事か。」
少しだけ落胆した兵部の声になまえは埋めていた顔を上げて兵部を見つめた。
「ダメ?」
「・・・・そういうなまえこそ、脳細胞ボロボロだぜ?」
「僕はいいの、・・・・僕は、」
「よくなんてない。」
そっと目を逸らしたなまえを兵部は体を反転させて、ベッドへと押し倒した。
ベッドの軋む音と共になまえの顔に驚きが広がる。
「君は、わかってない。」
「・・・何を?」
「・・・・・君がそこまで自分のことを犠牲にするのは、あの予知が関係してるんだろ!?」
「!」
兵部は本気で怒っていた。
それに気圧されなまえは肩を縮こませる。
しかし兵部は表情を悲しげなものに変えると、なまえの肩に顔を埋めた
「好きなんだよなまえ。」
「・・・・京介?」
一転して弱い声の兵部。
なまえは戸惑った。
「頼むから、自分も大事にしてくれ。・・・・僕が生きていても、なまえがいないなら、意味がない。」
「京介、」
「君は僕の、僕ら唯一の花嫁なんだから――――――――」