蹄の跡
「これが―――――数日前、某山中で発見された、旧日本軍の超能力実験施設だ。」
バベルの巨大なモニターに写る写真。
山の斜面の中に隠れるようにしてあるレンガの建物。
「内部には動物実験用と思われる小型の密閉カプセルがあり――――――」
モニターが切り替わり、新たな写真が写される。
錆びれた部屋の真ん中にあるカプセルが幾つか並び、周りには実験に使われたであろう機械がある。
「ほとんどの動物は白骨化していました。ただ・・・・・・」
「ひとつだけ、調査官が開けると、中から何かが飛び出したカプセルがあります。」
「!!実験動物が生きてたんですか!?」
局長を引き継ぎ手元の資料を見ながら柏木は言った。
驚きの声をあげたのは皆本だ。
「60年以上も生きてるなんて――――――いくらエスパーでも、そんな化け物じみた・・・・・」
「化け物?」
思わず声を零した皆本の台詞に戦前生まれの不二子が反応した。
「あ、いえ・・・・なんでも・・・・・」
皆本が慌てて口を塞ぐが、それも効果はなかった。
「おしおきっ!!」
「むっ・・・やっ・・・・・!!」
皆本の右手を掴み、顎を掴み、不二子は唇からエネルギーを吸収した。
皆本の抵抗も全く意味はない。
「そこっ!!セクハラしない!!」
「動物の種類も能力も不明ですが―――――ひとつわかっているのは、かなり危険な生物ということですわ。」
柏木はモニターを指す。
モニターはまた写真が切り替わり森の中で、破壊されたテントや車、ボロボロの飛行機、そして崩れ落ちた人が数名写っている。
「つまり・・・次の任務はそいつの探索と保護を・・・?」
「うむ。ただし、今回は別のチームを指揮してもらう。」
ぐったりと床に伸びて、上から不二子に跨がられた皆本。
エネルギーを吸い取られたせいか顔が青白い。
「俺たちの指揮を担当して欲しいんですよ。皆本さん。」
「!!」
「久しぶりーーーーっ!!」
突然部屋に入って来たのはザ・ハウンドだ。
「「ザ・ハウンド」・・・・・!!まだ担当が決まらないのか?」
「特殊な能力のため、単独の任務が少なくてネ。それに今回は相手の正体がわからん。彼らの信任の厚い君ならどうかと思ったんだが――――――」
「「チルドレン」の方はご心配なく。留守中は私が責任を持ちますから。」
局長に続いて柏木に畳み掛けるようにそう言われ皆本が肯定的な態度を見せる。
「ま・・・・まあ、そういうことなら・・・・・ただ・・・・・・・・」
「!!イヤか!?イヤなのか!?お前、初音と明、嫌いかっ!?」
口元に手を当て言葉を詰まらせる皆本。
それまでおとなしく肉を食べていた初音が目を光らせて野獣化し始めた。
「初音、「ダメ」!!わかるか!?「ダメ」よ!!」
「い、いや、そーじゃなくて!!」
必死に初音を止める明。
皆本は慌てて否定すると、不二子に向き直った。
「例の武器、もう、携帯しなくていいんですよね?」
「も〜〜〜〜皆本クンってばあ〜〜〜〜〜」
不二子は頬に人差し指当てて可愛いらしく笑う。
「そんなわけないでしょっ!?常に持っとけ!」
「あうっ!」
「あんたのために極秘開発中の試作機、ムリ言って借りてんのよ!?」
天井と床交互に不二子の念動力で叩きつけられる皆本。
不二子の表情は先程とうって変わって鬼のようだ。
「初音も参加していいかっ!?初音、小動物いじめるの大好きっ!」
「よい子は管理官のマネはやめようネ!?」
皆本を見てうずうず嬉しそうにする初音は局長に尋ねる。
局長は少し困ったように初音に怒った。
「皆本さんたちなんの話をしてるんすか?」
「さあ・・・・?」
不思議そうに明は柏木に尋ねるが、柏木も首を傾げた。
「(管理官、僕が見せられた予知のことは知ってるんでしょ!?あれが、どういうものか―――――ごぞんじないんですか!?)」
地面に倒れながら、不二子を睨み訴える皆本。
「知ってるわよ、もちろん。でもさ〜〜だからこそ、あんたはあれを持つべきなのよ。常にね。」
「・・・・・・!?」
皆本の思考を読み取った不二子。
口調は少しだけ苛立っていた。
皆本は言葉の意味を確かめるように不二子を見ていた。
「あとさー、さっき不二子のこと化け物って言ったけど」
「言ってません!」
さっきより不機嫌そうに言う不二子。
「同じことよ。あれ、なまえの前で言うのはやめなさいね。あの子、ただでさえ今脆いんだから。」
「なまえが・・・・・?」
「(しかも最近行動が怪しいのよねー。男ができた、って言うと正しいけど、)」
不二子の脳裏に白髪の学生服を来た青年が浮かぶ。
「(なまえに男ができたって言うとあいつしか思い当たらないのよねー。・・・うざいけど。)」
「はっくしゅっ!」
「大丈夫?」
なまえは心配そうに兵部の顔を覗きこむ。
「平気だよ、・・・・・(まさか不二子さんだったり、)」
鼻を押さえながら兵部は返す。
「そんな格好してるからだよ。ちゃんと服着て寝なよ。」
「・・・・・・(さっきと全然態度変わってないか・・・・?)」
兵部は自分のバスローブを見て苦い顔をしいる。
なまえは兵部を振り返ることなく、帰る支度を始めた。
兵部の口元は引き攣っていた。