そしてまた出会う

「ただいまー。」

「お、早いやん。」



リビングへと現れたなまえの元へ駆け寄る葵。

ビニール袋を葵に手渡すと、なまえは脇に抱えていた本を薫の前に出した。



「ついでに図書館で百科辞典借りてきた。」

「ナイスなまえ!」



差し出された本を受け取りパラパラとめくり始める薫。

その顔は好奇心に溢れている。



「多分げっ歯類だと思うよ。」

「私もそう思うわ。」



箱の中で丸くなるげっ歯類の横に、葵はなまえが買ってきたひまわりの種を置く。

しかしげっ歯類はそれの入った皿に反応もせず、ぴくりとも動かない。



「あと、マントみたいなのがあるから・・・空を飛べるげっ歯類だから、」

「モモンガかしら?」



二人の言葉通りに図鑑をめくる薫。

その手があるページで止まった。



「これだ!まちがいない・・・!!」



開かれたページには空を飛んでいるモモンガの写真と、子供にわかりやすいような簡単な説明が並んでいる。

薫の頬は興奮のせいか、僅かに赤くなった。



「かなり弱ってるわねえ。」

「ひまわりの種に反応しないなんて・・・。」

「もう食べる気力もないみたいやで?」

「どーすりゃいい?」



困った表情の薫は紫穂に尋ねる。



「ストローで砂糖水とかあげてみる?」

「はい。」

「サンキュー。」



なまえは砂糖水の入ったコップを薫に手渡す。



「よーし・・・!!」



薫を砂糖水を一口含むとげっ歯類を両手で掬い上げ、ストローで砂糖水をあげた。



「・・・・!!」



しばらくすると砂糖水に反応し、げっ歯類はストローを手で掴みながら砂糖水を飲む。



「おーっ、ほんはほんは!!」

「かわいーー!」

「いやーん!!手ェ使うてるやん!!」



嬉しそうな薫と可愛いさに悶える紫穂と葵。

なまえだけ静かに口を開く。



「あー、でも気をつけてね。」

「えぇ、血糖値上がってアタマがはっきりしてきたら、この子――――――」

「!!」



ぱっちりとげっ歯類が目を開き薫を見つめた。

その瞬間だ。



「うあッ!!」



思いっ切り噛みついたのだ。

指に噛みつかれた薫は堪らず叫ぶ。



「ダメ!!ガマンしてっ!!人間を怖がってるのよ!!」

「ここが馴れるかどうかの分かれ目だから・・・」



紫穂となまえに宥められて口を閉じる薫。



「ふぐっ・・・!!」



しかしなおもげっ歯類は薫の指を離さない。



「・・・・・・・」

「・・・・・・・」



薫はジ○リの○の谷の某少女と同一視をした。

げっ歯類と分かり合おうとしたのだろうか。



「(お・・・・おびえているだけなんだよネ?怖くないヨ・・・・・・!!)ホラ、――――――もう痛くない・・・じゃなくて、痛い・・・いや、怖くない!?」



歯を食いしばりぷるぷる震える薫。

限界がきそうな時、突然げっ歯類が指から口を離した。



「・・・・・キュー。」

「やったわ!!」

「◎×△□※〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「よっしゃ、薫!」



笑顔で喜ぶ紫穂。

片手で口を押さえる薫を連れて葵は瞬間移動していった。



痛えーーーーーーーーッ!!



ベランダの方を見上げてなまえは苦笑した。



「キュ?」

「大丈夫。気にしないで。」



笑顔でげっ歯類にひまわりの種を渡す紫穂。

なまえはちらっとげっ歯類を見てからリビングに背を向けた。



「なまえちゃん?」

「僕はちょっと寝るよ。」

「皆本さん出張だから今日は朧さんだけど・・・・。」

「用事があったら起こして。テキトーに、起きるからさ。」



なまえはリビングのドアを開く。



『オ前モ同ジナノカ―――――』



ピタリと不自然になまえの動きが止まった。



「・・・・・僕は、違う。ただの―――卑怯者だ。」

「なまえちゃん?」

「薫が、痛がるなら起こしにきて。治癒してあげるよ。」

「えぇ、」



不思議そうな紫穂を残してなまえはリビングを出た。

げっ歯類は真っ直ぐになまえを見つめていた。

2018.01.22

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