苦しみの序章

『「カオル」カラ――――離レロ、人間・・・・・・!!』

「!」



寝室で眠りについていたなまえは頭に響いた思念波にベッドから跳び出た。



「・・・・・桃太郎!!(始まった―――――できれば始まって欲しくなかったけど、)



緊迫した表情のなまえは、薫と朧の居るリビングへと瞬間移動していった。




















「!!これ・・・空気のカタマリだ・・・!!」



念動力で桃太郎の攻撃を防いだ薫は驚いた。

凄まじい風邪がリビング内を駆け巡る。
はたはたと薫の体を覆うバスタオルがはためいた。



「念動力の一種・・・!!」

「桃太郎がやったんか!?」



爆音を聞き付けて風呂場から瞬間移動してきた葵と紫穂も驚いた。

ちなみにこの二人もバスタオルである。



「薫ちゃん――――――!!と、とにかく何か着ないと!!」

「そ・・・そんな場合じゃないけど・・・そーいやそーだねっ。」



困ったように笑いながら、薫のバスタオルの端を持ち上げる朧。

苦笑いの薫。

なまえは静かに一歩踏み出した。



「桃太郎は僕が抑えておくからさ。着替えておいでよ。」

「サンキューなまえ!」

「よっしゃ!!ちょっと待ってて!」



なまえが念動力で地面に桃太郎を抑えつけた。

葵は薫の言葉を聞くなり瞬間移動。

おそらく服を取りに行ったのだろう。



「・・・・・、」



その間、なまえはじっと桃太郎を見つめていた。
表情は何かが欠落しているかのように、からっぽだった。

葵が再び瞬間移動で現れる。



「ほいな!」

「ありがとう、葵ちゃん!」

「三人とも、早く着替えなよ。風邪なんかひいたら大変だから。」



パジャマに着替えた葵は、紫穂と薫の分を差し出した。

なまえはそう言って薄く笑う。



「せっかくお風呂入ったのに台なしだわ・・・・。」



薫より早く着替え終わった紫穂はそう零す。



「まぁ、それよりリビングのほうが一大事だよ。」

「確かにそうね・・・・、」



ちらっと、部屋をみたなまえ。
朧もつられてリビングを見渡してため息をついた。

ガラスや家具はぐしゃりと崩れ、無傷なものは殆どない。



「みんなッ!無事かッ!?」

「あ、皆本たち・・・・・」



勢いよくリビングに飛び込んできたのは皆本率いるザ・ハウンド。

しかし、厳しい皆本の表情も念動力で体を浮かしながら着替える薫の姿を目にいれるとみるみる緩んでいった。

薫はパンツを穿いただけで、首からタオルを掛けた状態のまま、固まった。



「!!」

「・・・・あーあ。」



皆本と明の顔が赤く染まる。

初音はそんな明を冷めた目でみた。



「あ・・・あれ?」

「き・・・きゃーーーーーーーッ!」



首に掛けたタオルで胸を隠し、悲鳴共に薫は念動力で皆本と明を吹っ飛ばす。



「今の、皆本さん―――――!?」

「なんでここに・・・いや、それより、何が「きゃー」やねん、今さら!」

「あんた自分から見せたりするじゃない!?」

「そーいや・・・・いやでも、それとはちょっと違うっつーか・・・」



目を大きくする朧。

呆れる葵と紫穂に、薫は少しだけ恥ずかしそうに弁解する。

さりげなく家具に隠れて先程の攻撃を防いでいた初音が顔をだした。



「それより姐さん!!動物のエスパー来てないか!?」

「いるよ。あそこに。なまえが抑えてるけど――――こいつのこと知ってんの!?」

「あー・・・・・薫、ちょっと変わってくれない?」



桃太郎と抑えていたなまえが困ったように声をあげた。



「いいけど、どーした?」

「明くんと、皆本、・・・・・回収しに行かなきゃ。」

「「「「「あ。」」」」」



薫の念動力でベランダから飛んでいった二人のことを忘れていたのか、皆一様に間抜けな声を出した。

2018.01.22

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