彼女の主張、彼の主張
「・・・・実験動物!?ひどい・・・・・!!戦争のために無理矢理エスパーにされたの・・・!?」
「・・・戦時中のことだからね。世界中の国で同じことが行われてたんだ。」
「・・・・どの国の、誰もが追い詰められていたんだ。人間、追い詰められればなんでもするよ。」
ボロボロの皆本は、掌に乗せた桃太郎を見つめながら悲しそうに答えた。
桃太郎はなまえの催眠能力によって気を失っている。
皆本は横目でなまえの様子を確認した。
なまえは無表情であった。
今にも溢れそうな何かを抑えているようにも、皆本には見えた。
「で、どうするの!?桃太郎、この先どうなるの!?」
「彼は空気をミサイルのように撃ち出す能力があるようだ。・・・・かわいそうだけど、危険すぎて、このまま飼うわけにはいかない。バベルで保護して、厳重な管理下に置くほかないだろう。」
「そんな・・・人間の都合で―――――!!」
「皆本―――――!!なんとかしてくれるよね!?」
「・・・・・・・!!」
真剣な顔でチルドレンに見つめられて皆本は唇を噛み、ぐっと、苦虫を噛んだような顔をした。
「無理言わないで薫ちゃん。この場合はこうするしかないわ。皆本さんを困らせないで。」
「でも・・・・・・・!!」
静かに諭す朧に食い下がる薫。
皆本は懐から注射を取り出して、キャップを歯で挟み、針を取り出した。
その皆本の顔に苦悶が広がる。
「これも仕事なんだ。とりあえず薬で眠らせて、本部に――――――」
「!!」
そこで、注射の気配を感じとった桃太郎が目覚めた。
「ぐわっ・・・・・!!」
「きゃ・・・」
突如頭を揺さぶられる。
紫穂は冷静に叫ぶ。
「思念波攻撃よ!!落ち着いて!!こんな高出力、長くはつづかない・・・・・!!」
『ヨクモ―――――ダマシタナ・・・・「カオル」!!』
「!!」
桃太郎の言葉に薫は酷く傷ついた表情になる。
『オ前モ敵ダ!!僕ヲダマシテ捕マエタ・・・・!!』
「違う、桃太郎・・・・!!あたしは―――――」
「!!」
「薫、あかん!!力抜いたら――――――」
桃太郎へと意識の逸れた薫は、桃太郎を抑えなくなる。
念動力から解放された桃太郎は皆本の掌から飛び上がり、攻撃の準備を始める。
「シャーッ!」
「!!」
「皆本さん!!」
「あ、!」
突然のことに体の動かない皆本。
明が走り出す。
桃太郎から放たれた空気。
明により突き飛ばされる皆本。
「が・・・っ!!」
「あ・・・明君!?」
「ア・・・明ーーーーーーーッ!?」
桃太郎の攻撃は明へと直撃。
明の口からは苦しそうな声と、血がこぼれる。
「まだだ。」
「!!もう一発まわりこんで来るわよ!!」
一直線に部屋を駆ける桃太郎の攻撃になまえと紫穂が反応する。
部屋に響く初音の悲痛な叫び。
皆本は床に倒れこんだ明の容態を確認する。
「明ッ!!明ーーーーッ!!」
「肋骨をやられてる!!すぐに救急車を――――――」
「・・・・・・!!」
薫はただ呆然と立ち尽くす。
背後からは桃太郎の攻撃が迫る。
「薫ちゃんうしろ!」
「あのアホ・・・!!」
ただ立つだけの薫を葵が瞬間移動で助ける。
しかし、移動した先で眼前に桃太郎の攻撃が。
「瞬間移動先に追尾して・・・!?予知能力もあんのか!コンマ何秒か先を見越してるんや!!ってことは――――――」
葵はじっと攻撃を見つめる。
「ギリギリまで、ひきつけてから――――――」
「葵ちゃん!!」
「逃げろ、葵!!」
「、」
「分離テレポート!!」
葵は攻撃が通過する寸前に薫と分離してテレポートする。
二人の間を攻撃がすり抜ける。
『人間メ・・・!!人間メ・・・!!人間メ・・・!!』
「あいつ次の弾を用意してる!!今のうちにしとめな―――――」
「待って!!桃太郎は悪くないんだ!お願い、葵!!これ以上は――――――」
「薫・・・・あんた――――」
必死に叫ぶ薫に葵は困った顔をした。
「!!」
「よくも、明を――――――ッ!!」
野獣化して桃太郎へと襲い掛かる初音。
「!!」
次の攻撃のために空気を溜めるのを止め、初音の攻撃を避けた桃太郎はガラスのないベランダから外へと逃亡した。
「まずいわ、外に・・・・!!」
「!」
「小動物で明のカタキ!!いぢり殺ーす!!」
狼の姿から、鳥へと姿の変えた初音は桃太郎を追って同じくベランダから飛び出していった。
「ちょ・・・・待って、初音!!あたしが行くから―――――」
「ダメだ!!」
「!」
走り出す薫の腕を、皆本が掴む。
薫は訝しげに立ち止まる。
「追跡には僕が行く。君たちは残って明君のそばについてろ!」
「それなら朧さんが―――――」
「言う通りにしろ!!この先は――――君たちに見せたくないんだ・・・・!!」
「!!」
声を荒げたかと思えば、苦しそうな表情をする皆本。
「人間にケガをさせた以上―――――もう僕らには選択の余地はないんだ。あきらめてくれ。」
「!!」
「!(何・・・・?あの銃・・・?)」
はだけた懐から見えた見慣れない銃に、紫穂は一人目を細めた。