きずあと
「桃太郎を殺すの!?最初にあいつをエスパーに改造して利用しようとしたのは人間なのに・・・・!!」
「・・・・・・!!」
「・・・わかって、薫ちゃん。危険な動物を放置するわけにはいかないの。私たちだってつらいけど、これも仕事なのよ。」
「朧さんまで・・・・!!なんでだよ・・・・!?」
諭す朧に、薫は叫ぶ。
表情は今にも泣きそうだ。
「これがライオンやトラだったら、お前だってしょうがないと思うだろ!?」
「ちがう!!皆本は普通人だからそんなことが言えるんだ!!自分がライオンやトラだったことがないから・・・・・!!」
「!!」
皆本が悲しみと驚きに目を開いた。
薫は涙を流しながら言葉を続ける。
「「大丈夫、心配しなくていい」って―――――言ってくれないの・・・!?「何もかもうまくいく、僕にまかせろ」って・・・・・!!」
「・・・・・・!!・・・・・・・・すまん。」
不安げに見つめるチルドレン。
皆本は言葉を捜すかのようにもごもごと口を動かした。
そこでずっと黙っていたなまえが動いた。
「・・・・・仕事なら、なんでも許されるの?危険なら、そんなやつには選択肢なんて最初からないの?」
「なまえ、?」
「・・・・・社会はいつだってそう。邪魔物を排除さえすればいいと思ってる!!」
ゆっくりと皆本の方へと歩いてきたなまえは俯いていた顔を上げた。
瞳からは涙が溢れ、絶え間なく零れていく。
不意に風が吹いて、なまえの額があらわになった。
「!!」
「銃、痕?」
「僕の立場を知っているなら、この傷口が何を意味しているかもわかるよねっ!?」
驚愕に顔を歪ませる皆本に、なまえは声を荒げる。
「仕事なんて―――――軽々しい言葉で片さないでっ!!!」
「ちょ、何を!?」
「え・・・・?」
なまえが片手を上げたかと思えば、次の瞬間には皆本と朧はリビングの壁に埋まっていた。
「・・・・・明君は僕が治療しておくよ。だから行っておいで。」
「・・・・さんきゅ、なまえ。」
薫たちはそう言って静かにリビングから飛び出していった。
なまえはその後ろ姿を見送ってから、明の傍へ膝をついた。
そしてそっと明の胸のあたりへ手を置くと治癒能力を発動。
「なまえ!わかってるのか!?これじゃ完全に反乱だぞ!?」
「・・・なまえちゃん。」
「・・・・知ってる。」
明へと、顔を向けたままなまえは答える。
壁に埋まっている皆本や朧からは俯いているなまえの表情は見ることはできない。
彼女が今何を考えているかなど。
「・・・皆本さん。俺のケガ・・・・なかったことにすれば、なんとかなりませんか?」
「明くん、」
「明君・・・・!!しかし―――――――」
「俺・・・・能力であのモモンガの体、奪おうしたけど、ガードが堅くて失敗しました。でも、その時、あいつの感情も伝わってきて・・・・」
「桃太郎はもともと研究員に育てられていたの。・・・・凄く懐いてた。」
「なまえさんの言う通りっす。裏切られて、すっげー怒ってる。でもそれって、まだ人間に愛着がある裏返しじゃないですか!?」
「・・・・・!!」
明からそっと手を離し、じっと地面を見つめるなまえ。
話すのが辛いのか、明は一息つく。
「薫ちゃんがうまくやればまた人間を信じるかも―――――・・・俺の方はこんくらいのケガ、しょっちゅう初音に負わされてるんで・・・・いてて。」
「大変だな。君も。だが―――――――それでも、あんな動物を放置できないよ。(わかってる。あいつらは、あのモモンガと自分を重ねてるんだ。だからって、僕に何ができる!?一般人の安全だって守らなきゃ―――――――!!)」
苦悶の表情の皆本。
なまえはピクリとも動かない。