はみ出し者
「京介!!」
薫の叫びは、桃太郎の攻撃の音により掻き消されていく。
攻撃に辺り、ぶらりと体を浮かせる京介の姿に薫の目には涙が溜まる。
「(よく見ておくといい、坊や。エスパーの心を受けとめられるのは――――――同じエスパーだけなのさ・・・・・!!)」
「京介ーーーーーーッ!!」
「・・・・大丈夫よ、女王。少佐なら心配いらないわ。」
「でも、このままじゃ京介が―――――――」
大きな目を涙で揺らしながら、薫はマッスル大鎌へとどなる。
マッスルは静かに攻撃に当たり続ける兵部へと目を移した。
「いいえ、少佐はこんなことで死んだりなんかしないわ。だってあの人は―――――――」
「・・・・・・・ちょっと・・・しつこくない?」
兵部はゆっくり伏せていた顔を上げた。
苛立ちの色を滲ませながら。
「キィッ!」
「いいかげんに気がすんだらどうだ!?このチビッ・・・!!しまいに殺すぞ、コラ!!」
片手で軽々と攻撃を跳ね返した兵部は、完全にキレていた。
あちこち血管が浮き出ている。
「あの人は――――――ものすごく飽きっぽいもの。ね?」
「・・・・・・」
薫の目からは涙も引っ込んだ。
マッスルも若干苦笑いである。
そんな外野を他所に兵部は桃太郎へと反撃を始めた。
「昔のことでグチグチと!!いつまで怒ってんだ、ああっ!?」
「キーッ、キーッ。」
桃太郎の顔を両手で左右へ引っ張る兵部。
「少佐がそれを言っちゃ・・・・」とマッスルが困りながら言うが兵部の耳には届いていない。
「だいたい殺す相手が違うだろーが!!下等動物がーーーーーーー!!」
勢いよく兵部は桃太郎を蹴飛ばす。
呆れた展開に下にいる皆本たちも唖然としている。
「ウルサイ!人間!!」
「だーーーーーーっ!!」
桃太郎もやられぱなしではなく、兵部の人差し指へと渾身の力でかぶりついた。
叫ぶ兵部。
「やり返す!!」
「キー!?」
逆ギレするような兵部が黙っているわけなく。
人差し指にぶら下がる桃太郎のしっぽへとかぶりついた。
『ハナセ、コノ野郎ッ!』
『断る!お前が先にはなせ!!』
『イーヤ、オ前ダ!』
『お前だ!』
お互いにかぶりついたまま精神感応能力で子供のような口喧嘩を続ける一人と一匹。
「戦いが膠着状態に入ったようね。」
しかし、もはや桃太郎は超能力を使う気もないらしく。
兵部も殺すつもりはないのか、ひたすらしがみついている。
「少佐!もうよろしいんじゃなくて?一応気持ちは通じたみたいじゃない!」
「・・・・・・・」
「そろそろ面倒なのが来そうよ。このコたちのお友だち連中が――――――」
マッスルはビルの間を走ってくるサイレン音のほうを見た。
尻尾を加えたまま兵部はマッスルに答える。
「ほーはな、ひひはへふは。(そーだな、引き上げるか。)」
『おい、チビ。君も来い、どーせ行くとこもないんだろう?』
「(・・・・・・・)」
「桃太郎・・・・・!!」
『「カオル」・・・・・・』
薫は優しい眼差しで桃太郎を見た。
と、兵部は何かに気づく。
「!!」
「・・・・・そういうわけにはいかない!!」
「皆本さん!!」
「!!皆本――――!?」
マッスルの能力で固まっている子供達の横で兵部に向けて皆本は標準を合わせていた。
「超能力は関係ない!!そのモモンガはともかく、お前は殺人犯だ!!逮捕するためならこいつを使うぞ!!それに―――――なまえはどうした!?あいつはお前を追っていったはずだぞ!!」
表情に若干の迷いのある皆本の銃は―――――不二子に手渡されていた熱線銃だ。
兵部はくわえていた桃太郎の尻尾を吐き出す。
「・・・・だろうね。僕らは社会の脅威だからな。だが、それは誰のための社会なんだ?」
「君にできるのはそいつを振り回して不幸をひとつ増やすことぐらいさ。僕のところに来る以外に、こいつに幸せになる方法があると思うのか?なまえだってそう思うから、僕の後をついて来たんだ。」
「・・・・・・!!」
「かまわないぜ、撃てよ。そのコたちに見せてやれよ。世の中からハミ出した者がどうなるのかを・・・・・!!」
「・・・・・!!くそっ!!」
固唾を飲む子供達。
皆本は苦々しげに歯をくいしばる。
「(あいつは話をすり替えてるだけだ!!超能力以前にヤツは犯罪者なんだ・・・!!なのに―――――――なぜ撃てない!?)」
苦しそうに皆本は目をつぶる。
「ねえ、薫。」
「!」
兵部は固まっていた薫を片手で解放した。
「こいつは僕が引き取るよ。それで構わないね?」
「・・・・・・うん。・・・・・いろいろごめんね、桃太郎。」
『・・・・・「カオル」、アリガトウ。』
桃太郎は自分が噛んでしまった痕へ小さな手を置いた。
ばんそこうの張ってある場所を見、礼を言う桃太郎。
『君ノオカゲデ新シイ子分ガデキタヨ。』
「子分?」
兵部に片手をつく桃太郎。
子分発言に兵部は目を細めた。
『オ前ガ先ニ放シタカラナ!ボクノ勝チダ!』
「ほおーっ、こいつぁーいいや!!」
「・・・・・お願い、かわいがってやって。」
桃太郎を鷲掴みして両手で握り潰そうとする兵部。
その顔は本気である。
薫は困った顔だ。
「(桃太郎が幸せでいられるなら――――――――あたしも大丈夫って気がするから。なんでかな・・・・・・・。なあ、なまえ、お前もそーだろ――――――――)」
「・・・・・、」
どこかのビルに横たわるなまえの体がぴくりと動いた。