交わり、衝突する
「逃げるのがちょっと悪かったわよ。兵部京介!!」
「・・・やあ、久しぶり、不二子さん。」
瞬間移動で兵部の前へ立ちはだかる不二子。
兵部はマッスルを庇うように左手を伸ばし、口の端を上げて笑う。
「なんで僕がいるとわかった?例によって「女のカン」かい、不二子さん。それとも・・・・・・なまえの予知?」
「ふん!皆本クンや「チルドレン」の周囲には、あなたのESP波を探知して知らせるアラームが仕掛けてあるのよ。」
スマートフォン位の大きさの探知機を見せる不二子。
それの上部には親指ぐらいの兵部人形が「ヒョーブセッキン!」としきりに言い、画面にはALERTと表示され、警報が鳴り続ける。
「あなたを拘束します。抵抗するなら殺すわ。おとなしく捕まる気が少しはある?」
「ないね。もうごめんだ。10年前と違って、外でやりたいことが多いから。」
「少佐に手は出させないわよッ、女狐!!」
「!」
兵部の後ろから前に出て不二子と対峙するマッスル。
目を細めて構える不二子。
兵部は不二子に不穏な雰囲気を感じ、マッスルへと忠告した。
「よせ!鋼――――――」
「ビィィィーーーーーーーーッグ、マグナァァアーーーーーーーム!!」
マッスルの下半身から勢いよくエネルギーを放出させる。
ちなみに「ビッグ・マグナム」とはマッスル大鎌の全ESPパワーを、股間・・・・ヘソの下の丹田に集め、一気に放出するというやや下品な大技である。
そのすさまじいエネルギーはあらゆるものを硬化させ、防ぐことも不可能。
迫る攻撃に不二子は、ひらりとかわした。
「ただしあたんなきゃどうってことないのよ!」
マッスルの丹田目掛けて、蹴りを入れた。
その場にグシャッという何かが潰れたような音が響く。
想像を絶する痛みにマッスルは頭を抱えて叫ぶ。
「なぜアタシの体はオトコなのーーーーーーーッ!!?」
「サイズや硬さにこだわる男は嫌いよ。」
不二子の見下した目は落下していくマッスルを見送った。
さすがの兵部も顔を真っ青に染める。
桃太郎に至ってはガタガタと震えて兵部にしがみつく。
痛みを想像したのかもしれない。
『コイツ・・・・男ノ敵ダ!!』
「ああ、まったく、ひどいことするな。あの熱線銃を坊やに持たせたのも君だろ?タチが悪いにもほどがある。」
「未来を変えるためよ!あなただって私と同じことを望んでいるはずよ!?あのコたちを救いたいって・・・・・!!」
不二子の表情が、切なげなものになる。
兵部はズボンのポケットに手を突っ込むと一つ息をついた。
「ちがうね。君が目指すハッピーエンドは実現不可能だ。君はできもしないことを望んでる。あの坊やもそうだ。だから悲劇が起こる。」
兵部の余裕そうな顔から、苦しそうな色が滲む。
「早いうちに、それに気づいた方が、みんなのためなんだよ。・・・・なまえだってそれに気づいてる。だからこそ、彼女は予知に関しては口を開かないだろう?」
「いいかげんにしてよ!!何十年同じ議論をさせる気!?皆本クンはあの男とは違う!薫ちゃんもあなたとは違う!なまえだって・・・あなたとは違うのよ!」
不二子の脳裏を、ある男がかすめた。
それは戦前、三人の上司であった男である。
「いいや、同じだ。わかってないのは君だ。」
怒鳴る不二子に全く同時ない兵部。
むしろ、その姿には余裕すら感じる。
「ちがうっつってんでしょ、このガキ!!ちょっとは成長したらどーなのよ!!」
「君に言われたかないね!!」
「もういい、わかった!!これで終わりよ!ケリをつけてあげる!!」
不二子が、光を放つ。
その余波によって、建物のガラスにひびが入り、自販機などが飛ばされてゆく。
全身から不二子は殺気立っている。
『キョースケ、気ヲツケロ!』
「タメ口でアドバイスかよ?僕は光速エスパーか?このケガじゃ、ちょっと不利だな。」
不二子を見る兵部の表情は苦かった。
すると不二子が姿を消し、兵部へと攻撃を開始する。
不二子の念動力と兵部の念動力がぶつかりあう。
「このッ・・・!」
不二子は兵部に向けて念動力の塊を放つが、兵部は瞬間移動で回避。
「(攻撃が以前より鋭くなっている・・・・・・!!さすが不二子さんだね。)」
兵部は人差し指を横へ鋭く払う。
不二子は危険を察知して上体を後ろへ倒した。
通過した攻撃は不二子の後ろにあったビルの上の巨大な看板を半分に割る。
「ちっ!」
崩れる看板から避けるようにさらに上へ瞬間移動する兵部。
瓦礫を背に、不二子は念動力で駆け出す。
「動きにキレがないわ!今ならやれる!!」
「!!」
不二子は兵部へと瞬間移動した。
握った手首と、触れた場所から不二子へ奪われる兵部の生体エネルギー。
「よせよ。エネルギーならもっと若い奴から吸えばいいだろ。がっつきすぎだぜ?」
「お黙り!!」
苦笑いする兵部の手首を握る手に、不二子が力をこめる。
「!!」
まばたきの間に、捕まえていたはずの兵部が消えた。
「・・・・ダメだよ不二子ちゃん。」
背後から聞こえた声に、不二子は勢いよく振り返る。
「なまえ!!」
そこには、ぼんやりとした表情で兵部を庇うなまえが居た。
「ただでさえ京介は―――――棺桶に片足突っ込んでるんだから丁寧に扱わないと。」