消えない消せない、
「・・・・・・・・・なに、これ。」
なまえは手渡された段ボールの中身を見つめた。
心なしか顔は青い。
不二子は満足げに笑う。
「任務に必要なのよ。今度、全国で一斉超能力検査があるでしょう?もちろん、それにはバベルが中心になるから。」
「・・・・まさか、」
段ボールから目を離そうとしないなまえからは、とめどなく汗が流れている。
なまえは震えていた。
「なまえは今、不二子の命令には逆らえないのよ。というわけで・・・・皆本くんと賢木くんと一緒に検査の手伝いしてきてね。」
「・・・・・チルドレンの情報を、漏らさないために、って、こと?」
「そうよ!念には念を入れてって訳で、なまえには看護師として検査を手伝ってもらうわよ!」
なまえは呆然と段ボールにあるナース服を見つめた。
不二子の表情は非常に良いものだ。
好きな子をいじめる小学生みたいである。
「実際に着る意味ないじゃんか!どうせ20歳くらいに見えるように催眠かけるんだから、同時に服ぐらい催眠能力でなんとかなるよ!」
「でも着てたほうが催眠能力の負担も減るし・・・・。」
「僕は超度7の催眠能力者だよ!!」
「・・・・もうっ!!我が儘言わないのっ!!」
「うわっ」
抵抗するなまえに焦れた不二子は念動力で地面に押さえつけようとするが、察知していたなまえは瞬間移動能力で避ける。
不二子はそれに唇を尖らせた。
「いいじゃない!たまにはこーゆー服着たって〜」
「嫌だっ!何が悲しくて60過ぎてからナース服着なくちゃいけないんだよ!!」
「小学生やってるくせに何言ってるの!見た目若いんだし大丈夫よ!」
珍しく声を荒げているなまえ。
「僕は不二子ちゃんや京介みたいに若作りしてないもん!!超能力が勝手にやったんだ!」
「わ、若作りって失礼ね!不二子だって自然の「他人のエネルギー吸い取ってるくせに!」
「そんなこと言うと―――――」
「!」
「お仕置きするわよ!!」
瞬間移動能力でなまえの背後に回る不二子。
不二子に捕まる前になまえは一旦しゃがみ込んでから念動力で体を不二子から離す。
「とにかくっ!僕は絶対にそんな服なんて着ないから!!」
「たまには姉の言うことぐらい聞きなさい!!命令に逆らうつもり!?」
スタートした超能力合戦。
バベルの狭い一室で、二人ともフルに超能力を使い縦横無尽に駆け巡る。
もちろん超度7相当がぶつかり合うので部屋が無事な訳がなく。
辺りを警報が駆けた。
「何をしてるんだあんた達は!!」
「「ごめんなさい。」」
部屋に皆本の怒鳴り声が反響している。
腕を組み仁王立ちする皆本の向かいには、正座の不二子となまえが。
二人とも先程と打って変わり、肩を縮こませている。
「恥ずかしくないんですか管理官!?いい歳にもなって・・・!!」
「不二子、年齢に関して言われるのは好きじゃなくてよ!?」
「大人って意味です!」
迫力のある皆本の表情に不二子も口を閉じる。
破壊された部屋の瓦礫が落ちる音がした。
「・・・・なまえも、服ぐらい任務なんだから我慢しろ。」
「・・・任務と関係ないでしょアレ。」
「だとしても、最近のお前の行動は、政府も気にし始めてる。・・・・何も言われないのが管理人のおかげであるくらいわかるだろ?」
ため息をつく皆本に、なまえの口は固く結ばれた。
「・・・・なまえ。」
「・・・皆本は何もわかってないよ。」
ゆっくりと立ち上がり出口へと向かうなまえ。
その足どりはしっかりとしたものだった。
「話はまだ・・・!」
「・・・そんなんじゃ、未来なんて変えられない。京介には、一生太刀打ちできないよ。」
通り過ぎようとしたなまえの腕を掴んだ皆本の手は、ほんの数秒で弾かれた。
弾かれ、地面に尻餅を着いている皆本。
なまえは落胆したような、静かな瞳で皆本を見下ろした。
「・・・服も着るし、今後はちゃんと指令にも命令にも逆らわない。けど、・・・・・僕は未だ、政府を許してなんかいない。」
「なまえ!!」
「・・・・不二子ちゃんは凄いよ。皆の為なら自分の憎しみを捨てられたんだから。けど、僕は、忘れたことなんてない。」
なまえは去って行った。
静まり返った部屋に、沈黙を残して。