憂鬱な午後

「次の子入ってねー。・・・ってなんだ薫か。」

「なまえ!?な、なにそのコスプレ!!」

「コスプレゆーなっ!」



全国一斉EPS検査、当日。

20代前半くらいの女性に扮するなまえの姿を見つけた薫は、いつもの如くなまえに飛びついた。

完全にオヤジ化している薫になまえは顔を赤く染める。



「いいから座る!まだまだ待ってる子居るんだから!」

「はーい。」



なまえに促された薫は部屋の中央にあるテーブルの側にあるパイプ椅子に座った。

向かいにはデータを取るためのパソコンを操作する賢木がいる。



「ま、安心しろ。俺もあのコスプレには興奮したから。」

「なまえのコスプレに反応しない男は男じゃねぇーよ!」



いやらしく笑う賢木と薫になまえは顔を引き攣らせた。

小学校でする会話ではない。



「・・・ほら薫、大人しくしてよ。」

「わりーわりー!」



なまえはバンドのような物を薫の頭に装着し、両頬に吸盤のような機械を貼付けた。



「じゃあ質問を始める。「カタツムリがカミソリの刃の上を這っている」「君はカミソリを使いたい」「どうする?」」

「あたしが?そんなこと言われてもな―――――あたし、まだムダ毛処理の必要とかないし、カミソリなんか使わねーだろ。」



困ったように考えてから、うっしゃしゃっとオヤジのように笑う薫。

賢木は困り顔をつくった。



「超能力中枢の働きを調べるためのただの質問だ。いいから答えて。」

「んーーーーー「何もしない」そんなカミソリ気持ち悪いし。」



計器が測定を始めた。

すると数分もしない間に、けたたましく全計器それぞれからブザーが鳴り始め、パソコンの画面には大きくLEVEL7と表示される。

計器はどれも針やメーターが限界まで動いた。



「(・・・すげぇ・・・・・!!全計器が計測不能になるほどのパワーだ・・・!!)」



賢木は改めて感じた薫の力の強さに生唾を飲み込む。



「えーーーーー「超度2」です!特に問題ありません!」

「わー、よかった!」



賢木はパソコンのボタンを押しながら。

薫はバンドを外しながら、下手な芝居をした。

誰も居ないので疑問など浮かばないが。



「じゃ、次の人――――――――」

「はーい。・・・・・・・」



なまえがあけたドアから薫と入れ違いに入ってきたのは紫穂だった。

紫穂は賢木を見ると微妙な表情になった。



「じゃ、まずは最初の質問。「今つきあってるのは秘書課の子だ」」



賢木の肩に手を置いた紫穂が透視した。



「質問すんのは俺だ!!」



思わず賢木は叫んだ。

それに軽くため息ついて、紫穂は賢木の向かいに座った。



「・・・別にあたしたちの検査なんか必要ないじゃない?「超度7」って知ってるでしょ。」



紫穂は心底面倒に思っているようだった。

それに賢木はニヤリと笑った。



「その秘密が漏れないようにわざわざ俺たちが検査に来てんだ。ついでだから比較サンプルとして「チルドレン」のデータも取っとけってさ。」

「僕なんてそのために任務としてこんなことしてるんだから。」



紫穂の頭にバンドを取り付けながらなまえはため息をついた。

紫穂はなまえを励ますかのように笑いかけた。



「あら、でも似合ってるわよ。ナース服。」

「嬉しくないよ・・・・・。」



なまえは静かに肩を落とした。

紫穂は賢木へと目を移すと、僅かに眉をひそめた。



「それに、一斉検査って好きじゃないわね。まるで魔女狩り。人間を品定めして選んでるって感じ。」

「たしかにな・・・・幼児の時から強力だったお前らと違って、俺がこっち側に来たのも、この検査がきっかけさ。」

「・・・・・そうなんだ?」



ペットボトルの水を飲む賢木を紫穂は純粋な驚きで見た。



「賢木先生!ちょっと・・・!!」



皆本は少しだけ慌てたように教室に入ってきた。

その手には一枚の紙を持っている。

紫穂はさっきとは打って変わって嬉しそうに笑った。



「皆本さん!」

「どした、「皆本先生」?」

「・・・・・。」

「低学年の方、ちょっと代わってくれないか?気になる数値の児童がいるんだ。」



皆本は手に持っていた紙を賢木へと渡した。



「わかった。じゃ、こっちは頼むよ。」

「あ、それと・・・・・・。」



椅子から立ち上がる賢木へと皆本は近寄った。

賢木は怪訝な顔をしながら皆本の口元に耳を寄せる。



「(薫の様子、どうだった?前回の件、もう根に持ってないかな?)」

「(別に、普通だよ?ま、俺の経験から言うと、女ってそーゆー時が一番怖いけどな。)」

「・・・・・・・・そ・・・そうか。」



けっけっけっと悪戯っぽく笑う賢木。

皆本は顔を青ざめた。



「気にすることないのに。」



皆本を透視した紫穂。



「軽く透視した限りじゃ、表面的にはもう怒ってないわよ、薫ちゃん。」

「・・・・・・密談に参加するなよ。」

「「表面的には」ってのが怖いなあ。」



皆本は紫穂を見て苦笑いをした。

端から見たら変な光景である。



「・・・・賢木先生、もう行ったら?」

「あ、ああ。(・・・・・まぁ、俺はなまえちゃんの方を気にした方が良いと思うんだけどなー。)」



紫穂に真剣に相談する皆本を置いて、なまえは賢木を促した。

皆本が担当していた学年の検査が詰っていると思ったのだろう。

賢木は大人しくでていった。



「・・・・・(聞こえてるよ、先生。)」



なまえは静かに息を吐いた。

2018.01.22

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