あのこのこころ
「・・・・あの子?」
「そうだ。河村タケシ。君らの学校の三年生だ。」
マンションの屋上から、帰宅途中の男の子を皆本たちは見下ろしていた。
「任務ってほどのこともないんだが――――――彼の監視を頼みたい。局長の許可はもらってある。」
「・・・・・なんでまた?あの子、なんかやらかしたんか?」
「いや、別に問題があるわけじゃないんだ。」
葵の質問に皆本は困ったように答える。
「ESP検査の結果が妙でね。数値が異常に高いのに、反応は陰性・・・・要するに、「超能力の発動しないエスパー」の可能性がある。」
「ただし・・・・潜在能力は超度6以上、しかも波形が不安定で、いつ能力が発動するかわからない。」
賢木の言葉に薫は声をあげた。
「それ、事故でよくあるケースじゃん。なんかのきっかけで爆発しちゃうんだ。」
「うん。子供にはよくあることでね。そのままエスパーになる子もいるし、パワー放出後、普通人に戻る子もいる。いずれにせよ、ヤマ場はこの数日だな。万一の爆発に備えて、しばらくついてて欲しい。」
「こっそり?」
男の子・・・・河村タケシを観察しながら紫穂は尋ねる。
皆本は答えながら、懐の携帯を取り出す。
「できればその方がいいな。」
「了解。」
「よし、それじゃ―――――特務エスパーチーム「ザ・チルドレン」、解禁!」
「よしっ!行くぜっ!!」
「あら、どうしたのなまえちゃん?」
「ダブルフェイス。」
本来なら学校に通っているはずのなまえの姿を見つけたダブルフェイス。
声を掛けられたなまえはゆっくりと足を止めた。
「今日は学校には検査の手伝いで行ったから、報告書とか諸々をね。」
「そういえばこの前、その件で管理官と大喧嘩して皆本さんに怒られてたわよね。」
奈津子は数日前の騒動を思い出して笑った。
あの時は大変だったと、ほたるも吊られて笑う。
「あれは不二子ちゃんが悪いんだよ・・・・。結局着たし。」
先程まで着ていた服を思い出してなまえは顔を歪めた。
ダブルフェイス更に笑う。
「・・・もーう。僕行くからね。」
「ごめんなさいね。」
「報告書頑張ってねー。」
「あのさー。お前、なまえちゃんに何言ったんだよ。」
「え、?」
静かな車内には賢木の声はよく聞こえた。
チルドレンはターゲットである河村タケシと接触中なため普段よりも静かなこともあって。
「検査ん時、お前が来た途端一言も喋んなくなったんだぜ?」
「・・・・・いや、なんていうか・・・。」
気まずそうにあらぬ方向を見ている皆本。
賢木は一つため息をついた。
「管理官が起きたばっかの時のこと覚えてるか?」
「僕が、「ザ・チルドレン」の指揮官を外されたことか?」
皆本は賢木を横目で見た。
賢木の表情はいつもと変わらない。
「そう。あん時、チームを外されたのはお前だけじゃなくてなまえちゃんもだったろ?」
「あ、あぁ。」
突然なんだろうか。
皆本は戸惑いを隠せなかった。
「この頃、なまえちゃんが様子がおかしいのに気付いたか?」
「いや、変かなーと思ったけど・・・・その2つの何が関連してるのかよくわかんないんだけど・・・・・・・」
「大有りだ。」
やけにしっかりとした声音に、皆本は賢木をまじまじと見つめた。
「いいか。・・・・・なまえちゃんは明らかに兵部に惹かれてる。」
「う、な!?」
「現に一度、兵部の元へ行ったじゃねーか。・・・・結局は戻ってきたけどよ。つまりだ。俺が思うに―――――――なまえちゃんは未だに過去に捕われてる。」
皆本は、ふとこの間なまえに言われたことを思い出した。
確かに、なまえは言っていた。
『・・・服も着るし、今度は指令には従う。命令にも逆らわない。けど、・・・・・僕は未だ、政府を許してなんかいない。』
『・・・・不二子ちゃんは凄いよ。皆の為なら自分の憎しみを捨てられたんだから。けど、僕は、忘れたことなんてない。』
「・・・・・言われた。」
「んな重要なことも忘れてたのかよ。」
賢木の呆れたような声音に、皆本は頭を抱えた。
「おそらく、なまえちゃんが今まだバベルのは「ザ・チルドレン」が居るからだろ。もしかしたら、パンドラの・・・・兵部の元へ行っちまうのもそう遠くないんじゃねーのか?」
「そんなこと・・・・・!!・・・僕はどうしたらいいんだ、」
皆本の悲痛な声は車内でとけて消えた。
賢木は難しい表情で口を開く。
「・・・・俺の推測だけどさ、なまえちゃんもさ・・・・自分を見失いかけてるんじゃねーのか?」
「自分、を?」
「聞いた話じゃ、辛い過去を経験したんだろう彼女も。」
現在の社会状況から言って、世間の超能力者に対する風当たりは強い。
特になまえや不二子、そして兵部の生まれた時代は今以上に厳しいものがあった。
ほとんどの超能力者は過去になにかしら傷を抱えている。
それは賢木やザ・チルドレンも例外ではない。
「自分を失いかけてるなまえちゃんにとって、過去を共に過ごしたっていう兵部や蕾見管理官は彼女の支えになっているんじゃねーのか?」
「・・・・。」
「お前は管理官に教えて貰ったんだろ?なまえちゃんの過去をさ。」
賢木はそれっきり口を開かなかった。
皆本はなまえへと自分がしてやれることを考え始めた。