少年Tの心
「今月は予知出動も多いね。・・・・・一週間後の午前10時頃。○×市の山のふもとで土砂崩れ。原因は3日前からの豪雨。この影響はこの辺り一帯に及ぶ。・・・・それから、△□市の橋の崩壊。時刻は午後13時頃。原因は老朽化で―――――――――」
なまえの声に合わせて、忙しなくペンが動く。
「・・・・残りは予知課で大丈夫。予知の対策だけ練っておいて。それなら予知課の予知スピードでも間に合う。」
力を抜いて、椅子へと体をもたれ掛けるなまえ。
部屋の隅にいる局長が、口を開いた。
「・・・・・素晴らしいの一言だネ!」
「えぇ。やはり、確実さ・スピード・細かさ・・・・何から何まで、他の予知能力者とは一線を引きます。」
「流石は超度7だヨ!」
なまえの底知れぬ予知能力に、局長と柏木はごくりと喉をならした。
「(・・・・予知能力は、好きじゃない。自分の言った予知にはその分だけの責任がある。政府は「昔から」僕の利用価値を予知能力だと認識してるし・・・・・。)予知能力さえなければ、」
ぽつりと呟くなまえ。
それに返答などあるはずもなかった。
「あ。局長、」
「ん?なんだねなまえくん?」
怠そうに、なまえの目が開く。
「あと10分もしたら皆本から連絡くると思うけど、橋にクレーンが突っ込むから・・・・それの、応援部隊、作っておいたほうがいいよ。」
「なっ!?柏木くん!」
「了解致しました!」
局長は驚きに目を開くと、柏木に命じた。
柏木は素早く反応し無線でいづこかへと連絡を始めた。
「・・・・今日のペナルティーはこれだけだよね?」
「ああ、そうだヨ!」
「僕も薫たちの応援へ向かうから―――――」
それだけ言うと、なまえは瞬間移動した。
「あんたが「すごい」って言って欲しいのは、ホントにあたしたちや友だち・・・?なんでそんなムキになって自分の能力アピールすんのさ?」
「・・・・・・!!そんなこと――――!!」
薫は真っ直ぐにタケシへと視線を向けている。
図星なのかタケシは顔を赤くして声を荒げた。
何かが、激しく折れるような音が辺りに響き渡った。
音は近くの橋の方向からだ。
「「え!?」」
「あ・・・!!」
葵が異変にいち早く気づく。
「船が・・・・・!?」
「ヤバ・・・・・・・!!橋が崩れる!!」
「え・・・!?」
川を渡っていた巨大な船の上にあるクレーンが橋に食い込んでいた。
橋には大きくひびが入り、いつ崩れても可笑しくない。
「橋はあたしが支える!!葵、今のうちに人を橋の上から移動して!」
「了解!!」
薫は直ぐさま念動能力で橋を支え始めた。
葵が薫の言う通りに瞬間移動しようとした時。
「あ・・・葵ちゃん、あれ!!」
「!!」
橋の上のトラックが暴走し、乗用車に激突して横転。
トラックの後ろのタンクに入っていたオイルが橋の上でぶちまけられた。
三人の顔が一斉に青くなる。
「まずい!!オイル―――――!!」
「火がついたらおしまいよ!?」
「ダメだ・・・!!橋の方で手いっぱい――――――!!」
薫は支えていた橋が軽くなったのに気づいてタケシを見た。
「ここは僕がささえてる!」
「で・・・・でも、あんたのパワー、いつまでもこんなには―――――――」
「だから早く!!」
タケシの超能力は覚醒したばかり。
今こそ超度6相当の力がでているが、それもいつ消えても可笑しくない。
しかしタケシの顔を見た薫は、橋の上へと自分を持ち上げた。
「・・・・・わかった!!しばらく頼む!!」
薫がトラックを持ち上げ、葵が人を輸送する。
それが終わるまではと、タケシは歯を食いしばった。
「ぐ、うううう・・・・・っ!!」
「頑張る子は好きだよ。」
「え、?」
タケシは不意に聞こえてきた声に目を丸くした。
自分の首に回された手で、声の主が背後に立っているのに気づく。
そして、何か優しい力が自分に流れてくるのを感じた。
「ちから、が、」
「特別サービス、だよ。これでしばらくはそのパワーが続くはず。」
背後を振り返ったタケシに女の子、なまえは微笑んだ。