それは単なる思いつき
「・・・・・・・新年会?」
「そうよ!」
くしゅっとなまえの可愛いらしいくしゃみ。
両手を胸の前で握りしめ不二子は子供のように頬を真っ赤にしてなまえを見つめる。
実際、考えてることは子供のようであっても可愛げはないのだが。
「不二子が起きて半年ぐらい経つし、交流も含めて、ね!」
「・・・別にいいんじゃない?」
なまえは念動力でティッシュを引き寄せて、これまた可愛いらしい音で鼻をかむ。
どうやら風邪を引いたらしい。
「呼ぶのはチルドレンたちと交流のあるメンバーだけにしようと思うの。」
「いーんじゃない?」
なまえはぼんやりと天井を眺めながら答える。
余程怠いのかズルズルとソファーを滑り落ちていく。
不二子は瞬間、眉にシワを寄せた。
なまえの態度が気に入らなかったらしい。
「ちょっと!ちゃんと聞いてるの!?」
「・・・聞いてる。」
「貴女も参加するんだから、もう少しリアクションしなさいよ!」
頬を膨らませて不二子が拗ねたように話す。
なまえはちらっと不二子を見てから少しだけ眉間を暗くして、口を開いた。
「それさ、・・・・・・「あの別邸」でやるんでしょ。」
「ぎくっ!!」
なまえに冷めた目で見られた不二子は急に視線を天井へ向けた。
図星らしく、母親に悪戯がバレた時のような罰の悪い顔をしている。
「あそこは蕾見男爵亡き今、所有権は一人娘の不二子ちゃんに継承されたしその辺の文句は言わないけど・・・・・。」
「・・・・・、」
「・・・・別邸には行くよ。でも僕は新年会には参加しないからね。」
「・・・・・薫ちゃんたちは?」
「・・・・ちょーど風邪引いてるし、部屋で休むってことにしとく。」
話はもう終わったとばかりに、目を閉じて体を完全にソファーに沈めたなまえを見て、不二子は部屋を出て行った。
不二子にしては珍しく、少し反省しながら。
部屋の扉が静かに閉まる。
「・・・・自分が死んだ場所なんて、訪れたくないじゃん、」
なまえの頬を伝う感情を、知る人など居るはずもなかった。
「そうだろ京介―――――――――」
「お!なまえおかえりー!」
「おかえりなさい。」
「おかえり!なんやえらい早かったやん。」
「ただいま。別に大した話じゃなかったから。」
リビングへと瞬間移動で現れたなまえを迎える薫達。
真っ先に首へ飛びついてきた薫をよろめきながらも受け止めてなまえは口を緩めた。
「てっきり何か任務の話かと思ってたのよ。」
「んー、まぁ話してもいいかな。」
どうせ言うんだし、と呟くなまえ。
それに素早く反応したのは薫だった。
「なになに?なんか良いこと!?」
「新年会、やるんだって。」
「「「新年会ぃー?」」」
三人の言葉が綺麗に揃った。
「そ。不二子ちゃんの別荘で、バベルの人たち呼んでやるんだってさ。」
「バベルの人たちって?」
「僕らが知ってるよーな人だけって言ってたから安心していいんじゃない?」
そう、とだけ答えて紫穂はまた雑誌へと視線を戻した。
おそらく知らない人ばかりいるようなパーティーが嫌だったのだろう。
紫穂は知らない大人に警戒心高いからなーとなまえは苦笑いした。
「ばーちゃん主催ってことはご馳走期待してええってことやな・・・・!」
「あたしらが知ってる人って、ことはナオミちゃんとか朧さんも・・・・!!」
「薫ちゃーん、欲望が口から漏れてるわよー。」
なまえはそれに少し眉を寄せて笑った。
どこか寂しさを感じさせる笑みだった。
「じゃあ、僕行かなきゃ。」
「なんや任務かいな?」
「違うよ。・・・先に別荘行って、やることあるからさ。」
「へー。手伝いかなんか?」
「まぁそんな感じ。荷物詰め終わり次第出るから。」
「えー行っちゃうのかよー。」
「またすぐ会えるよ。」
なまえはぶぶー文句を言う薫たちを背にリビングを後にした。
「(馬鹿だな、疎外感だなんて。あの子たちは何も悪くないのに。)」
時々何故か訪れる感情に、なまえは一人ため息をついた。