怪我の功名ってやつ?
全員が長方形のテーブルに座ると、テーブルの端(いわゆる誕生日席)に居た不二子が立ち上がる。
「では皆さーん、去年一年ご苦労さま。今年もよろしくねーーーーーー!今日は無礼講でいきましょーーーーー!!」
グラスを持ちながら優雅に不二子は笑う。
同時に鳴り響く硝子同士が当たる軽やかな音。
「屋敷は古くてあんまり使ってなかったけど・・・・掃除はしたから好きに使ってね。部屋はたくさんあるし、大きなおフロもあるのよ。」
グラスのワインを一口含むと不二子は意味ありげにウィンクをした。
「あと、この建物はESP対策仕様になってるから、プライバシーも万全よ。つまり―――――酔ったいきおいでマチガイがおきても、よくってよ!」
室内にピンク色を含んだ妙な雰囲気が流れた。
肉にがっつく初音とそれを止める明だけは別だが。
「「「管理官!!」」」
「冗談よ。」
真面目な大人組の皆本と柏木と局長に怒鳴られて不二子は苦笑いだ。
チルドレンと谷崎は考えた。
「「「(それは、つまり―――――)」」」
「(「攻めろ」というのですね。今夜は!!)」
谷崎の目の色が変わった。
横に座ったナオミはすぐにそれに気がついた。
ナオミは側にあったワインに何かを素早く混ぜた。
「はい、主任。」
そしてそのワインを谷崎のグラスへと注ぐ。
ナオミは微笑んでいる。
「おお、気が利くねっ!!さすが―――――」
「・・・・・」
「ブホゥ!?」
「攻撃は最大の防御ですよね!」
泡を吹く谷崎を尻目にナオミはステーキを切りにかかった。
「なぁなまえちゃん。」
「・・・・・・・・はい?」
ぼーとグラスを眺めていたなまえ。
賢木はそんななまえを見て、自分のグラスを置いてからなまえの額に手をあてた。
「あー、やっぱりな。熱あるじゃねぇか。」
「・・・・ばれた?」
「ばれたも何も、いかにも風邪引いてますーって顔に書いてあんぞ。」
額から手をどかすと賢木の手はそのままなまえの頬をつまんだ。
「ひ、ひひゃいれす。」
「風邪引いて心のガードも甘いぜ?・・・・・ここ居んの辛いんだろ?言っといてやるから部屋で寝てろ。」
「・・・・・はひ、」
なんだか珍しく見透かされたな、と思いながらなまえは引っ張られた頬を撫でる。
地味に痛いらしい。
「まったく、皆本も気づけよなー。」
「あぁ、僕が先に屋敷に来てたから気付かなかったんじゃない・・・?悪化したの此処来てからだもん。」
「まぁ雪山の中だからな。暖かくしとけよ。」
「・・・はぁーい。(ラッキーかな。部屋に引きこもれる都合できた。)」
良い子の返事をして、なまえは自分で瞬間移動した。
なまえが消えたことに気づいたのだろう、向かいの席に居た皆本が首を傾げる。
「賢木、なまえは?」
「なまえちゃんなら体調悪いから部屋で休むってよ。」
「まじ!?」
「一人で大丈夫なん!?」
「末摘さんに頼んどいたよ。」
「先生それ医者としてどうなの。」
毒づく紫穂に賢木は大声をあげる。
「大丈夫だっつってんの!それに、(ありゃ、そっとしていた方が良さそうだしな、)」
一瞬だけ垣間見えたなまえの複雑な心を、賢木は思い出した。
「それに、なによ?」
「なんでもねーよ。ガキは黙って食え!」
「・・・・・(むかつく)。」