居るはずのない人間

ギシギシと廊下が唸る。



「たしか皆本さんたちの部屋はこっち―――――さっきの話サイコメトラーとしては放っとけないわ。話題にされて記憶が鮮明になってるうちに、透視んどかなくちゃ!」



そろそろとばれないように廊下を進む紫穂の目がある一室で止まる。

微かに開いたドアの中はひび割れたガラスと、もう何十年も誰も使っていないと思わせる部屋の惨状が見えた。



「・・・・にしても、古くてフンイキある家ねえ、今にも何か出そうな――――私こういの苦手なのに・・・・」



紫穂の頬を汗がながれる。



―ギシッ ガタッ



「!!」



背後からの物音に、ゆっくりと紫穂は振り返る。



「だ、誰!?なまえちゃんなら部屋だし、女の人はみんなおフロのはず――――――」



搾り出した紫穂の声は震えていた。

すると、突然暗闇から、顔が浮かび上がる。

何か液体で濡れた紫穂よりも二周りほど大きな顔が。



「!!(だ・・・・誰でもない!?)」



紫穂の目が涙に揺れる。



「きゃあぁああああーーーーッ!!」



紫穂は勢いよく顔に背を向けて走り出す。



「だ、誰なのよぉおお!!」



曲がり角に差し掛かった時、正面の壁に角の影が写る。

角から誰か来るようだ。

壁に写っている影が、どんどん大きくなる。



「だ、誰・・・!?」



カツン、と歩みが止まった。

角から顔を覗かせたのは少女だった。

胸ほどまである長い黒髪を揺らしながら首を傾げている。

不思議そうに紫穂見つめるその顔に紫穂は勿論見覚えなど無かった。



「貴女だあれ?」

「ひぃ、あ・・・・・」

「にゃ?」



恐怖が限界に達したのか、紫穂はその場に崩れ落ちてしまう。

困ったように少女は周りを見てから、また来た道を戻って行った。




























「見つかった!?」

「ええ、でも―――――」

「何があったのか、かなりショックを受けてるみたい。」



柏木の言葉を引き継ぐように末摘は答えた。

手足を放り出し廊下で気絶する紫穂の周りには賢木と谷崎、なまえを除く全員が集まっていた。



「紫穂!!どないした!?」

「しっかりしろ!!」

「なにか言ってる・・・!!心の声がきこえるわ。」

「・・・・・・・」



精神感応能力者のほたるが紫穂に反応する。

集中するように目を閉じて能力を研ぎ澄ますほたる。

紫穂の声は、ほたるの能力によって全員に伝わる。



『ごめんなさ・・・い。これからはいい子になります。二度と銃を乱射したりしません。人の心の闇をのぞいて楽しんだりしません。許して神さま。』

「「し、紫穂ーーっ!?」」



普段なら絶対言わないような言葉の数々に薫と葵はショックを受けた。

よほどショックだったのか、紫穂は気絶しながら涙を流す。



「(あと2人・・・・!!この屋敷にはあと2人いる・・・・・!!)」

「!」



皆本は紫穂の言葉に何かを感づいたのか、眉を少しだけ動かした。



「なまえは風邪やから・・・・。」

「賢木センセイは!?センセイに透視してもらえば―――――――」



薫は賢木の居る部屋の扉を開けた。

しかし、目に入ってきたのは毛布から足だけを見せる賢木の姿だった。

末摘さんが気まずそうに口を開く。



「・・・・・しばらく意識は戻らないと思います。」

「かんじんな時に役に立たない奴め・・・・・・・!!」

「誰のせいや!?」



元凶である皆本に、葵は鋭くツッコミをいれた。



「しかし紫穂をこんだけビビらせるもんゆうたら・・・・・」

「ああ・・・・妖怪か幽霊ぐらいか・・・・?」



薫の喉が音を立てて唾を飲み込む。



「呪われたりしてね?」

「まさか!!」



薫の問いを不二子は軽く笑う。



「たしかに古いけど、幽霊や呪いなんかあるわけないでしょ!?」

「絶対か!?何か不吉な事件とかはなかった!?」

「そ〜んなのあるわけ・・・・」

「なーなー、これ何?古い血のあと。」

「弾痕もあるな。」



初音が部屋の壁にある茶色い汚れを嗅ぎながら言う。

そのすぐ上には明が言うように3つの弾痕が。



「う、そ、それは。」



指摘された不二子が言葉に詰まる。

皆から視線を反らし、笑いながら不二子が口を開く。



「む・・・昔のことよ?ここで頭を撃たれた人が1人、いいえ2人・・・・・」

「不吉な事件あるじゃん!!」



全員の顔が驚きと衝撃で強張った。



「ん――――そうかもしれないけど・・・・(その幽霊なら、風邪で寝てたり外でピンピンしてるのよね―――――――)」



こっそりと不二子は舌を出した。

ちなみに、不二子の言う幽霊は兵部となまえのことである。

2018.01.22

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