悪ふざけもほどほどに
「いろいろすみませんでした。特に紫穂のこと―――――」
「!!」
皆本の視線を受けた末摘は一瞬だけ、驚きで眉を上げ、申し訳なさそうにまた下げた。
「全部・・・・わかってらっしゃるんですね。」
「いえ、全部というわけではないんですが・・・・、別に難しい推理じゃありませんよ。あなたはテレパシーをベースにした変身能力者だ。だから――――それも素顔じゃないとしても不思議はない。」
「ええ、みなさんが入浴する前にボイラーを点検したら・・・・顔にオイルがついてしまって―――――それを拭おうと気を取られて、つい、この顔に・・・・・!!」
末摘の姿がゆらぎ、次に見たときには顔も体も普段の末摘よりも2周りほど大きな女性がいた。
その顔つきからは女性らしさよりも男らしさの感じる顔つきである。
「・・・・なんで隠してたんですか。」
「だって!!この顔のインパクトで何人の患者さんが心拍・血圧に異常をきたしたことか・・・・!!現に紫穂ちゃんまで・・・!!」
黒々と目を光らせ嘆く末摘。
堀の深い顔立ちなだけに力むと影ができて迫力がある。
「いや、それ顔のせいじゃないって!!見せ方!演出の問題!!」
「人は誰でも――――美しい姿が好きなものです。皆本さんだって・・・・こんな美人とつきあってたんでしょ?」
末摘の姿がゆらぎ、そして次に現れた姿は金髪の美しい女性だった。
「わ・・・!!」
「ほ〜〜〜それで?」
「具体的にどれくらい深い仲に!?」
「きっちり別れたんでしょうね?」
「ぅわあっ!!」
末摘が姿を変えたと同時に背後から聞こえた声に皆本は跳び上がった。
チルドレンは皆本をキツイ目つきで睨みつけている。
「い、いや――――――それより今は末摘さんの能力の話を―――――」
「んなこたどーでもいーんだよ!!」
「化粧してきれいになるよーなもんやん!?」
「女なら当然よ!!」
「・・・・・!!」
チルドレンの言葉に末摘が感心したように目を開いた。
その発想はなかった――――という感じで。
「でっ!?全部吐けっ!!」
「き、君らには関係ないだろっ!?」
「あるねっ!!」
チルドレンは恐ろしい表情を引っ込めると、照れたような表情で必死に口を開く。
「だって・・・!!そんな女の人おったら――――」
「み・・・皆本いなくなっちゃうかもしれないじゃん!!」
「私たちより大事なんでしょ!?」
「・・・・・・!!君たち・・・・」
皆本は思いもよらない言葉に驚いてから口元を緩めた。
「・・・・・そんな心配いらないよ。今の僕に君たち以外―――――女の子にかまう余裕なんかあるわけないだろ!」
皆本は葵の頭に手を置き、軽く薫の鼻を人差し指で弾く。
鼻を弾かれた薫は怪しそうに皆本を見つめた。
「ほなその女のことは、もう好きでもなんでもないんやろな?」
「ウソだったらタダじゃおかないよ?」
「え・・・いや・・・ま・・・まあな!」
「ウソ。「まだちょっと好き」って思ってる!!」
背後に回った紫穂の透視により明かされた事実に薫と葵が叫ぶ。
皆本は顔を青くした。
「チクショーーーーーーーーーーッ!?」
「この浮気者ーーーーーーーーッ!!」
即座にチルドレンによって床に倒される皆本。
紫穂と葵は足にしがみつき、薫は皆本の上に乗り胸倉を掴み上げる。
「不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔ーーーーーーーーッ!!」
「皆本を殺してあたしたちも死んでやるーーーーーーーーッ!!」
「あ・・・・あの・・・・」
それまで傍観していた末摘が声をかけるが、怒るチルドレンにその静止はまったく意味を成さない。
皆本がチルドレンをなだめようと叫ぶ。
「ち、ちがう!!好きでも終わっちゃうこともあるの!!好きだったからこそ別れたっつーか、そういうの!?彼女はコメリカで、僕は日本でやりたいことがあったから・・・・・・」
「好きなのに・・・・?好きだったから・・・・?」
「意味がわからーん!!」
「トンチでごまかす気かコラーーーーー!?」
「もう少し大人になれば、君らにもわかるって・・・・!!だからもう、今日はこの辺で――――――」
「いーからもう全部しゃべれーーーーーーーー!!具体的に!!赤裸々に!!なにもかも!!」
突如なまえと賢木を抜いた屋敷にいる全員を連れて瞬間移動してきた不二子は皆本の胸倉あたりに踏み付けた。
衝撃で皆本が地面に叩きつけられる。
「これだけのエスパーから逃げられると思わないでよーーーーーー!!超暴力で実力行使ーーーーーっ!!」
「(あ・・・あんたら―――――)」
床から立ち上がった皆本の表情が険しいものとなる。
不二子の一言に、とうとう皆本は頭にきたらしい。
――ドガッ!!
「う・・・・うわっ!?」
突然部屋の壁を突き抜けて部屋に入ってきた特殊雪上車。
逃げ惑う皆の視線は皆本の手元へと向かった。
一体どこから出したのか、皆本の手元にはラジコンのリモコンのような物がある。
「い・い・か・げ・ん・に・・・・・・」
「リ・・・リモコン!?」
「いかん、本気でキレてる!!」
「しろーーーーーーッ!!」
バキバキと雪上車によって壁が破壊されていく。
逃げ出そうとする不二子たちの前に雪上車が迫り――――――ぴたりと動きを止めた。
「お屋敷壊したらだめですよ―――――」
静かな響きをもって皆に届いた声。
全員の視線がさ迷い、そして皆本の背後で止まった。
「おっしゃったの、不二子お姉様でしょう?」
黒髪の少女が微笑んだ。