変わらないもの

「インパラヘン王国が、ねえ。懐かしい国名だ。」

「そうね・・・。最後に行ったのは大戦中だから、もう随分経つわね。懐かしいわ。」

「僕まだ小さかったからなあ。あんまり覚えてないけど。」



欠伸をひとつこぼしてから手元にあった新聞を机の上へと投げた。


新聞には「小学校に史上最大の侵入者だゾウ」との大見出しがある。

その記事の内容は先日、インペラヘン王国のバトゥル17世皇太子が「チルドレン」に直接交渉しようとゾウに乗り小学校に侵入したものだ。

なまえはたまたま訓練やら検査やらで学校を休んでいたのだが。



「しかしよく僕のことわかったねえ。」

「そうね。貴女のことは一応機密扱いなのに。」



不二子は頬に手を添えるとチラリとある一枚の書類を見つめた。

「貴国における高超度超能力者への任務依頼」と大きく書いてある。

今回のバトゥル17世の来日は世界でも有数の高超度超能力者である薫、葵、紫穂、そしてなまえへの任務依頼が目的であったのだ。

ただし、ここで不思議なのは書類になまえの名前があることである。

なまえは日本政府が公表していない機密事項であるはずであり、存在を認知されるはずがないのだ。



「あの国には「巫女」が居るからね。でもまあ、わかってることは少ないんじゃない?」

「ええ。名前と超度と大まかな能力、それと不二子達と同じ隊に居たってことくらいしか把握していないみたい。」




なまえは不二子の答えに満足げに頷き、ゆっくりと目を閉じる。

どうやらかなり眠いらしい。



「どうせ政府の方針で僕は国外には行けないからさ。久しぶりにゆっくりするよ。体力温存しておかないとね、」

「・・・そうね、国内の任務もなるべく他の子にやるように桐壺くんに言っておくから休みなさい。」



少しだけ苦笑してから、不二子は名前の頭に触れて部屋から出て行った。





「・・・それで、今日は何しに来たの?京介。」

「相変わらず気づくのが早いねえ。」

「(・・・久しぶりかもこのやりとり。)」



「やあ、」と言いながら当たり前の様になまえの向かいのソファーに座る兵部。

なまえは面倒なのか目を閉じたままだ。



「毎日パンドラの誰かしらが僕らを監視してるのも、それに混じってたまに君が来てるのも僕は知ってるんだからね。一応組織のボスなんだからそうほいほい来るのやめたら?」

「・・・・随分手厳しいな。」

「・・・捕まって困るのはもう、京介だけじゃないってことだよ、」



くるりとなまえの体が反転する。

兵部の位置からはなまえの背中しか見れなくなる。

兵部の口元が僅かに上がった。



「心配してくれてるのかい?」

「・・・・・・悪い、?」

「・・・最近やけに素直じゃないか。」



兵部が僅かに意外だと言う様な表情をみせた。

額にある銃痕ができたあの日以来、なまえは感情を表にだすことが少なくなった。

薫たちと出会ってからは無表情ということは減ったものの、それでも戦前に比べれば感情の起伏は少ない。

しかも、一時は記憶が無かったせいもあってか兵部を気にかける素振りはあまり見せない。

そのなまえが素直に認めたのだ。



「・・・そう、かな、?」

「・・・僕としては嬉しいけどーーーーーーそれがアイツのおかげなら、ちょっと妬けるな。」

「アイツって、皆本?」



兵部に背中を向けていたなまえが不思議そうに兵部を振り返る。

理解できないと言った様子だ。



「他に誰が居るんだよ。」

「なんで皆本?薫とかじゃなくて?」



兵部の機嫌があまり良くない方向に向かっていることに気づいたなまえはそろそろと起き上がった。

ちらりと覗きあげたら明らかに兵部の口元は曲がっていた。

臍を曲げてしまったらしい。



「・・・・理由なんて、わかってるんだろ。」

「・・・・・・。」

「言いたがらなかった予知を伝えるようになったりやりたがらなかった任務も皆本と為なら引き受けるようになったり他人が居ても安心して寝るようになったりあげく一度泣いて皆本の足にしがみついて「わーー!わーー!!」



冷めた目を向ける兵部の口をなまえは慌てて手で塞いだ。

心なしか涙目のなまえ。



「あ、あの時は!ちょっと、ちょっとだけ感情がセーブできなかっただけでーーーー!」

「・・・アイツは、政府の人間だぜ?」



なまえの手を兵部が掴んだ。

みるみるなまえの顔が曇り、顔が俯いていく。



「・・・・最初は、僕もそう思ってた。でも・・・少しくらい、信じてみてもいいかな、って、」

「・・・・・皆本が、女王に僕達がされたのと同じ事をするのにかい?」

「・・・・・薫たちが、あんまりにも信じてるから、だからーーーーーーー少しくらいなら、僕も信じても良いかなって、」



じっ、となまえに見つめられた兵部は一つ息を吐き出した。



「・・・・そうかい、」

「(・・・完全に拗ねちゃった。)」



兵部の表情は、母親におもちゃを買ってもらえなかった時のそれに似ていた。



「拗ねないでよ。」

「拗ねてない。」

「・・・・(絶対拗ねてるじゃん。本当、子供なんだから、)」



なまえは苦笑を漏らした。

不意になまえの体は何か強い力で引き寄せられる。

抵抗しないなまえの体は力の為すがままに従って兵部へと倒れる。

兵部はそのまま黙ってなまえを抱きしめた。



「・・・・大きな子供みたいだよ京介、」

「うるさい。」



なまえの肩口に顔を埋める兵部。

なまえは兵部の頭へと手を置いて、柔らかく笑う。



「今でも、昔でもーーーー僕は京介が居ないと、ダメなんだ。」

「・・・・知ってる。」

「・・・・もう言わないからね、」



なまえも顔を隠す様に兵部の肩へと顔を埋めた。








「「「ただいまー!」」」

「おかえりー。」



パタパタと軽い足音を立てながら薫が、それに続いて葵と紫穂がリビングへと入ってくる。

なまえは読んでいた雑誌から顔をあげた。



「なんで言ってくんなかったんだよー!」

「インパラヘン国に行かないなんて言ったら薫、駄々こねるでしょ。」

「当たり前だろ!!あたしたち、チームじゃん!!」



薫の言葉になまえはくすぐったそうに笑った。



「うん。」

「なんや、えらい素直やないか?」

「なまえちゃん、何かあったでしょ。」



軽く目を開く葵。

目を細めてじっと向けられた紫穂の視線を、なまえは苦笑で流す。



「ひーみつ。」

「なんだそれー!」

「薫ちゃん、なまえちゃん押さえてちょうだい。」

「ど、どうせ透視めないんだから止めてよ!」

「うちらの間で隠しごとはなしやで!」












(行く先はわからないけど)(歩いてみようと思ったんだ)

2018.01.22

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