いつもとちょっと違う日
「こんな力、無ければよかった、」
狭い室内に、少女の声が響く。
擦り切れて、掠れた声。
少女の瞳には、淀んだ闇が漂っている。
「先が見えても、僕には何もできない、」
「ここ」に来てから、彼女は予知を続けてきた。
見えるのは全て戦況の予知。
血にまみれていない予知など、ほとんど有りはしない。
何人も、何千人も、何万人も、毎日のように死んでいく現実は、少女の心を蝕んでいた。
「(僕はただ、「みんな」の役に立ちたかっただけなのに、)」
予知はほとんどの場合、覆すことは難しい。
それは超常能力者も同じであり、普通人にはなおさらである。
予知を知っても、軍部にはそれを覆す力はなかった。
少女の脳裏に、一人の青年が過る。
「京介ーーーーーーーー(君の予知をみないことだけが、今の僕の支えだ、)」
「いや〜〜〜〜っ、新1年生はカワイイったらありゃしねえ!とてもあと4〜5年で大人並みの巨乳になっちゃったりするコがいるとは思えないね!!」
鼻の下を伸ばし、入学式が終わり校門の辺りに居る1年生を眺める薫。
とても1年生に向ける目線ではない。
「何そのオヤジ目線?」
「まあ、コイツは5年前もこんなんやったけどな。」
「むしろ一生こんなんじゃん?」
なまえたちはそんな薫に呆れたような視線を送った。
いつものことなので、3人とも慣れて来たきたようだ。
「私たちも5年生かあーーー」
「ま、4年から5年になったかて、何がどう変わるってこともないけどな。」
「卒業するわけでもないしねー。」
校門に背を向けて歩き出した4人は少しだけ感傷に浸る。
葵やなまえが言ったことも事実だが、今年は4人が初めて学校に通い初めて1年なのだ。
紫穂はその事を考えていたのだろう。
「ホントだ、全然成長してねー、気の毒に・・・・・」
「きゃ・・、お前はそこを今すぐ改めて成長せえ!!」
泣きながら葵の胸を揉む薫に、葵は怒鳴り返した。
ふいにキョロキョロと、辺りを見渡すなまえ。
「おっけー、この辺なら誰もいないよー。」
「よっしゃ、テレ・・・「コラ!」
「だっ!?」
瞬間移動しようと手を上げた葵が、後ろから誰かに殴られる。
「超能力通学はするなって言ってるだろ!?」
「み、皆本はん!?」
「夜勤、終わったんだ!?」
「まだだと思ってたのにー。」
「誰も見てないと思ったなら大まちがいだからな!その気になれば人工衛星から君らの動きも追えるんだ!」
「プライバシーの侵害!!」
「ストーカー!!」
「スケベーーーー!!」
「まあ、そんなことしたら衛星潰すけど。」
薫たちの野次に混じって冗談かどうかわからないなまえの言葉に、場の空気が少し冷たくなった。
「お?何ソレ!?ケーキ!?」
ふと薫の目に映ったのは皆本が手にしていた袋だった。
袋の中には白い長方形の箱がある。
「へ?いや、これはーーーーー」
「あたしたちの進級祝いだねっ!?」
「今夜はパーティー!?」
口を濁す皆本を尻目に喜ぶチルドレンは帰宅する足を早めた。
「・・・・・・・なんか地味じゃね?」
帰宅後、箱から出てきたロールケーキを見て、薫の目つきが鋭くなる。
「別にフツーのおやつだよ。何か不満でも?」
「思いっきり工場で作った大量生産品ね。せめてパティシエにさあ・・・・・・。」
「入学とか卒業ならともかく、進級でいちいちお祝いなんかしないよ。」
「してくれても別にかまへんのに。」
「愛がねーぞ愛が!!」
「そーだそーだー。」
不満げな顔をしながらロールケーキを食べる紫穂と葵。
騒ぎ立てる薫に棒読みで加担するなまえ。
「そんなに文句言うなら返せ!!」
「断る!!」
流石に皆本は怒るが、薫は獣のようにロールケーキにかぶりついた。
「でも、明日はちゃんとお祝いしてよね。」
「しつこいな!!しないっつってんだろ!?僕はもう寝る!」
「ちょっと待ってや、明日はーーーーー」
紫穂の言葉にうんざりとした様子で答える皆本。
そのまま欠伸をしながらリビングを出ようとする皆本に葵が声をかけるが、皆本はリビングから出ていってしまった。
ーチンチロリロリラリン
「ん?」
ふいに薫の携帯が鳴った。
薫は訝しげに携帯をひらく。
登録していないアドレスからのメールで、タイトルにはK.H.とだけある。
「・・・・!!このメール・・・!!」
「え?」
驚き目を開く薫に、不信に思ったなまえたちは薫の携帯へと顔を寄せた。