お誘い

「ーーーーーーーー!!!」

「やあ、来てくれたね。4人とも進級おめでとう・・・!!また少し大人に近づいたね。僕の「チルドレン」が5年生になったお祝いをしよう。」

「兵部少佐・・・・・・!!」



薄く微笑んだ兵部に紫穂は警戒心を露わにした。

しかし、薫は警戒する様子など微塵も感じさせない。

それどころか普段との兵部の違いに声を上げた。




「ど、どこかいつもと違う!!?」

「どこかってあんた・・・・」

「ああ、これかい?おかしいかな?」



兵部はジャケットの襟を少しつまんでみせた。

普段、学生服しか身に着けていない兵部が街中で若者が着るような服をまとっているのだ。

ベージュのパンツ、白のTシャツの上に黒のトップスを重ね、そのうえにはシンプルなジャケット。

頭には、変装目的なのかキャップをかぶっている。



「街中に出ると言ったら・・・・仲間によってたかって着せられたんだけど。あと、そっちのお2人さんが僕を警戒してるから・・・・今日はテッテー的にリミッターをつけてきた。」



ジャケットを少しだけ捲って内側にあったリミッターを見せる。

指輪やストラップなど様々な形態のリミッターは存在を主張するかのように音を立てた。

なまえは一人自分で感じた疑問に納得した。



「(だからやけにアクセサリー類を身に着けてたわけだね、)」

「今の僕は普通人と変わらない丸腰だよ。おかげで不二子さんのセンサーにも引っかからない。ただし、念のためボディーガードは雇った。」

「それって・・・・・・こいつのこと?」

『カオルーーーーー!元気カーーーーー!?』

「桃太郎・・・・!!」



薫は苦笑とともに顔面にくっついていた桃太郎を引きはがした。

なまえは僅かに瞠目した。

葵が驚きの声をあげる。



「あんた・・・・そんなに少佐に信用されてんのか?」

『ウン、デモ僕一番好キナノハカオル達ダカラ。言ッテクレレバイツデモコイツ、仕留メルヨ。殺ソウカ?』

「連れてこない方がよかったんじゃ・・・・・・。」

「ね?これなら安心だろ?(こ・・・・この野郎・・・・!!)」



葵の僅かながらに同情したような視線。

内心殴りかかりたい衝動に襲われながらも笑ってそれを兵部は誤魔化した。



「君たちの成長をどうしても一緒に祝いたかったんだ。自分が捕まるリスクをおかしてもね。つきあってくれるね?」

「・・・・・・・」



不安を感じてるのか僅かながらに顔に暗い色を滲ませる兵部に薫は戸惑う。



「どう思う?」

「う〜〜ん・・・・・。」

「(捕まる気なんてさらさらないって言ったら多分帰っちゃうだろうから一応黙っておこう。)」

『ダマサレチャダメダヨ、「ちるどれん」!!コイツハ信用デキナイカラ!!変態ダシ!』

「その辺で黙れ!!」



桃太郎の一言に我慢弱い兵部が切れずにいるわけもなく。

宙に浮かぶ桃太郎めがけて蹴りを飛ばした。

蹴りはひらりと躱され宙を切ったが。



「だいたい何を根拠に変態なんて言うてるん?」

『ソレハコノ前コイツ、花嫁ヲ押シタ「あーーー!!あーーーーっ!!」



葵の疑問に桃太郎は兵部を指さしながら何か言おうとするが、真っ赤な表情のなまえに握りつぶされる。



「なんでもないっ!!なんでもないからっ!!!」

「ヘ〜、」

「ふ〜ん、」

「ほ〜、」

「!!(微塵も信じてない・・・!完全に疑われてる・・・っ!)」



桃太郎が余計なことを言ったせいで三人から冷たい目を向けられることになったなまえ。



「ぼ、僕のことはいいから!!早く行こう!!」

「・・・ま、ちょっと付き合って様子を見るか。」

「で、どこに連れて行ってくれるの?」

「いいところさ。乗りな。」



兵部はにっこりと笑って公園の入り口に止まっていた黒い高級車を指さした。





















「いいとこって・・・・」

「ここのこと?」

「ただの遊園地じゃない。」



高級車に揺られること数時間、高級車がたどり着いたのは隣町の遊園地だった。



「嫌いかい?」

「いや、好きっつーか・・・・・・世界中に追われているエスパーが「いいとこ連れて行く」っていうから・・・・・にしちゃフツーだなと。」



思わず苦笑いをする薫。

きっと行く先を高級ホテルとかそういった場所を想像していたに違いない。

兵部は軽く微笑んだ。



「そう。ここは普通の遊び場だよ。問題は・・・僕らが普通じゃないってことだな。」

「「「「!」」」」



兵部の顔が僅かに曇った。



「警備や安全の問題から―――――最近の施設はESPにうるさいからね。君たちはこういう場所で遊んだことがない。−−−−−−−ちがうかい?」

「・・・・・・・・・・!!」



なまえを除く三人が過去にあった経験を思い出した。

葵は少し系統が違うようだが。



「てかそもそも僕らが小さいころにはこんな施設はなかったろ、京介。」

「そうだね。そもそも遊び道具も少なかったし。」



年寄りは年寄り同士で話が合うようだ。



「さ、どれから遊ぶ?実を言うと、僕も初めてなんだ!」

「・・・・・・・・・!!あ・・・・」



三人は生唾を飲み込んだ。



「あたしあれがいいっ!!一度乗ってみたかった!」

「ウチ、ゲームセンターーーーーーーー!!」

「私は・・・・・ちょっと待って!」

『僕ハムコウ!』

「お前は聞いてない!」



瞬きの間に四方へと走り出す三人。

三人に交じってはしゃぐ桃太郎に兵部はつっこんだ。

兵部の横に立ったままのなまえ。



「なまえ、君はいいのかい?」

「・・・・・あのね。」



なまえの様子に首をかしげる兵部。

なにかを言いたげにもごもごしている。

心なしか顔がほんのりと赤い。



「なまえ?」

「・・・・・・あとでで、いいから・・・・・一緒に、観覧車、のろうよ、」

「!」



完全に地面へと顔を向けたなまえを一瞬だけ驚いたように見つめると、兵部は破顔した。



「君がそんなに可愛いことを言うようになるなんてねえ。」

「・・・う、」

「いいよ、後で女王たちには内緒で乗ろう。」



「バレたくないんだろ?」と意地の悪そうな笑顔を浮かべる兵部になまえはひとつ頷いた。

2018.01.22

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