疼く傷口
「皆本くん。君の学力はすでに高校生以上だ。特別教育プログラムに進むべきだよ。」
放課後の教室に先生と生徒が机をはさんで、向き合っている。
先生の言葉に納得できないのか皆本は反論した。
「でも先生、僕は――――」
「・・・・・・・正直言うとね、君がいると迷惑なんだ。他の生徒がやる気をなくすし、先生もやりにくい。」
「・・・・・・・・!!」
先生の本音に皆本の表情は曇った。
―――
――
―
「ガソリン、オイルその他、可燃物は全て撤去。周囲の道路は通行止め・・・・・・・これで火災が起こるはずありませんよ、皆本主任!!」
「ええ・・・・・僕もそう思いますが―――本部の事件予知部となまえによれば5分後にここは炎上します。その確率は86%・・・・・・・・!!依然、この数字に変化はありません・・・・・・!!」
「超能力のお告げねえ・・・・私らはそれで何度も空振りを――――」
B.A.B.E.L.と大きく書かれたパソコンを持ちながら、不満を言う消防隊員に皆本は言った。
その皆本の言葉を信用できないのか、消防隊員はため息をつく。
――ゴ・・ォォ ォォン
――オオオオオオオオ
「・・・・・!?この音は?」
「!!」
段々と大きくなる音を不審に思って空を見上た皆本の目に一台の飛行機が飛び込んできた。
「こ・・・・こっちに来る!?全員、非常事態に備えろ!!」
「あれが予知の正体か・・・・・・・!!」
「ひとつ予知を教えてあげるよ皆本、現場の指揮はしっかりと・・・・ね。」
「え?ちょ、待てなまえ!!」
『なにやってんだ皆本−−−−−−−−っ!!モタモタすんなっ!!』
皆本の元へ突然なまえがあらわれるが、言うだけ言ってまた薫たちの元へテレポートしてしまう。
そんな焦り始めた皆本に薫から通信が入る。
「・・・・・・・!!」
「あたしたちの出番だろ!?こっちゃ、待たされ続けてアキアキしてんだ!!とっとと始めねーと、帰っちまうぞーーーーーーーーッ!!」
ガソリンスタンドの看板の上に仁王立ちし、偉そうに言う薫に皆本のは不満に思いながらも、携帯をとりだす。
「(・・・・・のヤロ!!)特務エスパー「ザ・チルドレン」・・・・・解禁!!」
――ピーーーッ
「うおっしゃあーーーーー!!」
サイキック エア・ポインテイング
「念動―――――空中強制停止!!」
薫のサイキックのよって、飛行機が落下をやめる。
「よし、行けッ!!葵ッ!!」
「ほい!・・・・・っと!!」
その間に、葵は飛行機の中へ紫穂とテレポートする。
「!!紫穂!?パイロットのおっちゃんが・・・!!」
「待って!!」
パイロットの異変に気付いた葵の呼びかけに、紫穂はパイロットのに触って透視る。
「・・・・・・心臓のけいれん発作よ!まだ生きてるけど手当てを急がないと・・・・・!!脳の酸素がなくなりかけてる!」
『了解!!救急車にテレポート!』
モニターでチルドレンの活躍を見ながら、局長はこぶしを握る。
柏木は不安そうに、局長に言った。
「よし!!お手柄だ、「ザ・チルドレン」!!さすが我が国最強のエスパーたちだ!!」
「でも、局長!!予知パラメーターが変化しません!事件発生率は依然86%!!」
『あっ、コラ!?何を・・・・・・・』
「ン!?」
『いーじゃん!人助け人助け!!』
「念力で直接心臓マッサージすんだよ!いっぺんやってみたかった!」
「ESP応用訓練で教わったやっちゃな!」
「面白そう!!」
救急車に乗ろうとしている患者の上で、薫は言った。
葵と紫穂も満更ではないらしく、薫の意見に賛成する。
なまえに至ってはボーッとどこかを見ている。
「ダメだ、救急隊にまかせろ!!命令―――――」
「命令命令って・・・・・・・・うるさいんだよッ!!」
「はうっ!!」
薫を引き留めようと走ってきた皆本をうるさく感じた薫は、皆本をサイキックで壁に貼り付ける。
「とゆーわけで念動――――心臓マッサージ!!」
「!!心拍、正常に復帰!!すごい・・・・・・!!これなら助かる―――!!」
皆本の制止を振り切り、薫は行動した。
薫のおかげで動き出した患者の心臓。
救急車は患者を連れて走り出した。
「・・・な?ちゃーんと―――――」
「ちがうっ!!薫お前・・・・飛行機のこと忘れてる!!」
「あ。」
誇らしげに言った薫に皆本は叫ぶ。
薫が気づいた時には既に飛行機は墜落した。
あらかじめ予知していたなまえは一人、だけテレポートで逃げていた。
「・・・・・・・・・・あ・・・あたしは――――――悪くないもんねっ!!」
あちこちに絆創膏やら包帯やらをつけながら、薫は拗ねた様に言った。
紫穂や葵も同じような格好をしている。
なまえだけは無傷だったが。
そんな4人にベットにいる3人以上に包帯を巻いた皆本は言った。
「ほお〜〜〜〜?じゃーなんであんなコトに・・・・・?」
「事故だよ、事故!不可抗力!!」
「だいたいなまえ!いつも言ってるだろ!?予知したらアドバイスだけじゃなくてちゃんと言えって!!」
皆本はなまえにも怒鳴るが、なまえはどこ吹く風だ。
「まぁ、誰のせいでもないんだから、 犬にかまれたとでも思って、早く忘れよ」
「はい、食べかけのチョコあげる」
「あたしはコレ!コスプレ専門誌、ナース特集号!!」
「ほなウチはこのメロン片づけとくわ!」
「んじゃ僕は明日の天気、予知してあげるよ。」
反省する素振りのないチルドレンに皆本は切れる。
「ふざけるなあぁーーーーーーーーーーッ!!僕らは事故を防ぎに行ったんだよ!!現場で命令無視すんなって、何度言わせる気だああッ!!」
「ン?」
と、そこにタイミングよく局長と柏木が部屋に入ってくる。
「局長・・・」
「くすん。」
「ム・・・・!!」
局長に泣きつくチルドレン。
そんなチルドレンを局長は抱きしめる。
「君たちは悪くないッ!!悪くないぞーーーーーーッ!!」
「局長おお〜〜〜〜〜〜!!」
「君たちは国の宝なんだからネッ!!」
「・・・・・・」
そんなチルドレン達を悔しそうに見る皆本を薫はちらっと見やり、フフン!!と鼻で笑った。
『予知装置、チューニング急げ!!脳波フィートバック出力上げろ!』
巨大なコードを囲むように数多くカプセルが並んでいる。
プレコグ
「予知能力者52番、交代!!」
「!!カ・・・・・カントク!!」
突如カプセルのひとつが開いたと思えば、キャップ帽をかぶった男が笛を吹き、一枚のカードをかざしている。
まるで試合の審判のようだ。
「君の的中率は2割を切った!チームの的中に貢献できん以上、2軍からやり直せ!!」
「カントク、もう一度チャンスを―――――!!」
そんなドラマを上から眺める人たちがいた。
局長達である。
「予知能力者は比較的数の多いESPだが・・・・・高い超度が出にくい。こうやって予知精度をあげているのだ。」
「厳しいなぁ・・・・!!」
「逆に「チルドレン」は超度7!!しかもなまえクンは複合能力者・・・!!あのコたちは世界を救う天使にも、滅ぼす悪魔にもなることができる。扱いには細心の注意が必要だヨ!」
「だから・・・・・!!局長も少しは協力してくださいよ!今のうちになんとかしないと―――――――あいつら、ほぼ間違いなく、悪魔に確定ですよ!?」
そう言った皆本の頭に、崩れたビルを背景に仁王立ちする大人になったチルドレンの姿が浮かぶ。
「柏木クン!例のデータを見せてやってくれ!」
「はい、局長!懸案事項666号、確率変動値―――――」
「了解!」
柏木の指示により、モニターに映し出される文字。
≪No.666/050621024 確率変動値≫
≪特務エスパー「ザ・チルドレン」は、天使か悪魔か?≫
≪確率変動予測値:懸案666号≫
≪天使:26% どちらともいえない:45% 悪魔:29%≫
「!!こ・・・・・・・・これは・・・!?」
「我々の予知システムによると、答えはまだ見えておらん!!つまり、今は予知などにとらわれず己の信念に基づいて行動すべきなのだ!!私は信念をもってあのコたちを甘やかす!!だってバベルの局長がエスパーに嫌われたらおしまいじゃん!?教育はアメとムチ!!私はアメ!!ムチはお前の仕事ッ!嫌われても代わりはいるしっ!!」
「こ・・・このオッサンは・・・・!!」
「でも・・局長の言う通りかもしれませんね。」
「柏木一尉まで・・・・!!無責任な――――」
「あら、だって・・・・・先はまだ長いんですもの。結果のためだけに仕事は続けられませんわ。仕事から何かをもらうことも大切ですよ。」
「(僕があいつらから何をもらえるっていうんだ!?)・・・・・!局長、なまえは超度7の予知能力者ですよね?彼女がいればこんな施設いらないんじゃ・・・・・・・」
柏木の言葉に不満を感じた皆本だったが、ふと疑問に思ったらしく局長に尋ねる。
皆本の一言に、局長と柏木はピシリッと動きを止めた。
局長に至っては汗がだらだら垂れている。
「えーっとだネ、それには色んな訳があるんだヨ・・・・・。」
「そ、そうなんです!上からの指令で・・・・・・!」
「?そうなんですか。」
アハハ!!と汗を流しながら笑い合う局長と柏木に皆本は更に疑問に思うのだった。