傍観者なんだ、僕は
ばさっとコスプレの美女の載ってる青年雑誌が広がる。
それを見ながら、毒サソリ エキスと大きく書かれたドリンクをごきゅごきゅと勢いよく飲む薫。
「・・・・・・ったくよーーーー!!何かっつーと検査、検査・・・・・・!!任務より検査の方が多いってどーゆーわけよ!?」
「これも特務エスパーの仕事のうちだ!検査中にオッサン雑誌とスタミナドリンクの方がどーゆーわけか聞きたい!」
「とか言っちゃってさあ、この検査って皆本のシュミもあんじゃねーの?日々育っていく 女のカラダ のデータを、お持ち帰りして オカズ にしているとか!?」
検査用の台に横になりながら、げっしゃっしゃっしゃっしゃっと笑う薫に、皆本は机を叩きながら怒鳴る。
「どーしてそうオヤジなんだ、お前は!?ESPよりそっちのが謎だ!!超能力はデリケートな上、わからないことが多いんだぞ!念入りにチェックしないと・・・・・!!特に今回らお前、アタマをケガしたから―――――――」
「でも・・・・それはそうとして、「この前より胸が育ってきたかな」・・・・・・って。」
「うわ、マジ!?」
「!!根も葉もないコトを言うなああッ!!」
からかう薫に苛立ちを感じながら、皆本は機械を操作する。
そんな皆本を紫穂はさりげなく透視て、嘘を交えて言った。
「フケツ!!皆本はん、やっぱりそんな目ェでウチらをっ!!」
「あら、男のひとってそれが自然なことなのよ?」
「・・・・・そうかなー。」
「ウソの中にひとつまみの真実味を加えるなああーーーッ!!」
がたたっと立ち上がる皆本から、自分の体を抱きしめ何処か嬉しそうに葵は言った。
そんな葵に紫穂は、輝かしい笑顔で一言アドバイスをする。
なまえはどうでも良さそうだ。
そんかなチルドレンに皆本は青筋をたてながら言った。
「エスパーである前に、君たち、まだ、10歳の子供だろう!!もーちょっとフツーに子供らしくしろよっ!!」
「・・・・!!ムチャ言うなよ!!」
「どこがムチャだ!?」
「だーって、あたしら「超度7」だぜ?幼稚園にも学校にも行ってねーし、フツーの子供なんかTVでしか知らねーっての!」
「・・・・・・!!」
皆本の言葉に顔色を変えたなまえ。
皆本の言葉に呆気からんと答えた薫。
そして薫の言葉に皆本は眉を潜めた。
「じゃ、今日はもう終わりな!」
「あ、帰りにカラオケ行かへん!?政府の金で!」
「おい、勝手に決めるな!まだ―――――」
「でも・・・・・」
「本人が異常ないって言ってんじゃん!?」」
「わーーーーっ!!」
薫はサイキックで検査の機械を破壊した。
勝手なチルドレンに皆本は顔を下げ、怒りに肩を震わせる。
「この・・・・クソガキ〜〜〜〜〜〜!!勝手にしろ・・・・!!」
「いいの皆本、」
「・・・・あいつらが悪いんだッ!!」
「皆本主任!!局長から緊急連絡です!」
「!」
「「チルドレン」は出動できるか、と―――――――」
B.A.B.E.L.と書かれたヘリが一本のビルの近くを飛んでいる。
『一本木タワービルに―――――航空機が衝突・・・・・・!?』
「たしかなんですか!?」
『確率は88%!15分後に発生するみこみだ!具体的な詳細は不明―――――付近を飛行禁止にしたが、確率に変化なし!ビルおよび周辺の避難にはもうしばらくかかる!』
「了解!「チルドレン」はESP制限装置解禁状態で待機中!必ず未然にくいとめます!」
青年雑誌をめくりながら、拗ねたような顔で薫はトランプをしている柴穂と葵、そして開かないロケットを見つめるなまえに言う。
「・・・・皆本って、元々はエリート科学研究員として入局してきて、かなり強引に今の仕事にスカウトされたんだよな。」
「それが何?」
「いや、そろそろ・・・・やめたくなる頃じゃないかなーーーーっと。」
「・・・・・・そーいや、せやな。今までの主任はたいてい今頃――――――――」
「・・・・・・・」
どこか寂しそうな表情の三人を、なまえは人形のような無表情で見つめていた。
「「フツーの子供らしく」なんて言い出したらもーダメだな。そんなもんになれるくらいなら、あたしたちとっくに――――――――・・・・!!」
どこか遠くを見る薫が、一瞬だけ表情を変えたのをなまえは冷静に見つめていた。
『事故発生 予定時効まで1分!!』
「おかしい!なんの兆候もない・・・・・・!?航空機といえば――――――!!あ・・・・・!!」
何も起こらないことを不思議に思った皆本は、ヘリの窓からビルを覗く。
そして自分の何気ない一言で何かに気付いたのか、機長に指令を飛ばす。
『機長!!全速でこの空域から退避!!』
「え!?」
「今ここにいる航空機っていえば我々だけだ!!予知自体が事故の原因だったん・・・・・・」
「!!ア・・・・操作不能―――――!!何かものすごい力に引っ張られてます!!」
気付いた皆本が叫んだ途端に物凄い音をたて、ヘリはビルに激突する。
「うわーーーーー!!」
「な・・・・・何!?」
「わあああああーーーーーーッ!!」
ヘリは勢いよくビルにぶつった後、落下していく。
「こ・・・こらあかん!!緊急テレポート!!」
ヘリが落ちる前に葵のテレポートで、ヘリから脱出する。
葵のテレポートの後、なまえのテレポートにより、ヘリは地面に落とされた。
「よ・・・よくやった、葵!!なまえ!!おかげで最小限の被害ですんだ・・・・・!!みんな無事―――――・・・・・・か?薫は!?」
「え!?いっしょにテレポートしたはずやけど・・・・・!!」
「・・・・・あっちだよ。」
ホッと一安心した皆本は、薫がいないことに気付く。
なまえは皆本の言葉に指で表情一つ変えずに、薫の方を指した。
地面に大の字で減り込んでいる薫を。
「わーーーっ!!薫ーーーっ!!しっかりしろーーーーっ!!」
「薫ちゃん!?」
地面に減り込んでる薫を見て走り出した皆本。
紫穂や葵も心配そうに見ていた。
しかし、薫は皆本が近付いてきてるのに気付くと苦しそうな表情で叫んだ。
「・・・・・メだ!!来るな・・・・!!あたしから離れろッ!!早くっ!!」
「え・・・・・――――!!どわあああああっ!?」
薫が止める前に皆本は薫に近づいてしまう。
そして顔から勢いよく地面に減り込んだ。
「なっ・・・・・!!何をする、薫!?」
「好きでやってんじゃねーんだ!!勝手に力が出て自分じゃ止められない・・・・・・!!」
「い・・・・ESPの――――暴走か・・・・・・・!!待ってろ、今制御装置を・・・!!」
「あ・・・ああっ!?」
皆本が超能力を制限しようと携帯を取り出すが、薫の力によって破壊される。
そして薫のリミッターまでも、壊れてしまった。
「ウチ、予備の制御装置とってくる!!」
「できるだけ急いで、葵ちゃん!!」
薫のリミッターが壊れたのを見た葵は、テレポートでリミッターをとりに行く。
そんな様子を、なまえは唇をきつく噛みながら見ていた。
「(大丈夫、僕の予知は外れない。だから薫は―――――!!)」
「・・・なんでこんなことに・・・・・・・・」
「たぶん、脳細胞に微細な損傷があったんだ・・・・・!!数日で回復するとは思うけど・・・・」
「ちぇっ、検査バックれた罰―――――!!うあぁああッ!!」
「っ!!」
疲れたように薫が言うと、力が強くなり、薫の体が更に地面に減り込んでいく。
その様子を見たなまえは薫達の方へ両腕を突き出す。
「(僕の念動能力は最大でも超度6・・・・完全には消せないけど、少しだけなら・・・っ!!)」
「か・・・・薫っ!!」
「じっ自分でくらうとひでーな、コレ!?」
「(超度7のサイコキネシス―――――子供の体なんか簡単にくだける!!)」
「え・・・・!!」
皆本は薫の上に被さる。
薫を力から守る為だった。
メキメキと、皆本の体が悲鳴をあげる。
「う・・・ぐッ!!」
「バカ、よせ!!いつもとちがって、加減ができねーんだ!!背骨が折れるぞ!?」
「なら、なおさらだ!!じっとしてろ!!命令だッ!!」
「皆本・・・・・!!」
薫は皆本に退けるよう叫ぶするが、皆本は逆に薫に叫び返す。
皆本の言葉に薫は驚いたような嬉しいような複雑な顔をした。
と、何かを思いついたのか左手を無理矢理自分の位置に持ってくる。
「やだね!!」
「!!薫・・・・・!?お前、何を――――――!?」
「っ!!・・・あ!?」
「ESPの暴走は脳細胞のせいなんだろ!?」
「っだめ!!薫!!止めて皆本ーーーーっ!!」
「脳に酸素がなくなれば――――――!!」
胸に手を当てた薫を止めようとサイコキネシスを使ったままなまえは叫ぶが、薫はそのまま自分の心臓を止めた。
皆本は絶句し、紫穂は珍しく取り乱し、なまえは泣き叫ぶ。
「バ・・・・」
「薫ちゃん!!なんてことを――――――!!」
「いや、やめて―――――――――薫うううぅうう!!」
「しっかりして薫ちゃん!!」
「薫・・・・・・!!」
「戻ってこいッ!!バカ野郎ーーーーッ!!」
紫穂が必死な表情で叫び。
なまえが一心不乱に治癒能力を使いながら言い。
皆本が心臓マッサージをしながら大声で叫んだ。
「――――!!皆本さん、なまえちゃん、ストップ!!」
「が・・・・がはッ・・・!!げほっげほっ・・・・・!!」
「た・・・・たすかった・・・・・・・!!」
「へ・・・へへ・・・・!!名案だったろ・・・・?」
「バカ言ってんじゃないっ!危ないマネしやがって・・・・・!!」
「・・・はぁっ、はぁっ・・・・・かおる、きが・・・ついた?」
「なまえ?大丈夫か、なまえ!?」
「なまえちゃん!?」
薫の意識が戻ったのを気付いたなまえは、安心したのかその場に倒れこんだ。
そこに、葵がテレポートで救急車と一緒に現れる。
「皆本はん、制御装置!!あと、途中で救急車も拾ってきた!!」
「葵!!大助かりだ!!救急隊員になまえを頼んでくれ!」
倒れたなまえを紫穂に預け、薫を抱え上げ救急車に運びながら皆本は薫を叱る。
「酸欠で、ダメージが広がった可能性もある!すぐ病院に行くぞ!!あとでたっぷりしぼってやるからな―――――!!覚悟しとけよ!?」
「・・・・なんだよ・・・!!怒ってばっかいやがって・・・・・!!あたしだって、こんな迷惑な力、持って生まれたくなかったんだ!!フツーのいい子にだってなりたいんだよ・・・・!!だけど―――――」
拗ねたように、でも寂しそうにいう薫に、皆本は自分の少年時代を思い出した。
『でも先生、僕は―――――普通にみんなと一緒にいたいんです――――――――』
そう言った自分と、薫を皆本は重ねて見た。
そして、少し声音を落として薫に言った。
「怒ってるのは・・・・君が自分の命を危険にさらしたから・・・・・それだけだ。今回の件は僕の責任だよ。検査が完了していないのに出動させるべきじゃなかったんだ。君の能力も、君自身も、迷惑なんかであるもんか・・・・ 君は、ここにいていいんだ 。」
「(ああ、そうか、僕は――――このクソガキにずっとそれを言いたかったのかもしれない――――――)」
なまえの運ばれた病室。
皆本は静かに口を開いた。
「なまえ、」
「・・・・なに、皆本。」
「君は・・・・どこまで予知してるだ?」
「・・・・・さぁね。」
布団を深く被りながら、なまえは答える。
「・・・・・・君は、何故、僕らを信用しない?」
「っ!・・・・・なんで、そんなこと言うの―――――」
皆本の問い掛けに、なまえはビクッと反応を示し、泣きそうな声で言い返した。
「・・・・・いつも予知の一部しか、教えないのも、心の底で――――「・・・じゃあ、どうすればいいの、」
「私は、どうしたらいいのっ!?」
布団をはいで、起き上がったなまえの目からはキラキラと涙がながれた。
「・・・・どうしたらいいか―――――教えてよ・・・・」
頼ればいい、ただその一言がなぜか皆本には――――言えなかった。
天使で悪魔
(信じることができたら、どんなに楽だろう)