昔噺をはじめようか
「た・・・ただいまっ!」
静かな玄関に瞬間移動してきたのは出かけていたチルドレンだった。
しかし、家に現れたのは彼女たちだけではない。
「じゃ、今したくするから!待ってて!」
「ありがと。お家の人を起こしちゃマズいからね。静かに頼むよ!」
「(騒ぎ起こすとしたら京介の方じゃん。)」
今の状況を楽しんでいるのか兵部はニヤニヤと笑っていた。
そんな兵部をなまえは呆れた表情で見てたいる。
なまえの考えてることはあながち間違いでもないだろう。
「あのさ、薫が誘ったからってそんな簡単にひとから来るような場所じゃないよ?ここは。」
「どうしてだい?君たちの家じゃないか。」
にこりと笑って首を傾げる兵部へと、なまえはため息をつく。
「・・・・そうじゃなくって、」
「・・・なまえが、今生活している場所を、見たかったっていうのはダメかい?」
「・・・京介、」
兵部の顔が陰りを帯びる。
昔は同じ家で毎日過ごして居たのだ、なまえとは形だけとはいえ敵対する兵部にとって、無くなったそれを惜しく感じるのも仕方ないのかもしれない。
「・・・でもさ、京介。君、僕らにパンドラから監視付けて毎日様子覗いてるじゃん。」
「!?き、気付いてたんだ・・・。」
陰っていた兵部の顔が一転した。
冷や汗を流しながら引きつりながら笑う兵部をなまえは冷ややかな目で受け止めた。
「これ、前にも言ったけど。」
「・・・・。」
「薫たちに言いつけられたくなかったら、監視の数、減らしてよね。」
「・・・わかったよ、」
降参だ、と言わんばかりに兵部が両手を上げた。
なまえは渋い顔で頷くと、台所の方へ向った。
「ふーん。これが君たちの普段の食事?ふふ、庶民的とゆーか、素朴な味だねえ。」
「「む。」」
「(言い方悪いよ、馬鹿。)」
兵部の一言に葵と紫穂の表情が険しくなった。
「皆本はん、料理はうまい方やと思うけどな。少なくともウチのお母はんより。」
「ケチつけるなら帰れば?」
「あ、気を悪くしないでくれ。家庭の味だって言いたかったんだ。」
苦笑いする兵部。
紫穂は口をへの字に曲げると兵部に背中を向けてなまえ達に小さな声で話かけた。
「やっぱ家に連れてくるのはやりすぎじゃない?」
「で、でも3人ともそんな反対しなかったじゃん?」
「いや、なんでかつい流れで・・・」
「僕は反対したもーん。」
「聞こえてる。聞こえてる。」
丸聞こえなチルドレンの密談に兵部はまた苦笑した。
「僕らはよく似た境遇なんだよ。きっと君たちも無意識にそれを感じてるんだ。」
「似てる!?あたしたちときょ・・・・・・少佐が?」
「いちいち言い直しな!うっとおしい!」
ちらっと葵と紫穂の方を向いて言い直した薫に嫌そうな顔で葵が返した。
「不二子さんから聞いてないかい?君たちくらいの頃からーーーーーーーー僕もなまえも特務エスパーだったんだ。陸軍特務超能部隊。それが当時の呼び名だ。今の「バベル」はそれがもとになっている。」
「・・・・!!」
「任務の内容は今とちがうけどね。国のため、世の中のため、僕らは自分の力を活かそうとした。」
「、」
なまえがそっと目を伏せた。
太腿の上で握った手は微かに震えていた。
「やがて戦争が始まり、僕らは兵器になった。でも、それだって正しいことだと思っていたよ。少なくとも仲間たちがいて、彼らを信じていたから・・・。」
今まで聞いたことないような優しい兵部の声音、表情も愛しむようなものだ。
「・・・その話するなら、僕、部屋に、「ダメだよ」
椅子から腰を浮かせたなまえの腕を兵部は掴んだ。
そのまま自分の方へと引き、逃げられないように兵部の腕の中へと閉じ込めた。
「君は、もう一度向き合うべきだ。」
「京介、」
「大丈夫だから、」
兵部は優しくなまえの頭を撫でた。