僕の嫌いな私
「で、なまえは小さくなって、僕はそれ以来、複数の能力に目覚めて―――――――――・・・・・・・あれ?食べてないね?お腹すいてたんだろ?」
心底不思議だとでもいうように薫たちの料理を指した。
ちなみになまえは兵部の胸元に顔を埋めたまま動かない。
「・・・・・・・・・・・。」
「そんな話聞きながらぱくぱく食えるかっ!!」
薫は呆然と兵部を見つめて、葵はテーブルを叩いて反論し紫穂は何食わぬ顔で食事を続けている。
「同じなんかじゃないよ!あたしたちには皆本がいるもん!もしその人が皆本みたいだったら・・・・・京介だって―――――――――!!」
「そうかな?」
唇を噛み締めて必死に訴える薫。
兵部は静かに目を閉じてどこか苦しそうに微笑んだ。
「彼は普通人だし、仕事で君たちとつきあってるんだぜ?普通人とエスパー―−−−−−−−−−−−−いよいよとなったら、どっちの味方だと思う?」
兵部の言葉に薫たちは唇を噛み締めた。
薫たちだって馬鹿ではない、むしろ普通の同世代の小学生よりも早熟な三人はその考えを思いつかなかった訳ではないのだ。
「!!」
静寂を破るようにリビングの扉が開く。
「・・・・・・・・・皆本さん―――――――!!」
「・・・・・・・君たち。」
突然の皆本の登場に焦る3人。
自分たちの目の前には皆本の天敵である兵部がいるのだ。
その存在が分かれば3人だってただではすまない。
なまえはゆっくりと顔を上げた。
「い、いや、あの・・・・・これは―――――――!!」
「僕の―――――――メガネ知らない?これじゃ何も見えない。」
三人は一気に脱力した。
しかし状況は何も変わっていない。
なまえはとりあえず自分の体で兵部を隠そうと試みた。
「・・・・・・・ふーん。」
兵部はそんな皆本の様子を見、なにかいいことを思いついたとでもいうように笑った。
確実に碌なことは考えていない。
「ん〜〜〜たしかここら辺に・・・・・・」
視界がぼけてよく見えないだろう、目を細めて電話付近を見つめる皆本。
「あっ・・・・・・・」
「わ゙ー!!」
「った!?」
壁にかかった電話の下にある棚にあったメガネを薫は鬼気迫る表情で破壊した。
目の前でメガネケースごと文字通り木端微塵にされた皆本は目を丸める。
「何すんだよ!?」
「ゴッ、ゴメーン!!渡してあげようとしたら力加減まちがえちゃって・・・・・・・・!!」
「やあっ!!おじゃまして――――――――」
「「「な゛ーーーーーッ!!」」」
「!」
朗らかな笑顔で片手をあげる兵部に3人が叫ぶ。
もちろん心の声は「てめー何してやがんだ」であろう。
兵部の服の裾をなまえは慌ててつかむ。
「てーいっ!!」
「!」
「・・・・・るよ?あれ?」
必死の形相で瞬間移動能力を発動する葵。
対象にされた兵部と紫穂が目を丸くする。
なまえと兵部はベランダへと瞬間移動させられた。
部屋の明かりに映る影を眺めながら兵部は口をへの字に曲げる。
「ちぇっ、そりゃないよ女神・・・・・!!」
「京介、今日はもう、帰ろうよ。」
兵部の袖口を軽く引っ張るなまえ。
そのなまえの瞳は僅かながらに潤んでいた。
「え〜〜〜〜〜食事の礼もまだ言ってないのにな〜〜〜〜〜」
「京介、お願いだから。」
唇をとがらせて軽く駄々をこねる兵部の腕を掴み、なまえはベランダから夜空へと兵部を引っ張っていく。
「・・・・・昔の話したこと、気にしてるのかい?」
「・・・・・・・当たり前じゃん、」
「言ったろ?僕は気にしてないって、「違うよ、」
「もう、あの子たちとは居られないじゃないか・・・・!!」
振り返ったなまえは、泣いていた。
夜空になまえの涙が浮かぶ。
「「私」じゃ、あの子たちとは釣り合わないの・・・・!「私」なんかじゃ・・・・・!!」
「・・・・・それをやめろって僕は言いたいんだ、」
兵部はなまえの顔を両手で挟んだ。
なまえの表情が僅かながらに驚きに染まった。
間近の兵部の顔には怒気が滲み出ている。
「いい加減、逃げるのはやめろよ。」
「でも、・・・・・「私」が居たから沢山の人が死んでいったの!!部隊のみんなだって、きょ、京介だって、みんながああなったのは全部「私」のせいなの!!「私」なんて生まれてこなければ――――――!」
重なる兵部となまえの唇。
意表をつかれたなまえは、呆然と兵部を見た。
「・・・・・お願いだから、僕と過ごした日々まで無かったことにはしないでくれ、」
「きょう・・・すけ、」
「・・・・・逃げずに向き合ってくれ、」
兵部は静かに力強くなまえを抱きしめた。
その縋り付くような視線を受けて、なまえは静かに兵部を受け入れた。
「・・・・・京介や、不二子お姉さま、部隊のみんなと過ごした毎日は僕にとっても一番の宝物でかけがえのないもので―――――――でも、それでも「私」を許すことなんて、できない!!」
「・・・・そうだとしても、事実から目を逸らすんじゃない。」
儚げに微笑んだ兵部を見、僅かに目を伏せてなまえは小さく息を吐いた。
「私は、僕は、どうしたら・・・・。」
「それは自分で見つけなきゃ意味がないよ。・・・今日はもう帰る。」
兵部はなまえを離す。
なまえは名残惜しげにその腕を見送った。
「でも、忘れないでほしい。僕はいつだって君の味方だよ。あいつになにかされたらパンドラへおいで。僕らは君を歓迎するよ。」
「・・・・・うん、」
「そんな顔するなよ、・・・・・また遊ぼうなまえ。」
兵部はなまえの頭に軽く手を置いて微笑んだ。
そうして瞬間移動していく。
消えていく兵部を暫く見送ったなまえは後を追うように瞬間移動していった。
「「明日」ってもしかして、僕が君たちの担当になって1年ってことかい?」
「あら、覚えてはいたのね?」
ぶつけて赤くなった鼻をさする皆本。
濡れたスカートの裾を絞りながら紫穂は皆本を茶化した。
「!おかえり!」
「おかえり。もう大丈夫やな。」
ベランダから部屋に戻ってきたなまえを見た薫と葵が安堵に微笑んだ。
「だから、お祝いせな・・・・・・!!」
「!!予備のメガネどこにあった!?」
葵は片目をつぶり、皆本に笑いかけながらメガネを掛けてやった。
「祝うほどのことではないけど、一応記念にと思ってこれ―――――――」
皆本は椅子から立ち上がり、リビングから一旦出ていくと数分もしないうちに小箱を持って戻ってきた。
「オルゴール・・・・!!」
「曲は「トロイメライ」ね。」
「写真フレームもついてるやん?」
「(これが、あの、)」
皆本から小箱を受け取りふたを開けたチルドレンから次々と歓喜の声があがる。
なまえは何故か悲しそうな目でそれを見つめた。
「うん、明日みんなで写真を撮ろう。」
「明日じゃなくて今・・・・・!!今がいい!!」
優しく微笑んだ皆本に薫は力強く言った。
「・・・・?薫・・・・・?」
「私、びしょ濡れなんだけど。」
皆本と葵は不思議そうに首を傾げた。
紫穂はタオルで髪を拭きながら軽く非難の声をあげた。
しかし薫は聞く耳を持たずに念動力でカメラを引き寄せる。
「ちょ、待って――――」
「えーい私もっ。」
「(だって・・・・・・明日がどうなるかなんてーーーーーー)」
四人は慌てて皆本に近づいていく。
皆本を中心にチルドレンは微笑んだ。
「(誰にもわからないからーーーーー)」
「(・・・薫、)」
デジカメを手に取って写真を見て笑う薫の心の声を聞いたなまえは小さく息を吐いた。
「(明日なんて、本当は誰にもわからないはずなんだ、)」
とっておきの日
(どうすればいいのか)(僕にはわからない)