開く距離
『いや、やめて、やだ、』
『誰かコレを押えてくれ』
鋭く腕に走る痛み。
徐々に注射器から体に注ぎ込まれる液体。
『その薬、やだ、!!や、めて!!』
『まだいけるな。新しいやつを持ってくるんだ』
『やだ、やだやだやだやだやだやだ』
やめて、ーーーーーやめてええ!!!!!!!!
暗い部屋の中、軽快な着信音が鳴り渡る。
買った時から設定を変えていないのだろう、それはすぐに鳴り止む。
しかしアラームは数秒してすぐに再び鳴り始めた。
ベットの膨らみがもぞもぞと動き出しす。
そのまま布団を被ったなまえの腕が布団から飛び出してくる。
アラームの音が止んだ。
部屋にアラームの余韻が残る。
「・・・・はあ、誰も居なくてよかった、」
布団から顔を上げたなまえは部屋の残状に眉を寄せた。
物が飛び交かったのだろう、家具や小物が重なり合い倒れている。
なまえは携帯を取り出すとアドレス帳から一人を選び通話ボタンを押した。
「Good morning,グリシャム大佐。」
「Good morning,ああ、君かね。ちょうど朝食にでもどうかと誘おうと思っていたんだが・・・・・。どうかしたのか?」
「・・・悪いんだけど、部屋が使い物にならなくなっちゃたから・・・・・、」
「構わんよ。部下に片づけておくように伝えておく。」
「ありがとう、大佐。」
「着替えたら8階のレストランにおいで。朝食を用意しておくよ。」
「・・・・うん、」
なまえはくすぐったそうに微笑むと通話を終了した。
「・・・・服、探すのめんどうだなあ」
荒れ果てている部屋を見て、なまえはため息を吐いた。
「「「特殊任務?」」」
「そう。コメリカ軍の―――――いや、グリシャム大佐の依頼でね。」
「なんでなまえだけなん?」
「高超度複合超能力者は世界的にほとんど存在しないんだ。しかもなまえは予知能力持ち。彼女にしかこなせないだろう任務は多い。・・・・実際なまえ個人宛ての任務の依頼は多いからね。」
「・・・最近なまえの単独任務多くねえ?」
口をへの字に曲げた薫に皆本は苦笑いした。
「なまえの任務に関しては管理官が管理してるからなんとも・・・・」
「また不二子さん?」
「まあ任務には大佐も一緒に付くと言っていたし、問題はないと思うよ。」
「そーゆー問題じゃねえーんだってばーっ!!」
不満げな紫穂と葵と手足をバタバタと動かす薫。
皆本は一息吐くと、薫たちに紙袋を投げつけた。
「今日の訓練は水中での任務を想定したものだ。水槽でやるからそれに着替えたらすぐに来ること!」
「「「・・・・はーい。」」」
立ち去っていく皆本を薫はふくれっ面で見送った。
紙袋の中身を確認していた紫穂は不思議そうに薫を振り返る。
「どうしたの薫ちゃん?」
「・・・・皆本さ、なまえのことに関して冷たくねえ?」
「そうか?あんたが気しすぎなだけやないの?」
「なまえのさ、単独任務増えたのって・・・・あの話聞いた日以来じゃん、」
「・・・少佐に遊園地連れていってもらった日?」
「そう、」
薫は紙袋を抱きしめてうつむいた。
その表情は不安に支配されている。
「嫌な予感がするんだ、あいつ最近よそよそしかったし、また、京介のところに行っちゃうんじゃないかって、」
「・・・心配しすぎよ薫ちゃん、」
「せやで、うちらは普通にしたったらええねん。」
「うん・・・・」
「ほら、行きましょう。あんまり遅いと皆本さんに叱られちゃうわ。」
薫は消化不良だという顔をしながらもゆっくりと歩き出した。