聞こえない足音
「で、僕を呼ぶほどコメリカ軍は人手不足なわけ?」
なまえは無表情で言い放つ。
ソーサーに置かれたカップが音をたてた。
なまえの嫌味に大佐は眉を少し寄せた。
「そういうわけではないよ。・・・今回の任務の相手は強敵でね。」
「「黒い幽霊」・・・・でしょ。」
「・・・時々君のことが恐ろしくなるよ、」
大佐は敵わないとばかりに肩を上げた。
そして懐から数十枚の紙を取り出した。
差し出されたそれを受け取るなまえ。
紙には黒い幽霊の出現場所や犯行手口などが記載されていた。
「よく調べ上げたね、さすがコメリカ軍。」
「ほめても資料はこれ以上見せてあげられないよ。」
「いや、本当のことだもん。バベルは黒い幽霊を未だにライフルを使った超能力者のことだと思ってるんだから。」
書類をテーブルへと投げたなまえは眉を下げて笑った。
大佐はなまえの顔に染み出した色に目を開く。
それは以前会った時のなまえからは想像できないものだったのだ。
「・・・・それはあの子たちのおかげかな?それとも彼かね?」
「いきなり意味わからないよ大佐。」
「・・・・・いや、なんでもないよ。」
首を傾げるなまえに大佐は小さく微笑んだ。
まるで孫を見守る祖父のようである。
なまえは仕方がないなと言わんばかりかりに一息吐いてから、表情を真剣なものに戻した。
「・・・・で、今回の詳しい任務内容を聞きたいんだけど。」
「ああ。・・・ケン、メアリー。」
部屋の扉が開き、一人のスーツを着た白人男性と スタイルの良さを惜しげもなくさらけ出している小麦粉色の肌をした女性が入室してくる。
「ハァーイ!お久しぶりデース!」
「元気でしたカ?なまえ!」
「Hello,メアリー。ケン。」
メアリーは入室してくるなり、軽くなまえをハグする。
メアリーに続いてケンはなまえへと手を差し出す。
なまえは差し出された手を握り返した。
「今回の任務はこの四人で行う。」
「随分少ないね。」
「黒い幽霊は標的を狙う際、護衛のエスパーはまず初めに狙われる。少人数の方が何かと動きやすく、目立たない。それに今回の任務は護衛ではない。」
「今回の目的は奴の捕獲デース!」
「捕獲、ね。」
なまえは小さく息を吐き出した。
今回の任務は、数ある特務エスパーの任務の中でも極めてハードルの高いものである。
実際のところ、黒い幽霊が捕獲された例は世界中で一度もないのだ。
「標的を片付けた後に撤退していく奴を狙いマース!」
「君には我々のバックアップを頼みたい。」
「?前線じゃないんだ?」
「・・・くれぐれも怪我をさせるなと、言われている。」
大佐は固く唇を結んだ。
大佐は誰からとは言わなかったがなまえは簡単に予想が着いたのか小さく口元を緩めた。
なまえの任務の管理は不二子に一任されているので、それは当然かもしれないが。
「・・・まあ、多分前線には出ざるを得ないと思うけどね。」
「そうならないように努めるよ。」
何故か楽しそうに笑うなまえに大佐は苦虫をかみ殺したかのような顔をした。