暗躍するのはだれ?
「政府と議会の圧力ーーーーーーーーーエスパーを守ることと役立てることの板挟み・・・・か。」
皆本は不二子との会話を思い出し、ため息をついた。
局長も今頃チルドレンに今回の任務について説明している頃だろう。
きっとチルドレンはは局長や柏木、不二子の苦労など想像もつかないのだろうが。
「お客さま。」
「!」
カウンターの奥から戻ってきた女性店員に声を掛けられて皆本は我に返った。
女性の手には薫が勝手に経費で買ったすけすけの下着の入った紙袋がある。
「やはり返品は承れません。もう値札を取ってしまわれてるので・・・・」
「そ、そういうものですか。」
「でも返品なさらずとも―――――――お客様にはよくお似合いの品だと思いますわ」
「僕のじゃないって何度言わせる!?」
語尾にハートマークがつきそうなほどの女性店員のセリフに皆本は切れた。
そしてそのまま紙袋を受け取ると、外で待たせている車へと急いだ。
「くそっ、時間をムダにした!!もうすぐ大統領が到着する時間だ!!急いで待機地点に戻ってくれ!」
車に乗り込むなりそれだけ言うと皆本は再び任務について思考を始めた。
「(いくら超度7でも、初めから生命の危機がわかってる任務なんて―――――――――――――まだ子供のあいつらには早すぎる!!大人の都合でそんな働かせ方をするのは・・・・・・・・)」
「そう、たしかに良くないね。」
「!!お・・・・お前は!!」
ルームミラーには運転席には到底似合わない男が座っていた。
兵部はルームミラー越しに口角を上げた。
皆本の表情が一瞬にして凍りつく。
「やあ、元気だったかい?」
「兵部京介!!」
事もなさげに振り返りうっすらと微笑む兵部を確認した皆本はあわてて懐から熱線銃を取り出そうとした。
だが、取り出した熱線銃の銃口を兵部へと向ける前に皆本は黒くて、ひもやロープよりもよほど頑丈な物質によって体を固定されてしまう。
「!!」
「無駄だ。」
皆本が慌てて窓の外を見るとそこに居たのは長身で長髪、そして真っ黒なスーツに身をつつんだ男だった。
ひげを生やした強面のこの男は、パンドラの幹部である、真木四郎であった。
「そう熱くならず聞きなよ。大事な話がおるんだ。」
兵部は薄く笑うと皆本が拘束されている後部座席へと瞬間移動した。
「「黒い幽霊」は必ず来るよ。予知確率が低すぎるのが証拠だ。奴が仕事をするときは必ずそうなのさ。奴の仲間がESPで予知妨害をしてるんだ。」
「(−−−−−−−−−−!!)」
「だから「チルドレン」はあの場から遠ざけろ!理由はこっちで用意してやる。」
兵部は皆本の顎に手を掛け、顔を近づけて目に力を込めた。
「(お前が・・・・・?なぜそんなことを――――――)」
「超能力を使って非合法活動をやっているのは僕らだけじゃない。商売敵にこっちの力を思い知らせてやる必要がある・・・・ってことにしとこう。それに――――これは本物の「汚い仕事」なのさ。奴と「チルドレン」を戦わせちゃいけない、絶対にだ。」
困惑する皆本をよそに兵部は僅かに眉間にしわを寄せながら笑った。
まるでなにか痛みを抑えたような笑顔だ。
「話は以上だ。」
「(ま!・・・!!)」
兵部は皆本を気絶させると一息吐いた。
「少佐、」
「・・・・・コイツを女王の元へ届けたら僕は行くよ。」
「はい、」
「女王たちには絶対にけがをさせるなよ。」
「・・・・はい、」
「・・・・しっかしよくもまあ生きてたよなあ、」
「・・・・・意外と頑丈ですから。」
賢木の心底驚嘆してるとも言いたげな声になまえはため息交じりの声で返した。
病室に静寂が戻る。
バベルの病棟でも奥のほうにあるこの部屋は静かだった。
「わき腹と左胸へ命中した弾丸による大量出血。まあ、命中した箇所が神経や臓器に当たらなかっただけラッキーとは言えなくないけどな。」
「そりゃどーも。」
「つっても、別に任務に戻っていいとかじゃねーからな。お前は当分絶対安静だ。」
「・・・・はーい。」
「・・・・んじゃ、手術の予定あるから俺はもう行くけど間違っても抜けだそーとか考えるんじゃねーぞ?」
棒読み加減ななまえの返事にひっかかったのか、賢木は念を押す。
なまえは賢木の疑いの目を事もなさげに受け止めると軽くからかうように笑った。
「今日はやけに注意深いね。・・・・もしかして僕に出て行ってほしくない理由でもあるの?」
「あ、いや!別にねーけど!!」
明後日の方向を向いてそう答える賢木。
なまえはゆっくりと微笑んだ。
「そう?」
「・・・・いいから安静にしてろよ!!じゃあな!」
最後になまえの頭を撫でてから、賢木は病室をあとにした。
なまえは撫でられた頭へと軽く触れると病室の外へと視線を向けた。
瞳には澄んだ空しか映っていない。