水を得た魚
「さて、と。おーい。止めるなら今のうちだよ〜。出ておいでよ。」
なまえはベットから降りて背筋を伸ばしたあと、腰に手を当てて宙へ向かってそう口にした。
その表情には挑戦的な色が浮かんでいる。
「・・・・・・・・」
しかし反応はいっこうに返ってこない。
普通に考えれば誰も居ないところへと話かけているので当たり前なのだが。
なまえは軽く片眉を上げた。
どうやら軽くイラっとしたようだ。
「・・・・出てこいって言ってん、じゃん!」
なまえの力によって、空気が震える。
病室の窓がガタガタと鳴った。
すると、病室の一カ所で空間が歪んだ。
現れた人影は一つだけだ。
「もお!なんでそんなにやる気まんまんなのよおー!」
「ふーん。僕を止めるのにあんた一人なわけ?」
なまえは心なしか不服そうに目を細めた。
視線の先にいるのはマッスル大鎌だ。
彼は頬に手を当てたまま腰をグルグル回している。
「あたしの任務は監視だけだったのに。戦うなんて聞いてないわ!」
「こんな事態に僕が動かないと思う?京介も甘いなー。しかも監視といえども派遣されたのが一人だけ、とはねっ!」
なまえは右手を掲げるとマッスルと共に病室から離れた遥か上空に瞬間移動した。
そして右手をなぎ払うとその一瞬で病室着からいつものバベルの制服へと着替える。
もちろん瞬間移動能力によるものだ。
「僕は大事な用があるんだ。」
「あたしだって通すわけには行かないのよ!」
マッスルは叫びとともに腰の辺りにむけて両手をかざして力を貯めた。
例のあれである。
「ビィィィィィッグ・マグナアアアアアム!!!」
「そんなんあたんなきゃーーーーーー意味ないよ。」
なまえは軽く口の端をあげるとゆっくりと右手をかざす。
そして、ビッグ・マグナムが目前に迫った瞬間。
マッスルとなまえの場所が入れ替わる。
「なっ!!」
「本調子じゃないからさ、無駄な労力は使いたくないんだよね。」
マッスルはなんとか顔だけ硬化を避けたようだが、身体は完全に固まってしまっていた。
なまえは微笑むと、瞬間移動でマッスルを病院の壁に埋める。
葵のおハコの技だ。
「このままちょっと埋まっててね〜。」
「ちょ、出しなさいよーーーーーーっ!!!」
「その辺に転がしといてもいいんだけど仲間に連絡されてもめんどいから埋めといく。」
「なにその適当な理由!?」
じゃあね〜と軽く告げるとなまえは瞬間移動していった。
残ったマッスルは屈辱に唇をかみしめた。
あっさり倒された上に病院の壁に変に埋めらてたのだから当然と言えばそうなのかもしれない。
「覚えてなさいよ!!花嫁おおおおおおおおと!!!!!!」
日本海上空を飛行する三機の飛行機がいた。
旅客機ほどの飛行機の周りを二基の戦闘機が守るように飛んでいる。
『サルモネラ大統領専用機、オン・アプローチ!』
『了解!現在滑走路は――――――――――な・・・・!?』
戦闘機のパイロットはコックピットに張り付いた小動物に目を見張った。
驚くのも当然だろう、本来この高度に存在するはずのないのだ。
しかし、この小動物はただの動物ではない。
超能力をもつ動物、桃太郎だ。
桃太郎は一鳴きすると両手を広げコックピットへと空気を撃ち出した。
『うああッ!?』
『2号機!?どうした、2号機!?』
墜落していく2号機に飛び乗った真木は静かにほくそ笑んだ。
「行かなきゃ、声がする、」
なまえはそっと耳を押さえた。
なまえの頭の中で繰り返される映像。
既に事切れた警護エスパーの死体、頭を打ち抜かれる要人警護選抜チームの隊長、そして為すすべもなく打ち抜かれていくチームの隊員たち―――――――。
「死なせない、」
なまえは唇を噛み締めた。
決意を固めるように、弱い心がでてこないように。