広がるは赤色

「・・・・・・。」



迎賓館にある、警備室へと足を進めたなまえは静かに眉をひそめた。

あたりは一面が真っ赤に染まっていた。

それはまさしく血の海としか表現できなかった。

なまえが足を進めるたびに赤い液体が跳ね上がる。



「遅かった、か。(襲撃はもう、始まった。京介もおそらく今頃、)」



なまえの瞳が揺らぐ。

思わず唇がきつく結ばれる。

だがなまえはただ犠牲になった同胞たちを憐みに来たわけではない。



「いいえ、こんな所で・・・・・。」




なまえは揺らいだ感情を消すように一度目を閉じてから、力強くもう一度目を開けた。

もう一度開いたなまえの瞳にはもう弱気な色は見えなかった。



「証明するんだ。証明するの。」



なまえはゆっくりとしゃがみこんだ。

倒れこむ警備班のエスパーへと手を伸ばし、顔を覗き込む。

そして、静かに自分の額を同胞のものと合わせる。

なまえはまるで乞うような姿だった。

そっと目を閉じた。

なまえを中心に和らかな光が広がる。

バベルの制服である白いプリーツスカートが地面に触れて赤を吸い上げどす黒く染まっていった。



「助けるから、・・・・・絶対に。」



同胞へと触れたなまえの手は血に塗れていた。

けれど、流れ出た色がなまえを染めてもなまえの放つ光は変わらずに柔らかだった。



























襲撃が起こって数分後のとある建物。

兵部に暗殺を阻止され自らの居場所を特定されたことに気づいた「黒い幽霊」は楽器ケースにライフルを仕舞い込むと静かに、だが迅速に建物の一室を飛び出した。

彼の表情には微塵も焦りは浮かんでいなかった。

だが、その表情を崩すような声が彼に降りかかる。



「おい、そりゃないぜ?せっかく会いに来たのに―――――――またバックれようっての?」

「!!」



黒い幽霊の頭上には迎賓館にいたはずの兵部がいた。

その表情は普段の飄々とした態度はない。

あるのは確固たる意志だ。

「この子を救う」という、意志。



「今日は逃がさないよ、「黒い幽霊」!!」

「兵部−−−−−−京介!!」



黒い幽霊は瞬時に身をひるがえし、兵部から距離を取りながら懐に手を入れて武器を取り出す。

ショットガンが兵部に向かって火を噴く。



「自己紹介もなしか。ま、仕方ないね。君は――――――」

「!!」



黒い幽霊の弾が当たる前に瞬間移動した兵部は、次の瞬間には黒い幽霊の眼前へと移動した。



「自分が何者かすら知らないんだからな。」



兵部は片手で黒い幽霊の顔を固定するとまっすぐに瞳を覗き込む。



「・・・・・・!!」

「強制催眠能力全開!!」

「が・・・・!!あ、ああああッ!!」



兵部から思念波を送り込まれる黒い幽霊は喘ぐ。

黒い幽霊の瞳が小さくなり痙攣する。

うまくいくと、兵部は考えた。だが。



「く・・・・ククク・・・・・!!『ムダだ、兵部京介!』」

「!?」



黒い幽霊の様子が豹変した。

口を開き声を発するのは確かに「目の前にいる少年」だが、話しているのは「黒い幽霊」だった。



「『自分ならこいつの洗脳を解けると思っていたのだろう?』」

「・・・・・!!(催眠能力が通用しないかもしれないのは想定していたが、・・・・・やはりなまえを連れてくるべきだったか、いや、なまえでもきっと同じだった。それだけこの洗脳は強力だ、)」



黒い幽霊の言うことは、当たっていた。

自分の催眠能力なら「この少年」を「黒い幽霊」の洗脳から解放できると思っていたのだ。

兵部は眉間に力を込め、冷や汗を流す。



「『しょせんお前は甘いのだよ。』」

「うッ!!」


少年の超能力によってふいに弾かれる兵部。

弾かれたことによって兵部に生じた僅かな隙を、少年は逃さなかった。

先ほど放った弾丸を操る。

弾丸は兵部へと、命中した。

血飛沫が起こる。



「しまっ・・・・!!」

「『フイをついた瞬間にこいつを殺すべきだったな。しょせん貴様は犯罪組織のボスとしちゃ二流なのさ。』」

「・・・・・・たしかにそっちは一流のワルだよ。その坊やは――――――――――貴様らの操り人形だ!」



兵部の目つきがだんだんと鋭くなっていく。



「多分どこかで拉致されて人格も記憶も奪われて、組織の道具に変えられたんだ。エスパーなら同胞にここまではやらない・・・・!!」

「『さあ、どうかな。お前にも解けない洗脳――――――普通人の力だけで可能かな?』」

「可能さ。超度7、ただし魔法使い級の催眠能力者を、最初に一人捕まえればいいんだ。そいつに次々とエスパーを支配させれば―――――――――全員が「黒い幽霊」になる。」



兵部は苦々しく吐き捨てる。

話していて気分が悪くなったのだろう。



「少しは聞こえるか、坊や!頭の中の「黒い幽霊」を抑え込め!そいつはただの「パンドラ」の商売敵なんかじゃない!普通人の黒い意志――――――――我々エスパー全員の、天敵だ!!普通人の言いなりになどなるな!僕らのところに来るんだ!!」

「・・・・・・・フ、」



兵部の殺気立った声を黒い幽霊は鼻で流した。

少年の目に色が戻る。

しかし、彼は解放されたわけではなかった。



「死ね、「パンドラ」!「黒い幽霊」にとって貴様らは目障りなのだ!」



少年は口角をあげると、力を込めた。

兵部の体の中に入った弾丸が反応する。



「ぐあ・・・・・!?」



ビキビキと音をたてて兵部の体内の弾丸が変形する。

兵部の体からは絶えず血が流れ出た。



「(弾丸が体内で変形成長していく・・・・!!合成能力者でキーは「鉛」だ。おそらく、鉛をコントロールしてそれを通じて透視もしてる。)強敵だな。鉛ってのは超能力があんまり効かない物質なんだ。どうやら―――――――君を救うには、殺すしかないようだ。」

「!!」



兵部の表情が、悲痛に染まった。

血液が勢いよく兵部の体から吹き出す。

飛び出したのは、兵部の体内にあるはずの弾丸だった。



「な・・・!?俺の弾丸を体内から引きずり出した!?鉛のコントロールで俺が主導権を取られるはずが―――――――――」



驚愕によって開かれた黒い幽霊の瞳が地面に落とされた弾丸を見た。

弾丸は兵部の血液によって抑え込まれている。



「いや、違う!ヤツがコントロールしたのは「血液」だ!!自分の血でくるんで、鉛を抑え込んだだけだ!(兵部といえども万能ではない。あの失血ではすでに致命的な深手のはず・・・・・・・!!!)」

「来いよ、小僧!!」



生唾を飲み込んだ少年へと兵部は不敵に微笑んだ。

しかし、兵部の体からは絶えず血液が流れ出ていた。

2018.01.22

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