その双眼に映るのは

「(エスパーを使って、エスパーの心を奪って、他のエスパーや普通人を殺してる――――――、そんなひどいこと、もうさせはしない・・・・!!京介だけに押し付けて何もしないで逃げたりなんてしない!!)」



もうスピードで飛びながら、薫は唇を噛み締めた。

何ができるかなんてわからない、でも行けばなにかできるかもしれない。

薫は体のそこから湧き上がるパワーに突き動かされていた。



「桃太郎!!あとどのくらい!?」

『タブン、モウ少シ・・・・』

「もうあと数分したら線路が見えるでしょ?そこを越えたあとに見える五角形の建物が目的地だよ。」

「!!なまえ!?」



ふいに横から聞こえた聞き覚えのある声に薫は唖然とした。

そこにいたのはここ数日見かけることのなかったなまえの姿だった。



「手伝ってあげる。早く行きたいんでしょう?」

「て、手伝うって?」



なまえは薫へと笑いかけると薫の左手に自分の右手を重ねた。

力強く握られる手。

なまえは薫の目をまっすぐ見つめる。



「僕の力を貸してあげる。」

「!!」



慈しむように笑ったなまえの手から薫の手へと温かな光が移る。

底知れぬ力に、薫は背筋を震わせた。

流れ込んできた力に反応するように薫のリミッターは少し光った。



「これ、」

「薫なら大丈夫だよ。大丈夫。」

「・・・・ああ!!」



薫は力強く微笑むとさらに加速し始める。

湧き上がる力とそれを包み込む暖かさが、薫を更に駆り立てた。



「(京介たちが使う「女王」という呼び名、これはただのニックネームなんかじゃない。僕たち超能力者を人間の進化だと仮定すると、僕らは新しい種ってことになる。・・・薫には、僕らを守ろうとする力と衝動があるんだ。)」



なまえは哀愁の目線を薫へと向けた。



「(そうだとして、この子のことはだれが支えて守っていくんだ?)」



未だ、あの予知の未来の「女王」とはほど遠い小さな薫を、なまえはやるせない思いを抱えて見つめた。

目の前に、五角形の建物が近づいてくる。

しかし、なまえには未だ覚悟が足りていなかった。

行動するための覚悟が、乗り越えるための覚悟が、覆すための覚悟が。



「僕は――――――――(どうしたいんだ?)」



なまえが思考の渦に沈んでいる間に薫は建物の天井を蹴破ろうと足にパワーをためている。

なまえは一つ瞬きをして考えにふたをした。



「ここかーーーーーーーーッ!!」

「(僕は、失いたくないだけなんだ、)」

「!!」

「・・・・やっぱり来ちゃうのか、君は・・・・!それに、なまえまで。苦労が台無しだよ。」



廊下に降り立った薫となまえを目にした兵部は苦笑した。

苦笑している割には兵部からはこうなると思った、という思いのほうが伝わってくるが。



「その子が―――――「黒い幽霊」なの、京介!?」

「・・・来ないなんて言ってないし。」



深刻な表情で兵部へと問いかける薫と、眉間に皺を寄せて複雑な表情で兵部を見るなまえ。

2人を視界に入れた少年は怪訝そうに顔をしかめた。



「子供・・・!?」

「自分だって!!あたしとたいして変わらないじゃない・・・・!!なのに―――――!!なんとかできるよね、京介!?あたしも手伝うから・・・・!!」

「ダメだ。ひっこんでろ!!」

「!!」



悲痛な思いで少年を見た薫は兵部へとすがるような思いで視線を移した。

しかし、薫をへとわずかに視線を移した兵部から返ってきたのは普段ではありえない冷たい言葉だった。

薫の表情に衝撃が走る。

兵部の視線に薫はいなかった。



「彼の洗脳は僕にも解けなかった。おそらくなまえにも不可能だ。残された彼の救いはもう―――――――死ぬことしかない!!」

「やめて!!京介!!」

「・・・・。」



少年めがけて加速する兵部へと薫は叫ぶが今の兵部には無意味だった。

なまえは相変わらず黙ったままだ。



「バカめ!!俺がそう何度も―――――間合いをつめさせると思うのか!!」

「!!」



少年は不敵に笑うと腕をクロスさせて、自分の周りへと弾を放つ。

弾は建物の天井、壁や床に反射して不規則にはねた。



「跳弾道結界・・・・!!」



弾丸による防御の一種である。

弾が不規則に跳ねる中を人が潜り抜けるのは至難の業だった。



「(念動能力で弾くか・・・!?いや、やつの能力で増力された弾丸を全部は無理だ!)」



弾丸を弾くことを断念した兵部は瞬間移動で少年の真横へと移動した。

次の瞬間、自分の目の前にあった銃口に兵部は目を開いた。



「!!」

「そう、死角は俺の周囲だけだ。でも―――――瞬間移動ってのは、発動に一た種の「間」がある。直前の目の動きで出現場所がある程度読めるよな。」



少年は引き金を引いた。

避けるすべもなく、少年の弾丸は兵部へと命中する。

兵部は頭部から血を吹き出しながらゆっくりと倒れていく。



「きょ・・・・・!!」

「、違うよ薫。」

「!?」



撃たれたはずの兵部の頭は、体は空中へと霧散した。

兵部の催眠能力であった。

叫んだ薫と少年の顔が驚愕に染まる。

精神感応能力を持つなまえと桃太郎は気づいていたようで顔色は変わらないが。

驚いて油断している少年の背後から兵部が現れる。



「ダメだよ、同じ手に二度も引っかかっちゃ。そいつは幻だよ。」



兵部の顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。



「誰を相手にしてると思ってるんだ?読み勝とうなんて甘いんだよ!」

「く・・・!!」



兵部の手が少年の頭を捕えた。

少年からは冷や汗が流れ出る。

殺されると、本能が言っているのだろう。



「もうお休み。これで終わりだ。」



兵部の瞳は暗い色に彩られていた。

その表情は相反する感情に揺れているように見えた。

何十人も殺した相手ではあるが、この少年自体がすでに「黒い幽霊」の犠牲者なのだ。

しかし、洗脳がとけない以上兵部にはこれ以外の術がない。

兵部とて本当はこの少年を殺したくなどないのだ。

なまえは兵部の心境を想像してくしゃりと顔をゆがめた。



「殺しちゃ・・・・・ダメ!!」

「ぐっ!?」



薫の大きな声が響いたと思うと次の瞬間、兵部は廊下の壁へと叩きつけられた。

兵部は苦しげにうめく。



「そんなこと――――――させない!!」

「薫、」

「バ・・・・なんてことを――――――・・・君はわかってない!!もう他に手はないんだ!!でないと彼はこれからも命令通りエスパーを殺し続け・・・・・だーっ!!」

「それでもダメ!!」

「京介!!」



必死に説得しようと口を開兵部を薫はまた、力いっぱい叩きつけた。

あまりの力強さになまえは瞬間移動で兵部のもとへ駆けつける。

薫の瞳が涙に揺れて、溢れた。



「あたし、京介には何度も助けられたよ・・・!!これからだってそうしてくれるって信じてる!だから――――――今日はあたしが、なんとかするから・・・・!!」



薫は力強く京介へと訴えた。

その瞳は、決意で輝いている。



『テカ、キョースケ死ンジャウヨ?』

「薫のばか!この出血は本当なんだから!!」

「え、」


兵部の体を支えながらなまえは薫を叱った。

なまえは薫の背後で弾丸を放つ少年の姿を目にした。

弾丸の標的は薫だ。



「薫!!」

「!!」

「ハハハハハ!!助かったよおじょうちゃん!!こいつはほんの感謝の気持ちだ!味わって死にな!!」



少年は狂ったように、笑った。

薫は慌てて円形のバリアを張った。



「このッ!!」



弾丸が、動きを止めた。

だがそれはほんのわずかな合間だけだった。



「!!」



弾丸は細長く変形するとバリアを潜り抜ける。

バリアをくぐりぬけた弾丸が薫へと迫る。



「ムダさ。かなりの超度らしいがそれでも鉛に関しちゃ俺には勝てない。なまじパワーがある分痛みが長引くだけさ。」

「―――――――――!!」



そして変形した弾丸は、薫の首へと到達した。

たまらず桃太郎となまえは声を荒げる。



『コノヤロウ!!』

「「バレット」!!」

「やめて!桃太郎!!なまえ!!わかんないけど・・・普通に攻撃しちゃダメだ!!そんな気する・・・・。あのコを捕まえてる力が―――――――攻撃するほど力をましてくのがわかるの・・・・!!」

「お前!?そうかコメリカの部隊に居た!」



薫は首に刺さった鉛に耐えながらバレットを見つめた。

なまえと薫の視線をうけ、バレットは思い出したとばかりに声を上げた。

そして、バレットの顔に嘲笑が生まれた。



「コメリカで負ったわき腹と胸の傷じゃ物足りなかったのか?」


なまえは唇を噛み締めて胸を押さえた。

傷は完全に癒えた訳ではない。

特に、最後に撃たれた胸は未だに痛む。

しかし、バレットの皮肉をなまえは目をつむり受け流し、静かに口を開いた。



「・・・催眠能力の効果は相手の意思に反した場合、半減する。薫は、君を捕えてる催眠能力を感じ取っているんだ。「黒い幽霊」は最初君の心の弱みにつけ込んだ―――――――」

「きっかけは「憎しみ」。強い憎しみを強制催眠能力者に利用されたのね?」

「!」

「紫穂!!」



なまえの続きを紡いだのは紫穂だった。

薫の顔が喜びで揺らぐ。



「かすかに感じるわ。どこか――――――外国の小さな村。あなたの故郷ね?」

「・・・・・・・!!」



なまえに名を当てられた時以上にバレットの顔が衝撃に歪む。

バレットの脳内で過去の出来事がフラッシュバックした。





――出ていけ化け物!!

――この村にエスパーがいたなんてな・・・・!!

――人殺し!!



釜や桑、農作業で使うはずの道具を持ち口々に罵声を浴びせる村人たち。



『違う!こいつは強盗だったんだ!!母さんを襲おうとしてた!!それに・・・・知らなかったんだ!!僕に・・・・・こんな力があるなんて―――――――』



血に塗れた自分。

背後で倒れているのは母親を襲おうとした男だ。

母親は殺されてしまった。

気づいたら男は床に倒れていたんだ。

俺は悪くない、俺は―――――――




「お・・・俺に・・・さわるなああーーーーーーーーーーッ!!」



バレットは力の限り叫んだ。

紫穂に向けて銃口を構える。

その顔は、おびえていた。

自分の暴かれたくない過去に触れられ、彼の存在が揺らぐような感覚に襲われたんだろう。



「!?」



しかし、向けられた銃口から弾が放たれることはなかった。

スパナが銃の中央に瞬間移動で突き刺さったためである。



「葵・・・!!」

「お待たせ!」



現れた葵の瞬間移動により一所に集まる薫と紫穂。

兵部は呆れたのか、小さくため息をついた。




「全員連れてきたのか、このバカ・・・・せっかく僕が―――――」

「僕らをナメるな。・・・・お前の言いなりになんかなるか。」

「皆本・・・。」



凛と兵部に言い返す皆本をなまえはなぜか複雑な表情で見た。

そんな視線に気づいたのか皆本の視線がなまえへと向いた。



「お前っ!?」

「仲間外れなんてひどいよ皆本。」



驚愕に目を見開く皆本へとなまえはおどけたが、状況が状況だからか皆本は眉を吊り上げただけで深くは追求しなかった。



「・・・・・お前はそこで待機だ!兵部を見張ってろ!!」

「はーい。」



なまえが軽く返事したのを見ると皆本の視線は再びバレットへと向けられた。



「どうやら・・・バベルは死体がもっと欲しいようだな!!」

「行くぞ!!制圧しろ、「ザ・チルドレン」!!」

「「「了解!!」」」



薫たちはバレットの構える弾丸へと走って行った。

2018.01.22

/

[9/10]

章一覧/失った花嫁/サイトトップ