失われなかった未来
「銃を封じてももう遅い!!このフィールドにはすでに充分弾丸がまきちらされてる何人で来ようが勝てると思うな!!」
使い物にならなくなった銃を捨てるバレット。
その表情は鬼気迫るものに染まっていた。
兵部は血を垂れ流しながら立ち上がると皆本を睨みつけた。
「やめさせろ皆本!!バベルのエスパー警備員はたった2発で全滅したんだぞ!?」
「・・・・・!!お前こそおとなしくしてろ・・・!!「ザ・チルドレン」は僕のチームだ!!他のエスパーにできないこともあの3人なら――――――――あいつらが未熟な分は必ず僕がフォローする!」
皆本の目は眩い光に輝いていた。
その光は自らの未来を信じ、切り開いていくという希望により作られたものだ。
兵部は眉間に皺をよせ、唇を噛み締めた。
「・・・・・・・・・・きいたようなことを言うじゃないか・・・!!」
兵部は忌々しそうに吐き出した。
彼にとって、皆本の放つ光はあまりにも眩しすぎた。
なまえは瞳を揺らしながら、兵部の腕を掴む。
「京介、だめ・・・・。」
「・・・君は、行かないのかい?」
バレットへと、駆け出した薫たちから顔を背け兵部へと生体コントロールの力を使うなまえ。
そんななまえに兵部は物寂しげな表情を向けた。
君が考えていることくらいわかる、と言わんばかりに。
「・・・指示に従っただけだよ。」
「・・・・そうか。」
その言葉が嘘なのは誰の目からしても明らかだった。
傷が完治してないにもかかわらず、マッスルを押しのけてここまできた少女が大人しく上官の命令に従うとは思えない。
意地悪く笑う兵部になまえは居心地悪そうに身をよじらせた。
「・・・・・僕は、いらないから。」
まるで子供が泣き出す寸前のような、そんな表情を浮かべるなまえ。
その視線は、ザ・チルドレンへと向いていた。
戦況はチルドレンに有利だった。
皆本の作戦によりバレットを弾丸の盾にすることで眼前に迫ることのできた薫たち。
「とった!!」
「行け、薫ちゃん!!」
「よしッ!!」
「・・・・・!!」
葵と紫穂が声を上げる。
思わず、皆本も喜びのあまりに拳を強く握った。
兵部も予想外の展開に目を軽く開いた。
「まだ、」
「フン。」
なまえが小さくつぶやくと同時にバレットはバカらしいといわんばかりに鼻で笑った。
その顔に焦りは浮かんでいなかった。
「でっ!?」
「がっ!!」
「きゃんっ!!」
ふいに三人の頭にぶつかるコンクリート。
これにより三人の念波が乱れ、能力の使用が困難になる。
「こ、こいつ・・・・!!弾丸以外のものも、動かせんじゃん!?」
薫が悔しそうに歯を食いしばった。
携帯の画面を見た皆本の表情にも焦りが生まれる。
「!!打撃で念波が乱れた!薫、紫穂の超度低下!葵は瞬間移動不能!!」
「ちッ!」
兵部が舌打ちをする。
それ見たことかと思ったのだろう。
「大丈夫だよ、京介」
「・・・・・何を根拠に・・・!!」
静かにそう告げるなまえに視線を移した兵部は言葉を失った。
彼女はまるで、ここに居て、ここに居ないようだ。
尋常でないなまえの様子に兵部は衝撃を受けた。
「君は・・・・何を視たんだ?」
「・・・すぐに、わかるよ」
なまえのうつろな双眼は、戦いを眺めたまま動かない。
戦いは完全にバレットに優位だった。
パワーが下がり、四方から迫る弾丸の防御に徹する三人。
しかし余力のあるバレットは紫穂が所持していた拳銃を操り薫を狙う。
「言わんこっちゃない!!」
「待て!!」
なまえを振り払い、走り出した兵部を皆本は片手をあげて制した。
皆本にあきらめの感情は浮かんでいなかった。
「力が拮抗して動きがとまるこのときを待ってたんだ!!「ザ・チルドレン」――――――トリプルブースト!!」
「!!!」
薫のリミッターが光を放つと、チルドレンも光に包まれる。
「完全解禁、」
なまえはぼんやりとつぶやいた。
バレットを壁へと叩きつけたチルドレンのパワーに兵部は驚愕した。
「今だ!叩きつけて失神させろ!!」
「・・・・・了解!」
「ぐ・・・・」
チルドレンの衝撃に耐えるを兵部は冷静に見つめた。
「・・・ダメだ。また反撃してくるぞ。念動力でパワーを殺した。」
「(ブーストの制限時間はあと数秒・・・これ以上はあのコたちが危険か・・・!!)」
皆本に、もう策は残っていなかった。
徐々に広がる不安。
不意になまえはゆっくりと一歩踏み出す。
「かおる、」
ふいに呼ばれた名前に、薫の視線がなまえへと向いた。
なまえの視線が、瞳が、薫に焼付く。
薫は暖かい力が湧き出してくるのを感じた。
それはここに来る前になまえがくれたものによく似たものだ。
その刹那、薫のリミッターが、より一層力強く輝いた。
「もう――――――――――やらせない!!絶対!!」
「なに・・・!!!」
薫の背中から、燦然と輝く翼が現れる。
皆本と兵部が不則な事態に戸惑う。
「・・・!?なんだ、あの翼は―――――――?何かの合成能力・・・・・・・!?」
皆本の携帯が、警告音を発する。
ブースト機能の設計仕様にない異様な念派が出たためである。
「ちょっ・・・!?や・・・待っ・・・・!薫・・・!!」
「何これ・・・・!?力が最後の一滴まで吸われちゃう―――――――!?」
「この光は――――――!?」
「念動――――――強制解放!!」
目を覆うばかりの光がバレットに降り注ぐ。
バレットが目を見開く。
「う・・・・あ゙・・・ああああッ!!あ!!」
何かが割れるような甲高い音の後にバレットが、膝から崩れ落ちる。
力を失った体は重力に従い地面に倒れた。
薫たちを包んでいた光は徐々に収束し、薫の背中にあった翼も消えてしまった。
兵部は予想もしなかった事態に動揺していた。
「(からみついた強制催眠を破壊した・・・・・?あれほど強力な洗脳を、殺さずに解いたっていうのか・・・・・!!)」
地面に倒れたバレットの双眼が開く。
洗脳の解けたバレットの目に黒い色はなく、あるのは年相応の明るい表情だった。
なまえはバレットの姿を目にすると僅かに安堵するように目を閉じた。
「・・・・!!こ、ここは!?僕は・・・何をしてた・・・・!?」
「・・・・・・・・」
「わ、か、薫!?」
「意識を失ってるわ!?」
「瞬間移動でそっと降ろせ・・・・・!!」
不意に上空に漂っていた薫の体が傾く。
葵と紫穂が慌てて支えようとするが意識のない体を二人が支えるのは難しかった。
皆本が慌てて三人の真下へと駆け寄る。
「(「ブースト機能」か・・!!あれが―――――――「エスパーの女王」としての本能に、覚醒をうながしたんだ。・・・・なまえが見たことっていうのはこの事だったんだな。)
上空で不安定に揺らぐ3人を支えるために浮かんだなまえを見ながら兵部は苦笑した。
そして、気づいた事の滑稽さに兵部は笑いを抑えなかった。
「く・・・・・くっくっく・・・・・!!ケッサクだな、皆本!」
「・・・・・・・・・!?」
「見たろう?彼女、僕が破れなかった洗脳を、一発で解いちゃったよ。仲間の力をただ合わせるだけじゃなく、本能的に新しい力を合成したんだ。エスパーを束ねて、それを守る――――――それが彼女の真の姿さ。」
「な・・・・何を言っている!?」
「わかっているはずだよ。彼女こそエスパーの救世主さ。そして普通人の君が、その誕生に手を貸しているんだ。いつも・・・・ね。」
兵部の言うエスパーの救世とは、普通人からの解放だろう。
つまり、兵部の言葉通り解釈すると皆本は将来自分たちを脅かすかもしれない人物を育てていることになる。
これが滑稽でなくてなんだというのだろう。
「僕が・・・?何を―――――――」
兵部に言われた言葉の数々に皆本は戸惑うしかなかった。