とあるランチのとある闘争

「ふーん。皆本さんって、時々迎え来てるお兄さんでしょ?メガネかけた・・・」

「どーゆー関係なんだお前ら?」

遠足当日、薫たちはちさとと東野に前日の話を聞かせている。

ちさとと東野は皆本の姿をみたことはあるようだが、四人と皆本がどのような関係であるかは聞かされていなかったようだ。

四人は一様に悩む様子を見せた。



「んーーーー「「「「愛人?」」」」



頬を赤らめた四人を見て、東野はそばにあった木に顔面からぶつかった。

ちさとも口をあんぐりと開けている。



「うそうそ!」

「共通の親戚だよ。」

「私たち遠縁なの。」

「色々あって皆本の家に皆で暮らしてるんだ〜」



四人は苦笑しながら冗談だとほのめかす。



「将来的には家族になる可能性あるけどな。」

「あたしたちまだ未成年だしネ。」

「(本気。本気みたいだ・・・!?)」



しかし次の瞬間に目をすぼませた3人にみさとは激しく悟った。

3人の目は本気であった。

なまえだけは呆れたような表情だが。



「私、挨拶したことあるくらいだけど・・・たしかにかっこいいし、やさしそうな人だよね・・・。頭もいいんでしょう?」

「そらもー天才エリートやもん。」

「スポーツもそこそこやるわよ。」


女子の会話に男子の心は一致した。

「ふーん、それはそれは・・・早めに死んで欲しいタイプだよネ。」

男子の心をよそにちさとは頬を軽く染めた。



「いいなーーー私も・・・あんなお兄さんが欲しいかも!」



東野のほうをみてくすり、と笑うみさとの影にパソコンに向かい仕事をするお兄さん(皆本)の膝の上で飲みかけのコーヒーをのんでじゃれあう妹(ちさと)の妄想を垣間見た東野。

男子の心はまたしても一致した。

「てか、今すぐに殺してえな。ああ、憎しみで人を殺せたらネ。」

薫はおもむろにリュックを肩から降ろすと中から弁当を取り出した。



「料理もけっこーうまいんだ!ちさとちゃんにも分けてあげるね、愛情弁当!」

「本当!?きゃーっ、楽しみ・・・!!」


色めき立つ女子に男子の、東野の表情はどんどん険しくなっていく。

好きな女の子が違う男の、それも自分よりも格段に優れた男の話しで盛り上がっていたら面白くもなくなるだろう。

証言Tは後日こう語っている。
「・・・そこで事件ーーーーっていうか、事故が起きたんです。いや、あれは本当にただの事故で・・・悪気があってやったわけじゃないんです・・・!!」と。



「へっへーん!!もーらった!!・・・なんてな。」

「え。」



東野が薫の手から、弁当を奪い去る。

薫は目が点になった。

固まる。

そして。



「ダメええええええーーーーーーーッ!!」

「ひ・・・ひいっ!?」



鬼の形相で、そして持ち前の瞬発力をフルに使って飛びかかってきた薫に東野も、周りに居た全員も恐怖に身を引いた。

しかし弁当は、驚いた東野が手を離し、薫の手を届くのを待たずに。

道を外れ茂みの奥へと転がっていってしまった。



「おっ、おまっ・・・おべっ・・・ぎゃーーーーーっ!!」

「お、落ちたのはお前がーーーーーーー」



泣き叫ぶ薫と冷や汗を流しながら焦る東野。

葵は少し体を傾け、紫穂となまえにしか聞こえないような小さな声で話す。



「ウチ、取ってこよか?ヒュパって。」

「超能力、他の人に見られちゃまずいよ。あとで急に出てくるのも不自然だし。」

「そうね。皆本さん、どうせ多めに作ってくれてるんじゃない?3人分を4人で分ければ――――――!!」


リュックに紫穂がそっと手を伸ばし、透視む。



「(えっ?ベーグルサンド!?)」



頭に浮かんだ弁当の中身に紫穂は驚愕した。

それも当然だ。

あんなに無茶苦茶な注文をしたのに綺麗に自分の注文通りの品が入っていたからである。

紫穂は焦った表情で、葵となまえのカバンを透視した。



「まさかとは思うけど―――――――葵ちゃんとなまえちゃんのも・・・・!?」

「へ?」

「あ。」



紫穂の頭に飛び込んだのはかわいらしいカラフルな弁当であった。

紫穂の映像を精神感応で読み取り、自分の弁当も確認したなまえも思わず口を開けた。



「・・・薫ちゃん、大変。皆本さん・・・口ではめんどーとか言いながら、ちゃんと4人分、べつべつのお弁当作ってる。」

「「なにーーーーーっ!?」」

「あたし拾ってくる!!あとから行くから先に行ってて!!」

「了解。」



紫穂のセリフに慌てた薫は道から外れ、木々が生い茂る方へと駆け下りて行く。

薫へと皆は力ない返事をした。



「ちょっ・・・危ないよ。」

「薫ちゃんなら平気よ。」

「でも・・・・・。」

「・・・・」



心配するちさとをよそに涼しい顔で紫穂は返事をする。

東野は不安そうに薫が消えた方向を見つめる。

紫穂と葵となまえ以外は超能力のことを知らないから心配するのは当然なのだが。

実際は、日本最強の超度7の念動能力者である薫にそんな心配は杞憂である。



「待てよ明石!!俺も一緒に行くよ。」

「東野くん!?」

「もし遅れたら、先生はうまくごまかしておいてくれ!」


叫びながら薫の後を追う東野。

ちさとは心配そうに二人が消えた後を眺めている。



「独りの方が超能力使えるのに・・・。」

「でもここで止めると疑われるわ。まかせましょう。」

「そだね。」



3人は小さく密談をかわすと、ちさとやほかの班員の子を引っ張りはじめた。



「さー、頂上めざそう!」

「頂上で待ってよ、ちさとちゃん。」

「え、でも――――」

「大丈夫や、薫が一緒やったらクマやろーがガケ崩れやろーが心配いらんから。」


そうして、後日証言Kによるように「お弁当はすぐに見つかると思っていました。ところがどういうわけか、ぜんぜん見つからなくて・・・・」のだ。

そのうち、崩れやすい山の天候は一気に崩れた。

証言AとSはこう語る。

「そのときになって、初めてマズいなって思いました。」


「でもウチら――――――すぐにはどうにもできひんかって―――――」



「雨の中じゃ、瞬間移動は難しいし。ずぶぬれで2人きりか―――。」


頂上についたなまえたち。

降り出した雨を見て、なまえはポツリとつぶやいた。

2018.01.22

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