男の子と女の子
「・・・・天気予報では、この雨はすぐにやむそうです。それまでこのビジターセンターでお昼ごはんにしますので、班長さんは自分の班の人数を数えて、先生に報告してくださーい。」
先生の話が終わるとちさとはなまえの袖を少しだけ引っ張った。
その表情は不安に満ちている。
「薫ちゃんと東野くんのこと、どうしたらいいかな、なまえちゃん。」
「とりあえず、居るって言わないと大騒ぎになっちゃうしとりあえず言ってくれば大丈夫!ほら、遅くなると怪しいから!」
なまえは不安がるちさとの背中を力強く押してにっこりと笑った。
ちさとは、仕方ないと言うように眉を少し下げると小走りで先生の方へと向かった。
ちさとの背中が小さくなると、紫穂は小声でなまえと葵を呼び止めた。
その表情は非常に重いものである。
「葵ちゃん、なまえちゃん、雨がやんだらどっちか私とあの2人を迎えに行きましょう。」
「え?でも東野の前ではテレポートは・・・」
「これで気絶させればいいのよ」
紫穂はかばんからスタンガンを取り出した。
普通の小学生は持ってるはずのない代物である。
「さっきから薫ちゃんと通信ができないの。」
「ありゃ。」
「え。」
紫穂のセリフに驚くのも無理はない。
4人のリミッターに搭載されている通信機能は普段過酷な任務状況であっても使用できる高性能なものである。
それがただの雨で通信できなくなると考えるのは難しい。
となると、2人の身に何かあったと考えるのが普通なのだが・・・。
「あ、班長さんお帰り〜。」
「・・・全員いるって言っちゃったけど・・・本当にいいのかな?」
「大丈夫、大丈夫〜。勝手に行動したのが先生にばれたら皆本うるさいし。」
未だ不安がるちさとにひらひらとなまえは手をふった。
紫穂と葵は未だに話続けている。
ちさとは2人の様子が気にかかったのか声をかけた。
「2人ともどうしたの?なんの話?」
「・・・別に。」
「う・・・うん。ちさとちゃんは知らん方がええ。」
葵と紫穂はそう言うと、少し離れた場所でまた話を始めた。
「(あ〜あ。さすがに今のは感じ悪いんじゃないかなあ・・・。)」
「・・・・・。」
一連の流れを眺めていたなまえは1人苦笑して頬をかく。
ちさとは案の定すこし頭にきたようだ。
頬を膨らませるちさとになまえは軽く諭すように話しかけた。
「(な・・・なによ、私は班長だし責任あるのよ。知らない方がいいってどういうこと?)」
「・・・ま、まあ、あの2人にも悪気があって言ったんじゃないと思うよ?」
「・・・なまえちゃんは嫌じゃないの?仲間外れにされて!」
「仲間外れって言っても・・・、僕は元々外れだからなあ、」
ちさとの言葉になまえは自傷気味に笑った。
それは、普段なまえが学校で見せることのない表情で、とても暗く寂しい表情で、ちさとの怒りは一瞬にして萎んでしまった。
「ま、気になるなら聞いちゃえばいいさ。ちさとちゃんは、超能力者なんだから。」
なまえは表情を一変させて微笑むとちさとのリミッターを指指した。
「そうよね。私だって−−−−エスパーなんだから!」
ちさとはひとつ頷くとリミッターを解除した。
なまえは満足げに微笑むとちさとの手を握った。
「なまえちゃん・・・?」
「特別サービス。ちょっと力貸してあげる。」
ちさとは手から温かい力が流れてくるのをかんじた。
そして、湧き上がる力。
「え、これ・・・。」
「きっといつもより、よく聴こえると思うよ。」
なまえは楽しそうに笑った。
「なまえ置いてきてしもたけど、大丈夫かいな?」
「なまえちゃんなら大丈夫よ。それより、」
「で・・・でも、薫と東野がどーにかとかありえへんやん!?」
「人間関係に絶対なんてないのよ。薫ちゃんてさ−−−」
こまった表情の紫穂と話が信じられないのか苦笑いする葵。
紫穂はひとつ呼吸をして話を続ける。
「最近言葉遣いとかビミョーに変わってるのに気づいてる?」
「そーいや・・・胸とか前はウチと変わらへんかったのに、じりじり引き離されてるよーな・・・」
「よーするにあのコ、ここんとこ発育がいいのよ。」
「い・・・色気出てきてるってこと!?」
「東野くんって、薫ちゃんは男友達の一種だと思ってたでしょ。それ、かえって危ないわよ。」
「え・・・!?」
その言葉に衝撃を受けたのはもちろん幼なじみで東野のお互いのことをちょっと意識し合ってるちさとである。
なまえは渇いた笑いを出すしかなかった。
「薫ちゃんに一瞬でも女を感じちゃったら−−−−その大きさと混乱は普段より大きいじゃない?」
土砂降りの雨の中。
ずぶ濡れになった2人は雨宿りをするため洞窟の中へと入り込んだ。
東野は濡れたTシャツを脱ぎ捨て絞り出す。
濡れた体を拭くため取り出されたタオル。
薫はそのタオルを取り出し顔や体を拭き始める。
濡れたことによって露わになった薫の身体に戸惑う東野。
意識されたことに同じく戸惑う薫。
そして寒さをしのぐために体を密着される2人・・・。
「そして薫ちゃんも気づいてしまうの!!自分が女の子だってことに−−−−−−−!!!」
「ちょ・・・ちょっと待って!?ありえへん!ありえへんと思うけどナニその妙な説得力!?」
「あるわけないでしょーーーーーー!?!◯×▽※□♯☆ーーーー!!」
「ちゃ・・・ち、ちさとちゃん!?」
「文字化け!?」
ヒートアップする3人に冷静になまえは言うのだった。
「絶対ありえないから、もうみんなで探そうよー。」