苦労なら売る程ある

「なまえ」

「なんです?」

「お前、今日から一生髪切るなよ。」

「・・・・はい?」

「俺は長い方が好みだ。」




また唐突な。

大きな背中を追い掛けながら僕は眉をひそめた。




「クロス、意味がわかりません。」

「俺がわかってればいいんだよ。」

「・・・・・・そーですねー。」




あはっと笑った声が乾いているのも、笑顔が引き攣っているのも仕様がない。

大体この人はマイペースなんだ。一々気にしていたら一緒になんていられない。




「・・・・・ところでクロス。」

「あん?」

「アレンの姿が見えません。」

「あいつの心配はすんな。そのうち追い付く。」




ティム置いて来たから大丈夫だろ。と零し、そのまま歩くクロス。

全然大丈夫じゃないと思うのは僕だけか。確かアレンは筋金入りの迷子だった気がするのだけれど。




「・・・・クロス、」

「あ゙ぁ?」

「これから何処に行くんです?」

「インド。」




簡潔に言った後、質問は終わりとばかりにクロスは歩くスピードを早めた。

インドか・・・・・。本場のカレーが食べたいなぁ。




「・・・・・なまえ、」

「・・・なんです?」




自分から話を切っておいてなんなんだ。
マイペース過ぎるだろう。

必死にクロスの後ろについてゆく僕。




「もう後少ししたら、アレンを教団に送る。」

「・・・・・・・・そ、う・・ですか。」




当然、だろう。アレンがクロスの弟子になって随分と経つはずだ。
そろそろ、アレンも一人前のエクソシストということなのだろう。


分かっている。頭で理解している。

ただ、感情が追い付かないだけで。



だって、この世界では僕はみ出し者で。そんな僕にクロスとアレンはたった二人の大切な存在なんだ。




「なまえ、」




クロスが呼んでいる。
あぁ、足が止まっていたのか。

ほんの数歩先で、クロスが振り返って僕を見ている。




「あ・・・・すいません、」

「余計なことは考えんな。」

「え?」

「お前は俺だけ見てればいい。」




そう言ってニヒルに笑うクロス。
顔に熱が集まる。

今、何て言ったのだろうか。




「く、クロス・・・・・・!!」




抗議をしても聞き耳をもたず、再び歩き出したクロスの後を僕はただ、懸命に追った。








































「なまえ・・・・・・・、師匠・・・・・・・・「カレーが食べたい」じゃわかりません。」




手に持っていた置き手紙がぐしゃっと音をたてたけど、そんなこと気にしてなんかいられない。

僕は焦燥やら落胆やらでいっぱいだった。




「カレーが食べたいって・・・・・・どこかの国だよなぁ・・・・・・・・。」




こんな時になまえが居れば凄く楽なんだけどなぁ。
まぁ師匠がなまえをおいて行くなんて有り得ないけど。

あ、なんか寂しくなってきた。

早くなまえに会いたい。




「はやく・・・・あの笑顔がみたいなぁ、」




もしかしたら、師匠はなまえと二人きりになりたくて僕を置いて行ったのだろうか。だとしたらかなり危ない。
師匠の女ったらしぷりは伊達ではないのだから。




「やっぱり、カレーと言ったらインドかなぁ・・・・・・師匠もそこまで捻くれてないだろうし・・・・多分。」




なまえを抱きしめて豪快に笑う師匠が頭に浮かび、慌てて頭を降る。




「うん、大丈夫だって、多分。」




そういえば行き先はわかったけど、どうやってインドに行けばいいのだろう。
生憎、捨て子だった僕はまともな教育など受けたことなどないし、第一お金がない。




「・・・・・・・前途多難だ。」




はぁと、ため息をついた。

まだ15才なのに、こんなに苦労していていいのだろうか。














(ため息つくと幸せが逃げるよって、)(そんなこと誰が言ったんだろう)





title by ララドール 2018.03.18

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