ひび割れから零れて

「アレン!」

「なまえ・・・・?」




久しぶり(と言っても一週間とちょっとくらい)のアレンを見つけて叫ぶと後ろから抱きついた。

昔はこうするとアレンは倒れていたけれど、15になった彼には僕を受け止めることは造作にもないらしい。

パサリと、滑り落ちたフードをアレンが被せ直してくれる。




「ほ、本当になまえですか・・・?」

「アレンは僕を見間違えるの?」

「そ、そんなわけ・・・・・!!」

「じゃあ問題なしだね!」




にっこりと微笑む。
彼の表情は明らかに何か言いたげだったが、それもすぐに諦めに似たものになる。
まるで我が儘な娘をもつ父親のような。




「そう、・・・・ですね。」




なんだかアレンは僕やクロスと居るうちに、何か大切なものを棄ててしまった気もする。
だけど、クロスとこれだけ一緒に居て『まとも』でいられるほうが可笑しいのだろう。多分。




「てか、ほんとによく頑張ったね・・・・・。あんな置き手紙だけで。」




「あぁ、アレですか・・・・。」どこか遠い目をするアレン。
そんなアレンに僕は涙を禁じ得なかった。

本当に15とは思えない。




「ま、まぁいいや。買い物の途中だったんだ。お腹空いたでしょ?なにか美味しいもの作ってあげる。」

「本当ですか!?僕、もうお腹が空いて仕方がなくって・・・・・。」




お腹を押さえ、へにゃっと笑ったアレンにやっぱりこういう所は15だなと安心した。






ひっそりと近付いて来ているだろうアレンとの別れを振り切るように、僕は馬鹿みたいに笑うだけ。



























「ここ最近はアレンが居なかったから、なんだか作りたりなかったんだよねー。」




なまえは満面の笑みで言う。

ここ何日か満足に食べていなかった僕にとって、久しぶりの手料理となまえの笑顔はとても嬉しかった。




「そんなこと言ってくれるのはなまえだけですよ・・・・・・。」

「そうかな?アレンにも彼女ができたら平気だと思うんだけどな。」

「・・・・・・彼女ですか?」




小首を傾げるなまえを思わず凝視する。




「そ。アレンみたいに優しかったら、すぐにできても不思議じゃないと、僕は思うけどな。」

「そうですかね?」

「そうそう。」




にこっと笑って頷くなまえに、ぽつりと言葉が零れた。




「僕は、なまえさえ居てくれたらそれでいいんだけどなぁ・・・・・・・。」

「・・・・・・へ?」




聞き取れなかったのか、驚いているかはわからないけれど、ぱちぱちと瞬きを繰り返すなまえ。

真意を謀りかねているのだろうか。




「・・・・・・なんでもないです。」

「は、・・・・あ、え?」




軽くため息をついて、表情を緩ませる。

今はいいんだ、ただ―――――なまえと過ごせれば。

今だ首を傾げるなまえに、「おかわり!」と皿を差し出す。

なまえは嬉しそうに笑ってから、キッチンへと走っていった。





そう、今はこのままでいいんだ。


ただ彼女が居てくれれば。




「ところでなまえ。し、師匠はどうしたんですか?姿が見えませんけど・・・・・?」




沢山の料理を抱え、浮かべながらテーブルへ向かうなまえ。

別に居ない方が嬉しいのだけれど、師匠はなまえのことになるとすぐに怒るから注意が必要なんだ。

・・・・・僕って本当に苦労してるなぁ。




「クロスは・・・・・・・帰ってこないよ、」

「え?」

「きっと愛人のところにでも行ってるんじゃないのかな?」

「なまえ、」




なまえは泣きそうに笑う。

師匠の女癖の悪さは今に始まったことじゃない。なまえが来る前だって何度もあったことだ。

なまえは異常に一人でいることを嫌う。

14歳だし、別におかしいことではないけど、それとはまた、違う気もする。




「大丈夫、これからはアレンも居るし!」

「なまえ、」

「ご飯だって一人じゃないしっ・・・!」




眉を下げて、大きな目からこぼれ落ちそうな涙をこらえて。




「・・・・なまえ、」

「よる、だって、アレンが居る、しっ!だからっ!」

「いいんですよ、我慢しなくても」

「寂しくなんてっ!ないんだから、」




唇を噛み締めて涙に堪えるなまえを僕はただ、抱きしめた。
















(声を抑えて泣く彼女に)(いつまでも帰ってこない彼に)(ただ、想う)




title by 彗星03号は落下した
2018.03.18

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