足跡を振り返ってみた
けによって女の子らしくするようになった。髪の短かったあの頃に居た、可愛い兄弟子は、もう此処にはいない。
「クロス、今度は何処へ行くつもりですか?」
「ドイツ。」
汽車の窓から外を眺め煙草を吹かすクロスを見た。
クロスの行く先は突拍子もない場所が多い。
「・・・・・・またお酒ですか?」
「そんなとこだ。」
この呑んだくれ。
ひっそりと心の中で毒づいた。
視線に込められた想いに気付いたのか、クロスはじろりとこっちを睨んできた。
「おい。」
「なんにも考えちゃいません。」
「俺がなんか言う前に弁解するってことは、やましいことがあんだろ。」
「・・・・・あ、ありません。」
やばい、段々クロスの目が据わってきた。
「なまえ。」
「そそそう言えば最近は東に向かって行ってる気がするんですけど・・・・。」
チッと目の前から盛大な舌打ちが聞こえる。
なにもそんなにいらつかなくても。
「ど、どこかを目指してるんですか?」
「中国だ。」
「・・・・・なんでまた。」
「愛人。」
それは見事なほど簡潔な一言だった。
おもしろくない。
嫉妬心が首をもたげる。
クロスの愛人達は金持ちの上に美女で。殆どの愛人はクロスに着いて旅する僕を気にいらない。
別に嫌われるぐらいは構わないのだけれど、何かしら嫌がらせをされて気にするなというほうが無理だ。
だから、僕にだって少しぐらい、嫉妬する権力くらいはあるだろう。
「・・・・・そーですか。」
口を出た言葉は自分でも驚くほど淡泊だった。
「なんだ?ガキのくせして嫉妬かなまえ?」
一瞬、驚いたような表情をしてからクロスはニマニマと笑った。
ムカつくけど、大体合ってるので何も言えない。
「・・・・なんでもないです。」
窓から見える景色に全神経を注ごう。
そうしたら、この気持ちも落ち着くはずだから。
「安心しろ。無条件で俺と一緒に居られるのは・・・・・なまえ、お前だけだ。」
「・・・・・?」
「俺は同じ女と長くいるのはあまり好きじゃねぇ。」
つまり特別ってことだ馬鹿娘。
それだけ言うと、クロスは寝るつもりなのか目をつぶった。
僕の頭はクロスだらけで。
「・・・・・・・クロスのたらし。」
うるせぇと小さく向かいの席から聞こえた声。
普段は恐怖の対象であるはずのそれも、今ばかりはただの照れ隠しにしか感じなかった。
クロスに続くようにして目を閉じて、考える。
アレンが居た時から思っていたけど、クロスは変だ。
怪しさ満点の僕を弟子として拾い、この数年間育ててくれた。
超能力があるから、拾ったのかと尋ねればそうでないと彼は否定する。
さらに言えば、態度こそ酷いが扱いは優しいと思う(クロスが怖いので透視したことはない)。
彼の目は手は存在は、いつもあたたかかった。
今まで蔑まされてきた僕にとって、何よりそれは欲しかったもので。
「・・・・縋っちゃうんだよね、」
どうしようもなく、今の僕の中にはクロスがいる。
それはもう、彼なしではいられないくらいに。
もし、この気持ちに名付けるとしたら、なんなのだろう。
依存?尊敬?それとも・・・・・・
「愛・・・なのかな、これって。」
よくわからないや。
沈んでしまう前に、はやく。
(ただ窓を過ぎてゆく空を)(寂しいと感じたの)
title by 彗星03号は落下した 2018.03.18