一人分の体温

まただ。
買い出しから帰って来てみればこれ。

部屋の空気は冷めきっていて、長時間誰も居なかっただろうと推測できる。

そして、部屋の奥の空になっているベットを透視てため息をついた。




「・・・・・・愛人ですか。クロスのむっつりー。」




重力に従ってベットに体を横たえ、枕を抱きしめた。




「寂しい・・・とか言ってもクロスは気にしないんだろうなぁ。」




枕を抱く腕に力をこめる。


毎晩、クロスは僕が寝付いたのを確認すると彼は宿を出ていく。

初めは酒の恋しくなったクロスが酒場に行くのだろうと、別に気にしては居なかったのだけれど。

クロスの上着からは普段の彼から匂うはずのない、むせ返るような甘い匂いがした。
それはそう、クロスの愛人たちが好むような。




「・・・・最近変だな、僕。」




クロスが宿を空けて、愛人の元へ行くのはいつものことだったはずだ。アレンが居た時だって、よくあった。

なのに。




「寂しい、よ。」




一人分の体温じゃ、眠れない。

クロスが居ないとダメなんだ。




「ねぇ、 ―――、」




































『アレン、』

「!」

「・・・?アレンくん?」




急に立ち止まった僕を、コムイさんが不思議そうに振り返っている。


気のせい、だろうか。
微かになまえが、か細く僕を呼んだ気がしたのだけれど。

でもなまえが教団に居るはずがない。
師匠は教団が嫌いだし、第一なまえを自ら望んで手放すなんて有り得ない。




「・・・・なんでもないです。」

「そうかい?」




疲れてるなら休んだ方がいいよと、背中越しにひらひらと手を振って去っていくコムイさん。

誰のせいだと問いたくなった。

そんなコムイさんを僕はただ、見送った。




「・・・・・・・・」




遠くから聞こえる作業の音以外は響かない廊下。

はた迷惑なコムリンによって破壊された建物。

地面に無造作に転がっている瓶に、なまえと師匠を思い出した。




二人と別れたのはつい数カ月ほど前だったと思う。


あの日、師匠が居ないんだと涙を零した彼女は今はどうしているのだろうか。

一人で、泣いているのだろうか。

エクソシストではないけれど、不思議な能力(なまえによれば超能力)を持つ彼女のことだ。
もしかしたら先程の声も空耳じゃなかったのかもしれない。




「僕も、なまえには甘いなぁ・・・・・・、」

「なまえって誰?」

「うっわぁああ!!」




突然、背後から聞こえた声。

声はよく知っているものだったけれど、どうやら考えに沈み過ぎて気配に気付かなかったらしい。
心臓がバクバクしている。




「り、リナリー!!驚かせないで下さいよ!」

「ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなくて・・・。」




しゅん、と顔を俯かせるリナリー。

か、可愛い。

じゃなくて、フォローしなければと僕は慌てて口を開く。




「そんなに謝らなくても大丈夫ですよ!突然だったので少し驚いただけですから・・・。」

「そう・・・?本当にごめんね、」




未だに申し訳なさげなリナリー。

優しいな。
思わず彼女を連想して口元が緩む。




「大丈夫です。えっと・・・・・なまえのことですよね?」

「うん。アレンくんの兄妹なの?」

「血は繋がっていませんけど、気持ち的にはそうですね。」

「気持ち的?」




リナリーは首を傾げた。

肯定して置いてこんな言い方は狡かったかな。




「師匠の弟子なんですよ、なまえ。僕と同じ。」

「え!?く、クロス元帥の弟子!?」

「はい。」




大きな目をいっぱい開いて驚くリナリーに、僕は苦笑した。

入団した時に、そんなこと一言も言わなかったしなにより師匠が教団に言うなんて絶対ないから驚くのは当然なのかもしれない。




「そんなこと聞いたの初めてだわ・・・・・。」

「すみません、別に言わなくてもいいかと思って・・・・・。」




ショックの抜け切れないリナリーの表情。

かなり衝撃的だったみたいだ。




「それに、厳密に言うとなまえはエクソシストではないんです。」

「エクソシストじゃない・・・って、ただの女の子ってこと?」

「うーん、「普通」かどうかだと「普通」じゃないんですよね・・・・・。」




実際に目にしないと説明しずらいなぁなまえの能力は。




「まぁ、見ればわかると思います。」

「・・・・・そうね。」

「多分、そのうち会えるでしょうから。」




そんな気がするんだ、なまえ。

だから、一人で泣かないで。

僕はまだ約束を覚えているよ。













(隣に居ることはできないけど)(僕は君を想っているから)






title by ララドール
2018.03.18

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