もがけばもがくほど抜けられない
揺れる。いつもと違って、正座のせいもあるかもしれない。
というか、雨の中を馬車が走っているのだから多少は仕方がないのだろうか。
隣に居るラビも、楽になろうと足をもぞもぞと動かしている。
「それで・・・・・その子が、ラビが数年前に会ったっていう不思議な女の子なんだね。」
「そうさ。」
真剣な表情のコムイさんに、ラビは頷く。
「で、彼女・・・・なまえちゃんはアレンくんの妹弟子なんだね。」
「そうです。」
「彼女は今回の任務で、とても大事な情報源になりそうだ。」
ギラリと、コムイさんの瞳が光りを宿す。
・・・・手荒なことにならなければいいけど。
「任務、ですか?」
「うん。まぁその話は、また後でするよ。」
肩を上げてコムイさんは軽く言った。
「それよりなまえちゃんだ。彼女はエクソシストなのかい?」
「・・・師匠は、なまえはエクソシストではないと言いました。なまえの能力は、イノセンスによるものでないと。」
「アクマは破壊でるのかい?」
「おそらく、」
そうかい、と一息つくようにコムイさんは軽く目を閉じた。
次々と聞かれる質問を何故か拷問のように感じる。
「本部に戻って、ヘブくんに見てもらわない限りはエクソシストとは言えないけど・・・・・彼女は戦力になりそうだね。」
「じゃあ、!」
「うん。なまえちゃんにはこのまま、教団の一員としてアレンと一緒に任務についてもらおう。」
コムイさんに笑われて、体が強張っていたことに気付く。
というか、足が痺れた・・・!
「うん、それじゃあ任務について話すよ。いいかい、ふたりとも?」
コムイさんがいつもの調子でそう言うが、僕は頷くのが精一杯だった。
「先日、元帥の一人が殺されました。殺されたのはケビン・イエガー元帥。五人の中で最も高齢ながらも常に第一線で戦っておられた人だった。」
元帥、師匠も同じ位だったはずだから師匠ぐらいの強さの人が負けたということなのだろうか。
なまえを挟んだ隣に座るリナリーが息をのむのがわかった。
「ベルギーで発見された彼は、教会の十字架に裏向きに吊され、背中に「神狩り」と彫られていた。」
「神狩り・・・・・?」
「イノセンスの事だな、コムイ!?」
隣のラビが声をあげる。
「そうだよ。元帥は適合者探しを含めてそれぞれ複数のイノセンスを持っている。イエーガー元帥は八個所持していた。奪われたイノセンスはイエーガー元帥の対アクマ武器を含めて九個。」
「九ッ・・・」
「瀕死の重傷を負い十字架に吊されてもなおかろうじて生きていた元帥は息を引き取るまで歌を歌い続けていた。」
『せんねんこーは
さがしてるぅ・・・♪
だいじなハート
さがしてる・・・♪
わたしはハズレ
つぎはダレ・・・♪』
「センネンコー?」
「伯爵の愛称みたいだよ。」
「ほー。」
「アレンくんとリナリーが遭遇したノアがそう呼んでたらしい。」
ラビが気の抜けた声をだしていた。
「あの・・・大事なハートって・・・?」
「大事なハートとは・・・我々が求める109個のイノセンスの中に、心臓ともいえる核のイノセンスがあるんだよ。それは全てのイノセンスの力の根元であり全てのイノセンスを無に帰す存在。それを手に入れて初めて我々は終焉を止める力を得ることができる。」
そんなすごいイノセンスがあるなんて知らなかった。
「伯爵が狙ってるのはそれだ!」
「そのイノセンスはどこに?」
「わかんない。」
「へ?」
さっきまでの真剣な雰囲気が嘘のように、あっけらかんに言うコムイさん。
「実は、ぶっちゃけるとサ。それがどんなイノセンスで何を目印にそれだと判別するのか石箱に記いてないんだよ〜〜〜。」
眉間に皺を寄せ、コムイさんは疲れたようにため息をつく。
「もしかしたらもう回収してるかもしんないし誰かが適合者になってるかもしんない。ただ最初の犠牲者となったのは元帥だった。」
コムイさんは続ける。
「もしかしたら、伯爵はイノセンス適合者の中で特に力在る者に「ハート」の可能性をみたのかもしれない。アクマに次ぎノアの一族が出現したのもおそらくそのための戦力増強。」
ノア一族の、ロード。
彼女の言っていた言葉を思い出して、ちらりと隣で今だ眠り続けるなまえを見た。
「エクソシスト元帥が彼らの標的となった。伝言はそういう意味だろう。おそらく各地の仲間達にも同様の伝言が送られているハズ。」
「確かにそんなスゲェイノセンスに適合者がいたら元帥くらい強いかもな。」
「だがノアの一族とアクマの両方に攻められてはさすがに元帥だけでは不利だ。各地の仲間を集結させ四つに分ける。元帥の護衛が今回の任務だよ。君達はクロス元帥の元へ!」
『お母さん――――』
貴女なんて、産まなきゃよかった!!
『お父さん――――』
お前はうちの子じゃないッ!
『ねぇ――――――』
アイツにちかづかないほーがいいよ!
"けがれた"子なんだって!
やーい"ばけもの"!!
『やだ、やめて―――――』
『一人にしないで――――――』
きっと黒い夢の中にいる
(そうでなければ)(一体なんだと言うの?)
title by ララドール
2018.03.18