ほらね、予感はあたった

「なんでも教えてやるよ、エトランゼ」




目の前にいる謎の男――ティキ・ミックはそう言って鋭く笑った。

僕は彼をじっと見つめ、口を開く。


「いらない。」

「…は?」


きっぱりと言い放ってやると、ティキはあんぐりと口を開けた。


「あんたの助けなんかいらないって言ったの。」


もう一度はっきりと、言い聞かせるように言葉を放った。
「だいたい、そんなことしなくても"わかる”し」と僕は心の中で呟く。

何が可笑しいのか、腹を抱えて笑うティキ・ミック。


「ぷっ、ふははははッ!!そんなこというとはね……でも、」


ティキの目が妖しく光った、瞬間。眼前から姿を消すティキ・ミック。


「俺は殺ろうとすれば何時でもあんたを殺れるんだぜ?」


彼の声が耳元から聞こえる。

ティキ・ミックはいつの間に移動したのか、僕の背後から腹に手を回していた。


「………なんのつもり。」

「いや?」


僕の腰に手を回したまま、すっと、僕の首に伸びてくるティキ・ミックの片手。

ゆっくりと伸びてくるその手。
ティキ・ミックは、僕の首に”触れた”瞬間に疑問の声を上げた。


「は?」


何度も僕の首に触れたり、離したりした後、徐々に力の篭る手。


「む、だ だよ、ティキ。」

「なんで、何故、俺が"選べない"!?」


上擦ったティキの声。

僕は彼の手を”力”で弾き、腕の中から逃れ出る。



「ッ!!」

「「快楽」のノア、ティキ・ミック卿…ね、」


ぽつりと呟いた僕に、ティキ・ミックは苦笑いをした。


「……こりゃあ、ロードの言ってた通りだな…。」

「一族の長子、「夢」のノアだね。」


先程ティキ・ミックから”透視た”中にあった情報を思い出す。

彼の額から汗が溢れて垂れていく。余裕がなくなっていく姿に、しばらく追い回された鬱憤が晴れていくようだった。


「なんでもお見通しってことか?」

「さぁ?…まぁ、少しだけなら教えてあげる。僕の力はエクソシストのイノセンスや、君達ノアと同じ力じゃない、僕だけの能力────超能力、だよ。」

「超能力だって?」


はぁと溜め息をつかれて、少しむっとする。

先ほどは余裕がなさそうな様子だったのに、もうふざけた表情をしていた。
…”透視て”、彼がそういう軽い調子の性格だっていうのは理解したから、単に性格でそういう表情になりやすいだけかもしれないけど。


「……なにその態度。君たちが知りたがってた、僕の情報教えてあげたのに。」

「あのなぁ、いきなり超能力とか言われても信じられないだろ。」


わかりやすくふざけた表情をするティキ・ミック。



「…そんなに言うんだったら───わからせてやるよッ!!」

「!?」


テレポート(瞬間移動)でティキの後ろに回り込み、サイコキネシス(念動力)で地面に押さえ付ける。


「今のがテレポート、僕は自分の意思で何処へでも行ける。…そして、このまま君を押し潰すのも────不可能じゃない。」

「ぐっ!!」


手に力を篭めて、さらにティキ・ミックを押さえ付けた。
ティキ・ミックの表情が苦痛に歪む。


「僕をなめるなよ……!!」


苛立つ気持ちのまま、サイコキネシスでティキ・ミックへの力を込める。

だけど、ほんの隙間から見える彼の口元は────ゆるんでいた。


「…残念、」

「え、…っ、」


ひゅっ────と耳元で鳴ったと思えば、次の瞬間には地面に倒れていた。

頭にはしる痛みと、すぐに傍に立っている謎の生物──アクマで、自分が攻撃されたことを理解した。


「残念だったな、エトランゼ。ダメだろ"アクマ"を忘れちゃ。」

『馬鹿な奴!』

「くっ……、」


ぐにゃりと歪曲する世界。気を抜けば今すぐにでも気絶しそうだ。


「(まずい…頭部はまずい、……超能力が使えなくなる…。)」

「んじゃ、連れていくとしますか────」

「大人しく、連れて────堪るもんか……ッ!!」


ぐっと意識を保ち、精一杯念じる。

何処でもいい、彼から、アクマから逃れられさえすれば────。


「あ、」

『『『あ。』』』


閉ざされようとする世界で、思わず脱力したくなるような間抜けな声が微かに聞こえた。


「(ざまーみろ、)」














(ただ、虚しかった)





title from ララドール
2018.03.18

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