出会う運命

僕が師匠である、クロス・マリアンに拾われて3年になる。

師匠は僕と共にマザーの元で1年間過ごしてから旅にでた。

それ以来、師匠は僕を2年間ずっと修業と言い各地を旅している。


だけど、2年───いや、あの日…マナをアクマにしてしまったあの日から、僕は何も成長していない。











「し、師匠の鬼…悪魔め…。」


空になってしまった巾着に、足取りが重くなる。

借金の返済に使おうと思って、酒場で稼いだお金だった。

まだぎこちないけれど、イカサマをするには慣れてきてそれなりの金額も稼げるようになったから、今日は少しだけ豪華なものでも食べようかなと思っていたのに…。

宿に戻るなり、僕の手から巾着を奪うと「師匠に生活費を渡すのはトーゼンだろ?」と言って、師匠に全額巻き上げられてしまった…。


「絶対ロクなモノに使わないよな……。」


はぁ、と溜め息が出る。

当たり前だけど、そんな僕に優しく声を掛けてくれる人がいるはずもなくて。
なんだか僕は凄く泣きたくなった。


「少しだけでもポケットに入れておいてよかった…。とりあえずこれでなにか今日の食事を────!?」







――ドーーーーッン!!







背後から、なにかが衝突し建物が崩れる音して、反射的に振り返る。
たった今通りすぎたばかりの路地から爆風が巻き上がっていた。

咄嗟に振り返った僕の目に飛び込んできたのは、アクマに投げ飛ばされる小さな人影で。


「おんな、のこ…!」


頭で何か考える前に僕は、彼女に引き寄せられるように走り出していた。



































暗い、そう思った。


何がとは明確に答えることはできないけれど。




「ぐはっ…はぁ…!」




視界が霞む。

アクマに殴られた後頭部が、存在を主張するように痛みをはなっている。

背中に当たるひんやりと冷たい壁と、首にある圧迫感で自分がアクマに捕まったことを思い出した。


『案外呆気ないなァ!』

『ノア様は気をつけろって言ってたけどな!』


ギャハハハと、アクマ達の笑い声が響く。

普段ならテレポートで抜け出せるのだけど。
頭部からの出血と、全身に負った傷では、能力を使うことは難しそうだった。


『なぁ、ノア様は"なるべく"傷つけないように連れてこいって言ってたよなぁ。』


ふと、1体のアクマがニタリと口を開いた。

それに気付いた他の2体のアクマもニヤリと笑い返す。


『じゃあさぁ────ちょっとコイツで遊んでからでもいいよなぁ?』


僕の首を押さえ付けているアクマはグッと顔を近づけて笑う。

ぞくり、と、背中に汗が流れた。


『まず俺ェ!』


首を押さえ付けていた手がどく。

一気に喉に押し寄せる酸素。重力に従い、ずり落ちていく体。


「ぐッ…げ、はぁ、げほッ」

『どっかーん!』


ボキッ!と何処が折れた音がする。

ぼんやりとした頭で、自分はアクマに殴り飛ばされたことに気付くいた時には既に壁があって。

サイコキネシスで防御する間もなく壁にぶち当たった。


『ひゃはぁー!!楽しいなあ!』

「(ここで、終わりかな────)」


酸欠やら出血しすぎやらで靄のかかる頭で考える。
こんなことになるなんて、”予知"していなかった。

だけど、まだ"こっち"に来てから"彼ら"を見ていない。


「(僕は、彼らと出会っていた…。)」


だったら此処で終わるようなことはない。

だけど意識はもう限界で、やっぱりダメかもと思い始めた。


「もう、いいかも…ね、(誰も居ないんだ…たった独りなんだから…)」

「諦めたらだめだーーーッ!!」


霞む視界に、白 いや白銀が飛び込んできて。

そのなかにもう会うことができない"彼"の面影を見た気がした。

























「チッ、おせぇと思ったらアクマに会ったとはな…。レベル2は今のアイツには無理だろうな。」


がしがしと頭をかく。

正直めんどくせーが、今あいつに死なれると後で大変なことになる。

部屋のソファーのひじ掛けに座るゴーレム、ティムキャンピーによって伝えられた情報を整理する。


「小娘が1人、アクマ三体と対峙。馬鹿弟子がそこに介入…か。」


静かに立ち上がる。

本当に面倒だが、アクマに追われている娘、というのも引っかかる。































「君、は?」


辛いのだろう。

掠れた声で、崩れた瓦礫に埋もれたまま僕を見上げる女の子。

歳は僕と同じ位だろうか、真っ黒な瞳が印象的な子だ。
傷や出血が酷くて、全身黒ずんでいるから顔はよく見えないけど。


「大丈夫、です。」

「そんなわけ────」


上手く笑えてるかわからないけれど、彼女を安心させるように口元を緩めた。

ズドン、とアクマが路地からでてくる。


『ありゃあ?なんだか一人増えてるぞー??』

『本当だあー!』

『でもさぁー、捕まえるの黒い女だけでいんだろ?んじゃそこの白い奴、 殺しちゃおうぜ!』


ぞくり、と悪寒が走る。

今まで半年間、師匠と過ごしてきてが何度だってアクマを見てきた。

だけど、師匠もいない、誰もいない状態でアクマに挑むのは、初めてだった。


「(僕が…僕がこの子を…守らなくちゃ!!)」


ぐっと左手に力を込める。

だけど、少なくとも僕にはアクマに対抗できる力があって。

その力は彼女を守ることができる。


「大丈夫、」




自分に言い聞かせるように。

頼む、僕の対アクマ武器。
僕にアクマと戦う力をください。












(ピンチにヒーローが現れるなんて!)
2018.03.18

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