約束は彼の信念

「あ、ああああああぁあああ!!!!」




大音量で響いた叫び声に、僕の目が覚めたのは言うまでもない。























叫んでいたのはアレンだった。

ちなみにアレンは、クロスによって地面に沈んでいる。


叫んだアレンによって起こされ、不機嫌なクロスはまず初めにアレンにトンカチを投げ付けた。

目覚めたばかりの僕はどこからトンカチを取り出したんだろう、とか暢気なことを考えていたが。


「このッ馬鹿ッ弟子が!!!」


鬼も裸足で逃げだしそうな形相で、クロスは叫んでいる。

物凄く怖い。

超能力者としてのの本能が告げていた。

この人には何があっても逆らうなと。


「す、すみましゃん……。じゃなくてッ!!」

「あぁッ!?」


トンカチを真っ向に受け止めたアレンは、顔を青く染めあげながらも叫ぶ。

クロスに睨まれ多少怯んだけれど。


「なんで師匠はなまえと一緒のベットで寝ているんですか!?」


クロスに殺されかけても言いたかったのはそのことらしい。
僕に突き刺さるアレンの視線。

しかし、僕だって昨夜の記憶は殆どと言ってもいいほどなかった。

そっと、クロスへ視線を送る。
勿論助けを求めて、だ。


「クロス、」

「あぁ、お前は覚えてねぇーんだっけな…。」


ぽりぽりと頭を掻きむしりながら面倒くさそうに呟くクロス。


「覚えてないッ!?」

「…いちいちうるせぇ!馬鹿弟子!!」


ゴンッ!とそれなりに重たい音がした。

クロスは何故か苛々している。


「あ、アレン……?」


大丈夫?と続けようとしたが、それは叶わなかった。

クロスが僕の二の腕を掴み、自分の方へと引き寄せたから。

ベットから上半身を起こしていただけの僕は当然ベットへと沈む。


「えっと、クロス?」

「寝る。」

「は?」


きっぱりと簡潔に言われた。

さらにそれ以上は聞きたくないとばかりに目を閉じて夢へと堕ちる三秒前。

しかも逃がさないというように抱き寄せられる。

正直、窮屈だ。


「…あの、」

「………。」

「……もういいです。」


クロスを起こすのは早々と諦め、腕からテレポートで脱出する。


「起きないクロスが悪いんです、」


そう零して、倒れたアレンに近づいた。




























「超能力、ですか?」


口一杯に食べ物を詰め込みながら不思議そうに尋ねるアレン。
ちなみに、クロスのせいで彼の頭には包帯が巻いてある。

あの後、アレンの怪我を処置してからお腹の空いたというアレンの為に僕は台所に立った。

なんとか料理を作り上げた僕はアレンに自分のことを伝えるために椅子に座っている。


「うん、そうなの。僕はね、この世界では"異質な存在"、なんだ。」


もちろん超能力を有し、別な世界から来たという両方の意味を込めてだ。

もの凄い勢いで減ってゆく食べ物を眺めながら、僕は続ける。


「超能力はね、サイコキネシス(念動力)・テレポート(瞬間移動能力)・サイコメトリー(接触感応能力)を代表として様々なものがあるんだよね。」

「サイコキネシス、テレポート、サイコメトリー・・・ですか。」

「うん。僕はその三つの他にも幾つか超能力があるんだけど────」


ぴっと人差し指を立てる。


「サイコキネシス。物や人を思う通りに動かす。」


ふわっとアレンが、椅子ごと浮かぶ。

焦って椅子に掴まる彼が面白くて、そのまま話を続けることにする。


「テレポート。一瞬で思った通りの場所に移動させる能力。」


天井すれすれまでに浮かび上がっていたアレンの目の前にテレポートする。

アレンは間抜けな顔だ。


「僕自身だけじゃなくて、物や他の人も移動させられるよ。」


テレポートで、アレンを地面に戻す。
衝撃から抜け切れないのか、まだ呆けているアレンに思わず笑ってしまった。


「そして────サイコメトリー。」


右手をそっと、アレンの額に触れる。


「えっと…。クロスに拾われたのは2年前。それまでは"マナ"と……「ッ!なまえ!?」


アレンの心に驚きと────ほんの少しの恐怖が顕れる。

僕はぱっと手を離した。やってしまった。
調子に乗りすぎた。人の心を透視できるなんて。そんなの、気持ち悪がられるに決まっているのに。


「あ、ごめんね…。」

「あ、いえ…、」

「あ、アレンって、まだ14才なんだね……。僕と同い年だなんて、思わなかったな。」


勝手に透視して、知ってしまったアレンの心の傷。
親がわりであった"マナの死”と、左目の呪い。

それを誤魔化すように、話を振る。


「…え、なまえが!?」


椅子を吹っ飛ばして立ち上がるアレン。

僕は驚いた。

「う、うん。それが、どうかした?」

「…と、年上だと思ってて……。びっくりしました……。」


何故かアレンは机にうなだれている。

僕はそろそろと声をかけようと手を延ばす。


「なまえッ!!」

「は、はい!」


アレンは勢いよく顔を上げると、僕の延ばしていた手をぎゅっと握った。


「これからは、僕が君を────守ります!!」


力強い目で言われて、僕が頷くだけだったのは仕方ないと思う。

その時に、アレンが「特に師匠の魔の手から!」と考えていたのは心に秘めておこうと思った。


















(きらきらと眩しい君に、ほんの少しでも胸がときめいたのは、仕方のないことだと思うのです)




title from 彗星03号は落下した
2018.03.18

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