触れた琴線

僕がなまえと出会って、随分と経つ。

季節は幾度となく変わった。

師匠の気分に流されるまま各地を旅しているから明確にそうであるとは言えないけれど。































「ねぇアレン。」




部屋のソファーに俯せになりながら本を読むなまえ。

僕は、トランプを弄る手を止める。

床に座っていた僕は必然的に彼女を見上げる形で。

出会った時よりも柔らかな瞳にぶつかる。




「何ですか、なまえ?」

「そう、それだよ。」




何度か頭を小さく上下に動かし、一人で納得するなまえ。

・・・・最近分かってきたことだけれど、なまえはどこと無く変わっている。




「・・・・だから、何がですか?」

「敬語だよ、敬語。」




いつの間にか僕の目の前でなまえは腰に手を当ていた。

前からいきなりテレポートするのは止めてと言ったのに。




「敬語、ですか。」

「そう。アレンはさ、僕よりも年上なんだから僕に敬語を使う必要はないんだよ?」




ぷーと頬を膨らませ顔を近づけてくるなまえ。

そんな顔にもドキッとしたのは僕だけの秘密だ。




「そんなこと言われましても・・・。癖ですし・・・・。」

「そう、問題は癖だよ。」




なまえの顔が遠ざかる。

彼女は顎に手をあてて、何かを考えていた。

正直言って不思議だった。




「急に敬語を気にするなんて、どうしたんですかなまえ?」

「いや、急って言うよりも結構前から思っていたんだけど・・・・・・。」




困ったように笑いながら頬をかくなまえ。




「もしかして、困らせちゃった?」

「へ?」

「いや。難しい顔してるから、さ。」




なまえは眉を下げて、僕の眉間を突く。

そっと離れて行った彼女を呆然と見ながら僕は眉間を押さえる。




「そんな顔、してました、?」




何故か痛い所を突かれたように、心臓がドキドキしている。

他人でも分かるくらい、僕は焦っていた。




「うん。眉間にぎゅーと皺が寄ってさ。・・・・・アレン、」

「は い」




なまえの雰囲気が変わった。




「無理は、しないでね。」

「え、それは―――――」




なまえの表情が悲しげだった気がして。

僕は急いでさらに顔を上げた、けれど。




「・・・・いない、し。」




気まぐれだろうか、なまえの姿は少しも見当たらなかった。
































正直に、正直に言えば、少しだけ僕は罪悪感に苛まれている。




「別に、焦る必要はないはずなんだけど・・・・・。」




脳裏に浮かぶのは、悲しげな―――寂しげな――――ほんの少しの、怒りの混じったアレンの顔。

どうやら彼の表情は無意識らしいが。




「いらないこと、だったかなぁ。」




念力で街の上空を漂う。



僕がクロス・マリアンの弟子になってから、アレンに衝撃な発言されてから結構経った。

いくらか過ごす間に、クロスの人で無しとか、鬼のような性格とかあの人が悪魔なこととか色々知って―――――言ってて悲しくなってくる。




「アレンがあんな風なのも、全部クロスのせいだ・・・・・・・・。」

「何が誰のせいだって?」




はぁと息を吐き出し、地面に足がつくと同時に聞こえる声。

だらだらと冷や汗が流れているのがわかる。

念力と脚力でダッシュして逃げ―――




「逃げるわけねぇよなぁ?」




できなかった。

なんとか抵抗を試みようとする。




「・・・・何。僕ちょっと今から用事が「あるわけねぇよな。」




手首を純情じゃない握力で掴まれる。

ちらりと見たクロスのは、恐ろしいほどの笑顔。

ああ、無理だ無理だけど逃げない方がもっとやばい。無理だ。




「用事が「ねぇよな。」

「よ「いいから着いてこいッ!」




鈍い音と共に頭が揺れる。

殴られたと理解した時には既に僕はクロスの腕の中で。




「逃げたら、わかってるよな?」

「・・・・・・・・・」




襟首を掴まれ、ずるずると引きずられる。

地面が痛いな、なんて思う前に犯されるかも、僕。



















(どこかに残したそれに、)(未練などないはずなのに、)(何も、思わないはずなのに、)





title from 彗星03号は落下した

加筆修正:2018.03.18
2018.03.18

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