少女Aの原点

最近、京介と不二子お姉様がお屋敷に居ることが少なくなりました。



二人は軍職に着いたのだと、夕御飯の時にお義父様は嬉しそうに名前におっしゃいました。



お二人が幼少の頃から大日本帝国陸軍特務超能力部隊に所属していたのは存じております(名前も在籍だけなら一応ございますが)。

先の大戦でも、何度かお国のために助力したと、伺いました。


しかし名前は部隊からのお呼び出しは殆ど、ないに等しくて。


同じようにお呼び出しの少なかったはずのお二人は今や毎日のように部隊へとお呼び出されるのです。



お屋敷にお手伝いに来ている方々、お義父様とそのお客人は名前の聞こえないようにそっと囁き合うのです(名前は超感覚者なので聞こえてしまうのですが)。



また、戦争が始まると。

帝国軍が、世界を救うために戦争を始めると。



皆言うのです。



























「今日もとても空が綺麗ですね。」


「名前は本当に空を見るのが好きだな。」




何気なく口から零れた言葉に、応答がありました。


いつもなら気がつくのですが・・・・。


どうやら気づかない内に夢と現をさ迷っていたようです。




「どこまで自由に広がる空が――――名前には輝かしく感じられて仕方がないのです。」




やはりぼんやりとした感覚のまま、名前はお義父様へとお答えました。


お義父様は「そうか。」とだけおっしゃると、口を閉ざされました。




「お二人は・・・・・いつ頃ご帰還なさる予定なのですか?」


「・・・・部隊の方からは、もう二・三日もしたら一度本土へ戻ると連絡を頂いた。」


「・・・左様ですか。」




口をついたのは、ここ何日もの間にいつも名前の中に留まっている疑問でした。


一人になることの増えた名前へと、ふいに浮上するそれ。


お二人はお国の為に働いてらっしゃるというのに。

名前は、自分本位な気持ちだけでそう思うなんて。




「心配せずとも、あの子たちなら。」


「・・・・名前も、そう思います、」




しかし名前は、心の奥底に暗い不安が存在するのを確かに感じていました。

お二人の安否を信じている反面、その暗い一面を捨てられずにいたのです。


そしてそれは―――――名前だけの杞憂に留まらなかったのでした。




「だ、旦那さま!!」


「そんなに慌ててどうしたんだ?」


「部隊の方からご連絡で・・・・!!京介くんが、任務中に・・・・負傷なさったと・・・・・!!」




まどろんでいた意識が途端に覚醒致しました。


全身から血が全て消えうせたかのように思われました。




「なん・・・・だ・・・と、」


「部隊の都合上、こちらのお屋敷に連れて戻られるとご連絡が!」


「・・・・きょう、すけ、」




負傷だなんて、そんなに重傷なのでしょうか?

京介、京介――――――

嫌です、嫌ですよ、




「・・・・・・すぐに戻ろう。すまないが、名前を頼むよ。おそらく、その様子では動けないだろう――――」




その後はよく覚えていません。

まるで一枚の透明な壁越しに世界が朧げに見えたのです。

そして、次に気付いた時には京介の居るベットの前に立っていました。




「、名前?」


「きょ・・・うすけ!」




普段よりも数段も弱々しい声で、京介は名前を呼びました。

ふらつく足を必死に支え、名前は京介の元へと歩いていきます。




「どうして、」




ゆっくりと名前は京介の頬へ手を伸ばしました。

想像以上に冷たいそれに、名前は身をすくませました。

震える手を握られて、はっと京介の顔を見ます。




「そんなに、重傷じゃないんだ。ただちょっと・・・・気が緩んでいただけで。」


「・・・・・っ、」




ひとつ、ふたつと、シーツへと滴が垂れてゆきます。

京介が目に見えて狼狽しました。




「ご、ごめん!」


「謝らなくて、いいんです、」


「でも・・・・・・、」




違うです、京介。

私は悔しいのです。

貴方がこうして傷つくのを防ぐこともできず、ただ、待つのみなのが。




「このくらい、平気なんだ!だから、気にしないでくれよ・・・・・」




私は傷を軽くするぐらいしかできないのですから。




「傷、が・・・・・、」


「名前には、癒すことしか、できないのです。」




なんて、無力なのでしょうか。

名前は、いつまでも京介の背中しか見えないのでしょうか。




「名前・・・・・、」


「少し、席を外しますね、」




醜い考えから、この苦しさから逃れたくて、名前は部屋の外へと歩きました。

心配そうな京介に背を向けて。




「君は、・・・・名前君かい?」


「?貴方、は?」




廊下でお会いしたのは京介と不二子お姉様と同じ軍服を身につけた方で。

確か、名前の記憶が正しければ・・・・・




「お二人のいらっしゃる隊の、隊長さんですか?」


「知っていてくれたんだね。」




優しそうな、お方です。

京介がこの方を凄く尊敬しているのだと以前に聞いたことがありました。




「京介のお見舞いですか?」


「いや、それもそうなんだけれど。・・・実は君に伝えたいことがあってね。」


「なんでしょうか?」


「・・・・君の能力を、衛生兵として――――お国のために使って欲しいんだ。」




名前の、能力が―――――

必要と、されている?




「その為に、正式に陸軍特務超能力部隊に入隊して貰いたい。」




隊に、入隊すれば―――――ここで、待つだけの名前でいる必要が、なくなる。

不二子お姉様とも、京介とも、もっと一緒に居られる。

その魅力的な考えに名前の心臓は大きく跳ね上がりました。




「・・・・・・名前が、お役に立てるのなら、」




不二子お姉様や、京介のためなら―――――――――

そのためになら、"僕"は。







――――――――――――


今の原点になるお話です。
この話を軸に、物語は終戦までの道筋へと廻ってゆきます。

ルナ様のリクエストでした。
リクエストに応えられたでしょうか?

これからも、失った花嫁と愛を求めるマリオネットをよろしくお願いします!

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