ワンデイ
プールサイドの端でちらちらと反射する黒をみつけた。ゆらゆらと揺れる黒髪はそれ自体が生き物のようだ。
「名前!」
隣に座る澪が、僕の視線の先に気づく。
揺れていた黒髪は澪の声に合わせてゆっくりと動きを止めた。
「澪、・・・少佐、」
普段、船の中の部屋から滅多に出てこない彼女の肌は色白く、腰まで届く漆黒の髪と鈍い光を放つ真っ暗な瞳だけが浮き彫りになっていた。
僕が小さく手を振ってやれば、彼女は小さく頭を下げた。
「名前、君もこっちにおいで。たまには外の光も浴びた方がいいぜ?」
「あ、・・・・。また、今度にします、」
僕の言葉に数回口を開けたり閉じたりしてから、名前は視線を追うように顔を下げてそのままテレポートしてしまった。
「もう1ヶ月たつのになー。」
「そう焦るなって。仲良くしてやってくれよ。」
拗ねた表情で呟く澪。
カズラやカガリも似たような表情である。
あんな反応をされて拗ねない人物はあまりいないだろうが。
「じゃ、僕も用事あるからさ。」
「はーい。」
以前としてプールの中で泳ぐ子供たちを置いて、目標へと歩き始めた。
目標はそう遠くない場所に居た。
「あぅーー。私バカだなぁ・・・。」
角の物陰で、体育座りをしながらしきりに頭を振っている。
はたから見ると長い黒髪だけしか見えないから幽霊のようだ。
「うぅ・・・、せっかく澪が誘ってくれたのに、(・・・・少佐だって、手、振ってくれたのに、)」
「手振るのくらい何時だってしてあげるさ。」
「!?!?」
僕へと真っすぐに向けられる瞳。
先程とは違い、その目には光が宿っている。
頬は羞恥心によるものか、林檎のように赤い。
「しょ、少佐・・・・!!(もももしかして今の聞かれてた!?!?)」
「ばっちりだよ。」
「!透視するなんてず、ずるいですよ!おお大人げないです!!(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)」
真っ赤に顔を染めたまま、彼女は自分を瞬間移動させて距離をとった。
その様子になんだか子猫が警戒心をあらわにしている姿を連想した。
あながち間違ってはいないと思うが。
「何も逃げなくなっていいじゃんか。」
「わ、私のことなんて放って置いて下さい!(あーまた誤解されちゃう。そんなこと、言いたいわけじゃないのに・・・・)」
僕が歩み寄る分名前も徐々に僕から遠ざかる。
・・・ゆっくり待つなんてじれったいな。
瞬間移動してしまおう。
「!!」
「それと、僕は精神感応能力も使えるからね。君が極端な上がり性だとか赤面性だから皆と顔を合わせようしないとか実は声を掛けようとしてみたけどなんて言ったらいいのかわからなくて結局言えなくて挨拶しようとしたら声が小さ過ぎて聞こえなくて返事がなくて傷付いたこととか・・・・その他諸々、全部筒抜けだよ。」
「〜〜〜〜〜〜!?!?」
至近距離にある名前の表情はこれ以上ないというほど真っ赤になった。
清々しいほどに良いリアクションで非常に楽しい。
「別にいじめるために君を探していたわけじゃないんだ。」
「、え?」
「ゆっくりで大丈夫だからさ、皆だって仲良したいと思ってるんだから。」
名前の背中に腕を回して、引き寄せる。
子供をあやすように数回軽く背中を叩いたら、僕の肩から泣き声が聞こえた。
「う、ぅう〜〜ぁ〜〜〜ん!!」
「変な泣き方だな。」
僕が笑えば、少しだけ名前の泣き声が小さくなった。
どうやら気を使ったらしい。
「あーー!!少佐が名前を泣かせてる!!」
「うわっ!君達!」
泣き声を聞き付けた澪たちが僕を指差して文句を言いはじめた。
確かに泣かせたのは僕だけど、泣かせるつもりはなかったんだけどなあ。
「大丈夫か、名前!?」
「少佐に何かされたの!?」
僕から引き離された名前は口々に質問を浴びている。
緊張して、顔を真っ赤にさせたまま頭を振るだけだが。
「ま、仲良くしてやれよ。」
「?当たり前じゃないですか!」
「!」
澪の返事に、名前の表情が嬉しそうに輝いた。
もう、大丈夫だろう。
「じゃー、?」
軽く右手の袖を引っ張られて立ち止まる。
名前と目が合った。
顔を真っ赤にしたまま口を開けたり閉じたりしている。
「あ、あ・・・・・!!」
「!ふふ、どーいたしまして。」
透視すれば、簡単なことだった。
「ありがとう」と伝えたかったらしい。
「頑張って、素直になれよ。」
なぁ、名前?
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思徒さまのリクエストでした!
素直になれないヒロインということで必死にツンデレしか思い付かない頭をひねりました。←
素直になれたの、かな?←←
企画に参加頂きありがとうございました!
これからも失った花嫁と愛を求めるマリオネットをよろしくお願いします。