ひとりになんてさせない
彼はよく口にしていた、「もっと高いところへ行くんだ」と。小さくリビングの扉が鳴く。
リビングのテーブルでパソコンを眺めていた皆本は人影へと視線を移した。
「眠れないのか?」
「・・・・、別に、」
ゆっくりと椅子を引くと向かいの席に座った少女は皆本へと小さく息を吐いた。
中身は80近いが、意外と見た目通り可愛いところもあるんだなと皆本は思った。
まあそんなことを言ったら睨まれるんだろうが。
「・・・・今、失礼なこと考えてたでしょう。」
「い、いや!そ、そんなことは・・・・!!」
じっと、冷めた目を向けれて皆本は慌てた。
そんな皆本を眺めて、少女は小さく息を吐いた。
そういえば、こんなやりとりをするのは久しぶりかもしれない。
世界でも稀な高超度予知能力を持ちながら念動能力、瞬間移動能力、接触感応能力といった複数の能力を持つ併せ持つ少女にはさまざまなところから単独任務の要請がくる。
普段は「ザ・チルドレン」として出動しているが最近、といか中学生になってから単独任務、しかも海外での任務が急増したため顔を合わせることが少なくなっていた。
作業のためにつけていた光が、彼女の顔をぼんやりと映し出した。
「(こいつ、こんなに大人びていたっけ、)」
「皆本、・・・・モナーク王国で、京介たちに会ったんだよね、」
「?ああ。」
「・・・・・・京介のそばに、茶髪でオッドアイの日系コメリカ人いなっかった?」
「ああ!そういえば、いたような・・・・・。それが?」
少女は再び小さく息を吐いた。
そして、皆本は少女が何かを話そうか迷っていることに気づいた。
少女にしては珍しく歯切れが悪いからだ。
「予知を、視たの。」
「!?」
「・・・・皆本、お願いがあるの。パンドラを・・・・・京介を助けて!!」
「何を言って・・・・・!?」
皆本は言いかけた言葉を飲み込んだ。
少女の瞳からは、涙があふれていた。
「僕じゃ・・・・・私じゃ、「隊長」には太刀打ちできないの!!だからお願い、バベルの力を貸して!!」
「どういう、」
「もう嫌なの・・・・。また、救えないのは・・・・!!」
彼はもう、十分に苦しんだはずなのだ。
なのに再び、全てを奪おうなんて。
少女は引き裂かれるような痛みに耐えていた。
目を閉じれば浮かぶ予知のイメージ。
オッドアイの青年の裏切り――
伊号を挟んで対峙する青年と兵部――
奪われた伊号――
荒らされるカタストロフィ号――
海に沈んでいく船――
上官により撃たれる青年――
そして海へと落ちていく――
『いくんだよ僕たちは もっと もっと――高いところへ』
「お願い、京介を助けて・・・・・・」
少女は声を震わせ懇願した。
彼女の小さく細い肩が小さく震えていた。
皆本は生唾を飲み込んだ。
彼女の願いは間違ってる、兵部は犯罪者でありパンドラも犯罪組織である。
それを救おうなど、政府組織としてはありえないことだ。
「・・・明日、管理官に伝えよう。きっと、わかってくれる。」
「みなもと?」
「・・・・・、僕らはパンドラを壊滅させたいわけじゃない。僕らは、兵部を逮捕することが目的なんだ。大丈夫さ。」
きっと賢木には甘いって笑われるだろう。
だが、皆本はこの少女の願いを無下になどできなかった。
京介、僕らは化け物なんかじゃない、
僕らの、私たちの力は宝物だって教えてくれた
また飛べるんだって、皆本のおかげでそう思ったんだ
だから、私が証明してみせる
「一緒にいこう、もっと、高いところに」
ひとりになんてさせない
2018.03.21