俺たちと彼女が出会った話

終末医療介護専門(ターミナル・ケア)国立ホスピス


俺たちが初めて名前殿に出会ったのは、まだ、自分たちが何者かもわからなかった時。

底の見えない暗さと切なさと哀しさを抱えた瞳が印象的だったのを、よく覚えている。





「こちらは名前ちゃん。」

「初めまして。ティム、バレット。」

「はじめ、まして。」

「……初めまして。」

「どうも。」


蕾見管理官と末摘一曹に連れられてやってきた彼女。

温度のない声で挨拶をした後、まっすぐと俺たちを見つめる瞳に俺とティムは居心地の悪さを覚えた。
暗くて、感情の読み取れない瞳だった。


「この子は苗字名前。あなたたちと過去に、とある事件で関わった特務エスパーチームの一員よ。」

「……一応、ね。」


彼女───苗字殿は、ひらりと軽く手を振った。
おおよそ通常の子供とは言い難い表情の乏しさだった。

間違いなく美少女に分類されるだろうその顔立ちは、その雰囲気によってまるで人形のようにも見えた。なんとなくあまり使いたくない表現だが。


「一応?」

「まあまあ!その話はあとあと!今日は、名前がちょっとしたカウンセリングをしてくれるから!」


苗字殿の肩を引き寄せて、蕾見管理官が笑う。
管理官の豊かな胸に半ば顔を埋められる形となった苗字殿は微動だにしない。



「カウンセリング?その子、俺たちと同じ年くらいに見えるけど……。」

「名前は複合能力者で超度7の精神感応能力を持っているの。超感覚は国内の超能力者の中でもかなり強力よ。それに、見かけに惑わされないことね。」


蕾見管理官がニヤリと笑う。

先ほどまで人形のように表情のなかった苗字殿だったが、蕾見管理官に回された腕を見て、鬱陶しそうな表情をしている。


「名前ちゃんは蕾見管理官と同じく戦前生まれです。」

「「は!?」」


末摘一曹の補足に、思わず苗字殿を凝視するとため息を吐かれる。

管理官も若い女性にしか見えないが、苗字 殿も俺たちと同じか…小柄なので年下かもしれない。


「いーから。やろうよ早く。」

「はい。では、バレット君からはどうですか?」

「どっちでも……。あそこの部屋、借りるね。」

「了解しました。」


苗字殿は末摘一曹の返事を聞くと、こちらを振り向かずに歩き始めた。

俺は同じように戸惑うティムへと視線を送ってから、すぐに後を追った。


「何個か質問したら終わるから。固くならなくて良いよ。」


俺が部屋に入るなり、苗字殿は抑揚ない声で告げた。


「……はい。」

「僕は接触感応能力者でもあるけど、精神感応能力の方が超度が高いんだ。だから君は、リラックスしてそこに座っているだけで良いよ。」


名前殿はテーブルを挟んで向かいの席を俺に勧めると、静かに目を閉じた。

重い沈黙が降りる。

というか、このシュチュエーションは2次元の美少女と個室で2人きりイベントとほぼ同じでは!?あ、なんか緊張してきた……。
いや、でも待て。さっき管理官や末摘一曹は戦前生まれとか言わなかったか?でももしかしたら冗談かもしれないが……「手を出すなよ」と牽制の意味があったのか?いや、管理官も若々しいしもしかしたら……。


「僕が戦前生まれなのはほんとだけど。」


み、透視られたーー!!

そして思春期の複雑な男心を透視られたのに、顔色が全く変わられてないのも何か複雑だーーッ!!


「?いや、一回死んだだけっていうか……。」

「え、死?」


苗字殿は、少しあらぬ方向へと視線を漂わせてから横目で俺を見た。


「あ、うん。……君は、何がすき?バレット、僕は君のこと知りに来たんだ。」

「銃とか…サバゲー…、」

「ここの施設、実物触ったことある人も多いから話しかけてみると良いよ。」


ぽつり、ぽつりと繰り返された会話は、案外悪くないものだった。












苗字殿は、思い出したかのように突然訪ねてきては、俺とティムと話して、施設の人たちと少し話して、また帰っていった。

初めこそ三次元の美少女ということもあって、緊張していた俺たちだったが。苗字殿と接していて「三次元の美少女だが、なにかちょっと違う…。」となるまでは早かった。

美少女ゲーに登場する”とある事情で暗い過去を持つが故に、機械人形とかあだ名をつけられてしまうほど無表情だったが、主人公と出会うことで人の感情を思い出していく美少女キャラ”みたいで萌えではあるといえばそうなのだが。

この話については何度もティムと話しているが、「まあ苗字(殿)だし」みたいな雰囲気で終わる。
だいたい彼女は俺たちより数十歳上だ。精神年齢は本当に見た目と同じように感じるが…。

現実はやっぱりクソゲーだ。


「あ、ティムくん、バレットくん。今日、名前ちゃん来るみたいですよ。」

「今日?この前も来ませんでしたっけ?」


角部屋のお婆さんに修理を頼まれた人形から視線を上げたティムが、末摘一曹殿へと顔を向けた。


「そもそも、苗字さんって普段何してるんですか?」

「学校に通いながら、特務エスパーの任務をこなしていると思いますよ。」

「特務エスパー、ねえ……。」

「……特務エスパーには、担当の指揮官が就くと聞きました。」

「そういえばあの人、誰とチームなんですかね?」

「私もあまり詳しくはないんですけど、たしか…」


顎に指をあてながら斜め上を見上げる末摘一曹殿。

その背後から艶のある声が飛び出してくる。


「あら?2人ともB.A.B.E.L.に興味出てきた?」

「「「蕾見管理官!」」」

「私一人じゃなくってよ。」

「……どうも。」


やや面倒そうに片手を上げた名前殿の肩を引き寄せて、蕾見管理官がにっこりと擬音が聞こえそうなくらいに笑う。


「この子はね、「ザ・チルドレン」の一員なの。」

「ではあ、あなたが!!」

「俺たちを!」


「ザ・チルドレン」。
俺とティムにとっては、忘れられない名前。

隣で俺と同じく勢いよくティムが立ち上がっているのが視界の端に見えた。


「……。君たちを救ったのは、「ザ・チルドレン」。「明石薫」「野上葵」「三宮紫穂」。……僕じゃない。」


名前殿は、いつも以上に表情を削ぎ落とすと蕾見管理官の腕を肩から外した。


「でも!蕾見管理官はあんたも「ザ・チルドレン」の一員だってさっき……!」

「少しだけはね。……今はもう違うよ。」


名前殿は呟くようにそれだけ告げてふらりと部屋から瞬間移動していった。

蕾見管理官は小さく微笑った。アニメに登場する、子を想う母親のような顔で。


「ああ言ってたけど、あの子が「ザ・チルドレン」だったのは本当。初めてあなた達と会った頃は実際チームでの任務にも着いていたし。……でも、最近チームから外れてね。一人で特殊任務についているの。」

「特殊任務?」

「超度7の予知能力者は貴重なのよ。……高超度の複合能力者もね。」

「……。」


俺とバレットは顔を見合わせた。


「あら!?名前に興味出てきちゃった感じ!?」

「お嬢…管理官…、年頃の子にそんな言い方はどうかと……。」


目を輝かせて(あるいはギラギラさせて)、俺たちに顔を突き出す管理官殿。

正直、おっぱ…が、目の保養…あ、いや、迷惑だが……。


「でも、あの子と仲良くなりたいなら、姉であるこの私と、ひねくれた幼馴染を倒してからになるから。覚悟することね。」

「いや…だから、俺たちそんなつもりないですけど……。」


元の姿勢に戻ると1人で納得したように、腕を組んでいる。

ティムがため息をついた。

なんとなく、苗字殿が消えた後を見ていた。




だが、苗字殿はそれ以降、俺とティムの元へ訪れることはなかった。

俺たちはその後、蕾見管理官殿から「ザ・チルドレンのバックアップ任務」を提案されて任務に明け暮れているが苗字殿とは未だ会えていない。 2024.02.25

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