謎のティーンガール
※珍しく甘気味※アンディーと見せかけた少佐の独壇場
※軽率にそういう雰囲気になります
「君だね?アンディ・ヒノミヤ。」
妙にご機嫌そうな、女の子の声で呼ばれた俺の名前。
反射的に振り向いた俺の視界に映ったのは、顔立ちは東洋人だが、東洋人の象徴とされる真逆な色を身にまとうティーンの少女だった。
…見たことねぇ顔だ。
「んぁ?誰だ、お前。」
肌は病弱さを思わせるように白く、さらりと肩を流れた髪も白髪。
東洋人のなかでも整っているだろうと推測がつく愛らしい顔立ち。
そしてどこか、虚を内包する瞳。
これだけの特徴で言うと、まるで兵部のようだが…。
「急に話しかけてごめん、ごめん。」
小さく肩を揺らす様が、ますます兵部の姿が重なる。
なんだ…コイツ。
「名乗るほどの者じゃないよ。」
「っ!?」
瞬きをする間に、俺の眼前へと移動してきた少女。
もの凄い速さで加速した、というよりも文字通り「一瞬で移動した」。
つまりだ。こいつ、超能力者…瞬間移動能力者か!?
「へぇ。…これが京介にもらった「リミッター」だね。」
じりっと、思わず一歩下がった俺を他所に、少女は胸元で光を放つリミッターを、指で突きながらじっと見つめている。
っ、んで、これのこと…!
てか、今コイツ、兵部のこと、下の名前で呼ばなかったか…?
素早く浮かぶ疑問の数々に、少女は嬉しそうに笑った。
…人が困惑しているところを見て、笑うなんてますます兵部のやつみたいだな。
「ふふ、「なんで?」って顔してるね。…まあ怪しいものじゃないから、「これ」はやめてほしいな?」
「あ!てめっ!!」
リミッターのことで俺が混乱した隙…はなかったと思うが、まあ少し意識が逸れた瞬間に、俺の懐から奪っただろう銃が少女の手元にあった。
ティーンの少女に不釣り合いなはずのそれを、慣れた様子で持つ少女。
元軍人、現役捜査官を相手にしてこの様子────、コイツやっぱり、只者じゃねぇーな。
こちらを挑発するようなこの余裕たっぷりの感じ───、ほんとに兵部みてーだ。
少しだけ唇を尖らせた少女は、先ほどの上機嫌な声はどこにいったのか、同じく少しだけ刺々しい声を発した。
「あと、ちゃんと訂正したいんだけど、僕、京介ほど性格悪くないから。」
「!?」
接触感応能力…いや、精神感応能力か!?
ただの合成能力者なら、まだいいが…。兵部の知り合い(しかもかなり親しそう)なら…兵部のような高超度の能力を兼ね備えた複合能力者の可能性もある。
…?待てよ、確か今回の任務の資料に、確か兵部と幼馴染だっていう少女の超能力者が────、
「それ以上、」
「!?」
「考えちゃだめ。」
ひやり、とした少女の指が左頬を薄く撫でている。
少女の双眸は、確実に俺の左目に向けられている。
背中を冷たい汗が流れていくのを感じた。
こいつ…!本当にどこまで…!
少女の黒い瞳にいる俺の顔は、潜入捜査官とは思えないほど動揺した顔をしていた。
少女は、なぜか痛ましげな表情を浮かべている。
「今は、僕は邪魔をしにきたわけじゃない。…君に会ってみたかったんだ。」
「京介に…友達ができそうだって予知えたから。」と、小さな声で少女は呟いた。
…あいつ、こんな子供に友達の心配されてんのか?
…その言葉にも、ちょっと衝撃がでかいんだが。…すっげー気付きたくないことに、気付いてしまった。
身長差のある俺の目を見つめているため、見上げる形となっている少女。
少しだけ背伸びをしているのか、少女の柔らかな成熟中の体が────お、俺の体にあ、当たって────!
いや、落ち着け!どー見たってティーンだろ!確かにちょっと発育がいーかもしれねーが!子供の体と少し触れ合ったぐらいでどーこーするなんて…!!
「?アンディー・ヒノミヤ?」
てか、なんなんだよ本当にコイツ!
体や顔つきはティーンなはずなのに(確かに漂わせている雰囲気がティーンのガキじゃないが)。
妖艶な女の色気とはまた違う、決していやらしくない慎ましかな色気っつーか…。
って!本当俺なに考えてんだ…!?
「?…へっ!な、なに考えて…!!」
俺の思考を透視んだのか、少女の顔が、が朱へと染まる。
少女の手が、俺から離れる。
少女に熱を奪われた左頬だけが、やけにひんやりとしていた。
「何か楽しそうなことしてるね?僕も入れてくれよ?」
「げ」
「ひょ、兵部!!」
楽しそうとか言っているが、口調は全然そういう感じじゃない。
絶対今機嫌悪いだろ。その顔からして。
口元引きつってんぞ。
目の前に立っていた少女は、いつのまにか間にか兵部の腕の中に移動している。
あれほど余裕たっぷりだった少女は、顔を青白くさせ、自らのお腹に回されている兵部の腕(という名の拘束具)を外そうともがいている。
「もー!なんで来ちゃうのかな!僕は今日、アンディー・ヒノミヤに会いに来たんだよ!」
「へー。」
「京介じゃなくて。アンディー・ヒノミヤ!」
「ふーん。」
「とりあえず、離して…!アンディー・ヒノミヤに話があるんだけど!」
「嫌だね。」
あー、頼む。それ以上、俺の名前を連呼しないでくれ。
少女の角度からは見えないだろうが、君が何か言葉を発するごとに、ただでさえ大人気ない兵部の表情がめちゃくちゃえげつない顔してるから。
兵部は少しだけ屈むと、少女の首元へと顔を埋めて────お、お前!何歳差だと思ってんだ!?
見た目的に許されるからっていいと思ってんのか!?
それ絶対ティーンの女の子にやったらダメなやつだろ!?
「っ、!だっ…ぁ…。」
「ん?なんだい?」
「ぃ…や…っ。んっ、」
おいおいおいおいおいおいおい。
なにしてんだまじで!!!!!!!!!!
首元に顔を埋めたまま、呼吸を繰り返す兵部と、顔だけでなく、本当に全身を真っ赤にした少女。
発せられる声は、先ほどの少女らしい声ととても思えない色のあるものだ。
浅い呼吸を繰り返し、きっと少女を襲う感覚から逃れようと体を仰け反らせているんだろうが…。
その姿勢だと、元凶に近づくだけってわかってんのかな…。
対する元凶は、一向に首元から動かないどころか、楽しくてたまらないという表情で少女を見つめている。
…お前もなんつー顔してんだよ。
「なあ、なんでヒノミヤのところに来たんだ?」
「っべ…つ、に…、ぅ、」
「とぼける気かい…?」
「っ、ち…が…ぅ」
「君が動くときは、必ず意味がある。…だろ?」
「も…やぁ…!」
息を乱しながら、力なく兵部にもたれかかる少女。
兵部は、満足げに一つ鼻を鳴らすと、さらに少女を自らの方へと引き寄せた。
…この姿だけで見ると、完全にダメなやつだろ。
「お前なぁ…。」
「なんだ。居たのかヒノミヤ。」
少女を腕に抱えたまま、俺を睨みつける兵部。
はいはい。そんな睨まなくてももう近づかねーっつーの。
本当にガキみてーなやつだな。
「お前が来る前から、居たっつーの。…んで?その子は?」
「見るな。忘れろ。」
「はぁ?」
お前にそんだけ言わせるその子は、だから誰なんだよ!!
「近づくなロリコン。」
「お前にだけは言われたくねえ!!!!」
2019.01.25