昔話3
「まったく。そんな顔するくらいなら最初から喧嘩なんてするな」

今日、練習があったら一発で二軍に降格させていたぞと赤司にすれ違いざまに言われる。いつからここに居たことに気づかれていたのだろうか。きっと、赤司のことだから最初から分かっていたに違いない。

「俺に嫉妬してる暇があるなら、はやく藍原と仲直りしろ」

図書室の扉が閉まる直前にそんな言葉が聞こえた。言われなくてもそうするつもりだと思いながら規則正しく並ぶ本棚の間を進む。自然としずくの元へ向かう足が速くなるのが自分でも分かった。

「しずく?」

本棚の間を抜けると机がいくつか並んでいる。その中のひとつの机でしずくがうつ伏せになって眠っているのを見つけた。しずくの肩にはジャージがかけられていて、おそらく赤司が掛けてたのだろう。先ほどまで赤司が座っていたであろう椅子に座り、泣いてしまったために目元まで赤くなったしずくの頬をそっと撫でてやる。しずくは寒さからなのか、それともくすぐったさからなのか、逃げるように肩にかけられたジャージを握りしめて顔を埋めた。とても安心したような、どこか嬉しそうなの寝顔しずくを見てこのジャージの持ち主であろう赤司にまた嫉妬してしまいそうになる。気持ちを落ち着かせるために、窓の外の景色を見る。外は太陽が沈みかけていて太陽を追いやるかのように夜空が広がり始めていた。

『緑間、くん?』

しばらく外を眺めていると、突然隣から声が聞こえた。寝起きのせいで意識が覚醒していないのかぼーっとしながらこちらを見上げてくるしずく。手を伸ばしてきたかと思えば、机に乗せられた俺の手にそっと触れた。

『緑間くんの手だ』
「他に誰がいるのだよ」
『私の夢かなって思ったから』

えへへ、と控えめに笑うしずく。いつもと変わらぬ態度に少し安心する。

「すまなかったのだよ」

はやくいつもの関係に戻りたくて謝るとしずくは一瞬きょとんとした顔をしたかと思えば、すぐに大慌てで謝り始めた。

『緑間くんだけが悪いんじゃないよ!緑間くんが嫌な思いをしてることに気がつけなかった私も悪いかったから』

ごめんなさい、としょんぼりするしずくの姿は母親に怒られた子供のように見える。

「いや、今回は完全に俺が悪かったのだよ」
『緑間くんだけのせいじゃないよ。私も悪かったの』
「いや、俺だ」
『違うよ』

同じようなやりとりをしばらく繰り返し、急に静かになったかと思えば俺としずくは同時に笑い始めた。

「いつまでたっても埒が明かないのだよ」
『そうだね。もうお互い悪かったってことにしようか』
「許してくれるのか?」
『だって、お互いに悪かったんだもん。もちろんだよ』

それに緑間くんがヤキモチ焼いてくれちょっと嬉しかったから、としずくがちょっと照れくさそうに話す。少しは妬かされるこっちの身にもなってほしいと思ったがいつも通りに戻ることができてよかったと心から思った。


握られた心臓


『このジャージ、緑間くんのだよね?貸してくれてありがとう』
「赤司のではないのか?」
『え。そうなの?緑間くんの香りがしたからてっきり緑間くんのだと思ってたんだけど…ほら!名前のところに緑間くんの名前があるよ』
「赤司…いつの間に俺のジャージを持ち出したのだよ」
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