戀という字を分析すれば いとしいとしと言う心 2
彼女とふたりで夕食の準備をしているときのことだった。

『ねぇ。歌仙』
「なんだい?」
『恋って、どんなものなのかな?』
「は?」

予想外の話に、僕はじゃがいもの皮を剥いていた手を止めて隣に立つ彼女を勢いよく見る。僕の反応が気にくわなかったのか、彼女は不機嫌そうな顔をしていた。

『な、なによ。その反応は』
「いや、まさか君の口から恋という言葉が出てくると思っていなかったものだから驚いたんだ」
『失礼ね。これでも華の女子高校生なんだから』
「それは関係ないだろう?」
『関係ある!』

リスのように頬を膨らませてムキになる彼女の癖は昔から変わらない。歌仙に聞いた私が馬鹿だった、と彼女は不貞腐れながら人参の皮むきを再開する。
そうだなぁ...きっと恋とは、

「自分の世界を変えてしまうもの、なんじゃないかな」

これまで見えていなかった景色が見えてきたり、価値観が変わったり、これまでの自分の性格さえも変えてしまうもの。今の僕に出せる答えはこれが精一杯だ。

『歌仙は、恋したことがあるの?』
「いや、ないよ。今のは「僕が本を読んだり実際に見たことをまとめて導き出した答え」といったところかな」
『そっか』
「まさかとは思うけど」
『ん?」
「好きな人ができた、とか?」
『できたって言ってほしいの?』
「いや...もし本当にそうだったら今から赤飯に変えなければいけないなぁ、と思って」

今の僕はいつも通り笑えているだろうか。この話題になってからというもの。どういうわけかさっきから胸のあたりが苦しくて仕方ない。

『残念ながら、まだいないよ』
「そ、そうか」
『安心した?私に好きな人がいなくて』
「まさか」
『本当?』
「本当だよ。ほら、無駄話してるからこんな時間だ。急いで作ろう」
『はーい』

僕は彼女に嘘をついた。本当は、心の底から安心したんだ。君は女の子だから、いつかはここからいなくなってしまうのだと自分の頭では理解しているのに。僕の心はそれをすんなりと受け入れてくれないから困る。

この気持ちに蓋をすることができたなら
どんなによかったことだろう。
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