ああ気に入らねえよ、悪いか
岩ちゃんにボールをぶつけられてしぶしぶ試合会場に入れば、何人かの他校生に声をかけられているつららを見つけた。どうしてあの子はあんなに声をかけられちゃうかな。隣の岩ちゃんも同じことを思っているに違いない。ふたりでため息をついてつららを連れ戻しに行く。笑顔で呼びかければ、同じく笑顔になるつららとは対照的に顔を真っ青にする他校生。それなりに俺たちも強豪校だし、今は俺の隣に岩ちゃんが居るから怖さが倍増ってところかな。でも、去り際にちゃっかりつららの名前を呼んで手を振っていくものだから思いっきり睨んでやった。

「篠原、大丈夫だったか?」
『うん。でも、ふたりが来てくれて助かった』

アドレス交換しようって言われて困ってたんだ、と苦笑しながら言う。俺はふたりのやり取りをただ黙って見ていた。どうしてこの子には危機感というものがないんだろうか。いつも俺や岩ちゃんが助けてやれる訳じゃないのに。
何も言わずに突然、手を取って引っ張って歩き出せばつららは驚きながらも簡単について来た。岩ちゃんが後ろで何か言っていたけど、すぐに戻るからそこで待っててと返して、ひと気のないところにつららを連れて行く。

『徹くん、どこ行くの?』
「ごめん、つらら。ちょっと黙ってて」

自分でも驚くほど低い声だった。もしかしたらつららを怖がらせたかもしれない。だけど、つららの方を見る勇気は今はなかった。ひたすら通路を歩いて、ようやく行き止まりになって立ち止まる。

『わたし、何か気に入らないことしちゃった?』

いつもよりも小さくて、震えたつららの声。
何かした?あぁ、したよ。つららはいつも簡単に俺の心を掻き乱す。なんでそんな簡単に他の男を信じるの。どうして誰にでも可愛らしい笑顔を振りまくの。

「うん。気に入らないよ、何もかも」

自分勝手だってことはわかってる。でも、つららの所為でもあるんだよ。下を向いて俯いているつららの体を正面から抱きしめる。どうやったらつららは俺のことを見ててくれる?つららの世界から俺以外の存在を消してしまえばいいの?ねぇ、誰か教えてよ。





『徹くん、何か変だよ』
「ごめん。全部忘れて」
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