SEE YOU 8
メル宛てに残した手紙は今日の分で最後。
この後、僕が消えるといったらメルはどんな反応をするだろうか。
『な、何、言ってるの?』
「だから、僕は今日で消えると言っているんです」
彼女が持っていた洗濯カゴが音をたてて落ちる。
『だって、そんなこと一言も・・』
「はい。言っていませんでした」
僕の自分勝手な行動にメルは怒るだろうか。それとも泣いてしまうだろうか。しばらくの沈黙の後、彼女がぽつりぽつりと話し始めた。
『レギュラスは、いつもそうだよね。大切なことはぎりぎりになっても言ってくれない』
顔をあげたメルは目に涙を浮かべながらも、泣くまいとしていた。
『私は、何のためにレギュラスのそばにいたの?』
その言葉を吐き捨てて、メルは自分の部屋へと行ってしまった。
僕が伸ばした手を、通り抜けて
***
自室に戻り、ドアに背を預けて泣いているとレギュラスがドアの向こうから声を掛けてきた。気持がぐちゃぐちゃすぎて、素っ気ない返事しか返せない自分が嫌になる。
『通り抜けられるんだから、入ってくればいいじゃない』
可愛くないなと自分でも思う。近くの机の上に置いていた、最初の手紙に一緒に入っていた懐中時計を手に取る。まじまじと改めて観察していると、レギュラスが再び声を掛けてくる。
「メル、その懐中時計を開けてみてください」
言われた通りにカチッと開けると中には、今やお馴染となった手紙があった。いつもより小さく畳まれた手紙を丁寧に広げていく。まず最初に目がとまったのは手紙に記された日付。
『この日って・・・』
レギュラスが死ぬ前日の日付が記されていた。
“メルへ
今日で君への手紙は最期になります。だから、この手紙に改めてメルへの想いを綴りたいと思います。
でも、その前に。貴女を置いて先に旅立ってしまうことを謝っておきます。ほんとうにすみません。
メル、僕は貴女に会うことができて幸せでした。明日には死ぬというのにメルのことを考えていると、幸せな気持ちになれるんです。だけど、後悔もしているんです。どんな未来もメルと一緒に見たかったし、結婚式を挙げて、幸せな家庭を作りたかった、ってね。
昔、メルが僕に「レギュラスの夢は、私の夢だ」と言ってくれたのを覚えていますか?僕はすごく嬉しくてずっと覚えています。さて、この言葉を贈ってくれたメルにお願いがあります。
幸せになってください
そして、
僕のことを忘れないでください。
これまで散々、忘れてほしいと手紙に書いてきましたがやっぱり忘れてほしくありません。最初は僕だけでも覚えていればいい、と思っていましたが、忘れられてしまうのはつらいです。自分勝手ですみません。
もうメルの隣に立つことも抱きしめてあげることもできなくなるけれど、こんな僕を愛してくれてありがとう。
本当にしあわせな時間をありがとう。僕はメルの幸せを誰よりも願っています。
そして、メルをずっと愛しています。
(追伸 この手紙を読み終える頃には、記憶の僕は消えてしまっていることでしょう)
R.A.B ”
全てを読み終える前に、後ろのドアを急いで開けた。
だけど、
ドアの向こうには誰もいなくて
小さな指輪が落ちているだけだった。
SEE YOU
(優しくなるための サヨナラ)
(僕だけの幸せをくれたひと)
(いつかまた会えるまで)
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曲:【SEE YOU /松下優也】
9/19
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